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プロローグ⑥:昼休み

ロリアンはギルドの癒し手――半エルフの聖職者、ミレーユから《軽傷治療》を受けている。


「ありがとう……だいぶ楽になった」


手のマメや膝の傷、疲労感も消えた。


グランナが合格者たちに告げる。


「治療が必要な者は癒しの区画へ。それ以外はギルド棟内へ。1時間半の昼食休憩を取る」


ロリアンは建物内へ向かう。食事の列は思ったより短い――脱落者たちは先に食べたらしい。


5分後、順番が来る。厨房係からパン、イノシシ肉と野菜の煮込み、リンゴを受け取ると、料理人が彼の皿に肉を多めに盛る。


「食べろ、小僧。冒険者志望ならもっと肉付けせんとな」


ロリアンは顔を赤らめながら感謝する。


『痩せてるから……? まあ、イノシシ肉は好きだから、結果オーライか』


空いている席を探すロリアン。嘲笑を避けるため、人が密集している場所は避ける。


しかし、席を探す前に、一人の女性が彼の肩に触れた。


「ちょっと、そこの君。一緒に座らない?」


ロリアンは人の顔を覚えるのが苦手だった。特に、試験のような混雑した場所では尚更だ。近くで見ない限り顔がはっきり見えない上、彼の内気さゆえ、そんな機会はまずない。


だが、彼にも人を識別する方法があった——群衆の中で目立つ特徴だ。シルエット、髪型、服装、色、あるいは声。


この女性は、彼の「筋力のテスト」のグループにいた魔法使いだとわかった。20メートルの移動中にハンマーを落とし、「耐久力のテスト」終了後には嘔吐していた人物だ。


「……ありがとうございます」


ロリアンは頷き、女性について行く。彼は女性の方が気が楽だった。どちらかと言えば、彼の「男らしさの不足」に対し、優しくしてくれる傾向があったからだ。


それに——誘われた経験そのものが初めてなのだ。たとえ相手が無骨な大男でも、断る勇気などない。ましてや、自分と同じように試練で苦戦した人物なら尚更だ。


テーブルに着くと、既に四人が座っていた。


一人目は、筋力のテストで片手でハンマーを軽々と持ち上げた巨漢だ。背が高く、筋肉質で顎鬚を生やしている。まだ上半身裸で、汗ばんだ毛深い胸板を露わにしていた。


二人目は、青い服でようやく識別できた——敏捷力のテストでグループだった男で、一番目立っていた人物だ。


三人目はロリアンには見覚えがなかった。試験で会ったかどうかも定かではない。歯は白く、笑顔が絶えず、身なりはきちんとしている。短い茶髪はきれいに整えられ、少し裕福な家の出のように見える。


四人目は最もわかりやすかった――耐久力のテストでバケツを頭に乗せたまま居眠りしていた半オークだ。青みがかった肌にモヒカンの黒髪、質素で汚れた服に分厚いブーツ。筋肉質な体つきが目立つ。


魔法使いが席に着くと、ロリアンも座ろうとしたが、青い服の男が興奮気味に話し始めた。


「おっ、腿のテコを使ってハンマーを持ち上げた子だ! 見事な工夫だった! 僕も同じことしたぜ!」


ロリアンは恥ずかしそうに席に着く。男は他のメンバーに向かって説明を続けた。


「移動中は動的平衡を利用して、ハンマーを水平に保つことで腕へのトルクを減らし、重心に重量を分散させていた。岩を割るときは遠心力で筋力不足を補い、さらに岩の脆弱点を狙った! 天才的だ!」


(ロリアン)「え……そうです。気づいてたんですか?」


「もちろんさ! 素晴らしい! 見事だ! 君はきっと知力のテストで光るぞ。ああ、そうだ。僕はベトリック・コルデック。よろしくな」


ベトリックが握手を求めて手を差し伸べたが、隣に座る男が割り込むように言った。


「『蛾』だよ。ベトリック・『蛾』・コルデックってな。弱々しくて、夜中まで勉強して、新しい服もすぐボロボロにしやがるからだ。ハハハ!」


ロリアンはベトリックの手を握る。彼は笑いながらロリアンの腕を激しく振った。


(ベトリック)「ああ、好きに呼んでくれ。こっちは僕の幼なじみのロデリック・『ロッド』・ゴドリックだ。メルドラから一緒に来た。君は?」


(ロリアン)「僕は……ロリアン・フェアチャイルドです。ダンロレンの出身です」


(ルミ)「私も地元よ。リサーラ・ヴェイルライトって言うんだけど、『ルミ』って呼んでいいわ。あなたのこと知ってる。図書館の見習いでしょ?」


(ロリアン)「は、はい……」


ロリアンは少し硬くなる。もしルミと図書館で会ったことがあるなら、彼女の顔を覚えていなかったことがバレてしまう――その恥ずかしさが彼を緊張させた。


「おい小僧、その飯全部食えよ。もっと強くなれ。棒みたいな体じゃ、ハンマー持ち上げるのにテコなんて使わずに済むぞ! ハハハ!」


(ルミ)「こっちはフェクサー・ブラッガード」


「フェクサー・『熊』・ブラッガードだ、お嬢さん。ターヴェスから来た。てっきりもっと難しい試験かと思ったが……まあ、あの半エルフのテストではイマイチだったけどな。でも大したことなかったぜ」


ついに半オークが会話に加わる。声は低くて少し怖いが、話し方はどこか穏やかで、どこか無頓着な雰囲気だった。


「おいらも俊敏テストはうまくいかなかったなぁ。ロープにグルグル巻きにされちまって、鈴のトンネルで糸ちぎっちゃってよ。審査官にしこたま怒られたわ」


ロリアンは今さら気づいた――半オークの服は塗料だらけで、テストのロープにぐるぐる巻きにされた跡がくっきりだ。彼の視線に気づいた半オークがのんびりと言う。


「悪い、自己紹介忘れてたべ。おいら、オマック・マッドガッターだ。田舎のホム・クロス村から来たんだ」


(フェクサー)「へへ、そりゃどうりで田舎訛りがすげえんだな! 試験終わったら飲みに行って腕相撲でもすっか?」


(オマック)「悪いんだが……だめだべ。おいらの家は貧乏でよ、ダンロレンまで試験受ける金もやっとこさだったんだ。宿泊代も晩飯代もねえ。帰りの馬車代だけがやっとのこづかいで……夕方には帰んねえと」


(ロッド)「金なら俺が出すぜ。メルドラで親父が商人やってんだ。みんなで合格祝いすっかよ。『新人六人衆』って名前にしようぜ!」


(ルミ)「まだ受かってすらいないのに……ちょっと早くない?」


(フェクサー)「お前さんだけの意見だぜ、お嬢さん。オレはターヴェスからわざわざ来てるんだ。失敗なんてねえよ。何やったって成功するんだから」


(オマック)「ん……もし受かったら、お言葉に甘えるべ。ただ親父さんが心配しねえかちょっと不安だべ」


(フェクサー)「おいおい、まだ門限あるのかよ、オークさん? いくつだ?」


(オマック)「18だべ」


(フェクサー)「ははっ! そりゃもう存分に飲み騒げる年頃だぜ! オーク好きの女の子でも見つけようじゃねえか!」


(ルミ)「まあ! そんなに若いの? もっと年上かと……私は22よ」


(ロッド)「お姉さんだったのか! 俺と蛾野郎は21だぜ」


(フェクサー)「オレは25! 筋肉と男らしさの塊だ、ハハハ!」


(ルミ)「ロリアンくんは?」


(ロリアン)「13歳です。試験の最低年齢なんです」


(ルミ)「あら、そうなの?知らなかったわ」


(ベトリック)「ところで、みんなどのくらいできたと思う?僕はロリアン君みたいにハンマーのテストを工夫して、敏捷力のテストもそこそこだったけど……最後のテストで完全に失敗しちゃった」


(ロッド)「ハハハ!蛾野郎、まじで情けねえぞ!10分で気絶しやがった!てめえが倒れ込んだ時、俺のバケツも危ねえだったんだぞ!」


(ベトリック)「いや~、ロッドは運が良かったよな~ハハハ。日差しと水分不足だったんだ。敏捷力のテストの後に休憩あると思って油断しちゃってさ」


(ルミ)「私は筋力のテストで失敗したから、他のテストで挽回しようと思ったの。敏捷力のテストは思ったよりうまくいって、鈴のトンネルも突破できたし。耐久力のテストも最後まで耐えたわ」


(ベトリック)「最後に全部戻しちゃったけどな!ハハハ!」


(フェクサー)「オレも最後のテストは楽勝だった。腹減ってたから最高のパフォーマンスじゃなかったけどな」


(ロッド)「待てよ、じゃあテスト中ずっと聞こえたあの腹の音はお前だったのか?」


(フェクサー)「ハハハ!そうだよ。オレの胃は試験なんか気にしない。飯が欲しいって主張してたんだ!」


(ロッド)「俺もハンマーはダメだった。このガリガリ少年と、強くもない蛾野郎が頭脳プレイで成功するなんて信じられねえ。仲間だってのにコツ教えてくれよ」


(ベトリック)「悪いけど、僕は未来予知できないからテスト内容は知らなかったんだ。てめえの方が先に受けてたのに、どうやって教えるってんだ?」


(ロッド)「だからこそ他の二つは死に物狂いでやったぜ。丸太から落ちそうになったり的を外しそうになったり鈴鳴らしそうになったりしたけど、どうにかクリアした」


(ベトリック)「じゃあ、あの耐久力のテストで命懸けだったのはそのせいか?」


(ロッド)「ははは!その通りだぜ!『死んでも降りねえぞ、膝がどうなろうと関係ねえ!』ってな感じで行ったんだ!」


(オマック)「おいらもハンマーは楽だったべ。コースの方はさっき言った通り、審査官に怒られちまった」


ロリアンは黙って食事をしながら会話を聞いている。ほとんど口を挟まないが、誰も彼をからかわない。生まれて初めて、自分が「グループ」の一員のような気がした――あるいは、それに近いものを。


(ルミ)「ロリアンくんはどう?うまくいってると思う?」


(ロリアン)「たぶん……各テストは0~10点で、合格ラインは平均5点だと思うんです。筋力のテストはクリアしたので、5点か……トルガさんがテクニックで減点したら4点かもしれません」


(ベトリック)「君が減点されてたら僕も同じだ。気にすんな」


(ロリアン)「敏捷力のテストはコースは全部やりましたが、ジャンプで的を外しかけて、最後に鈴も鳴らしてしまいました。だから2~4点だと思います。耐久力のテストは最後まで耐えたので、5点……だと思います」


(ベトリック)「なるほど、テストごとに自己採点してるんだね。その計算が正しければ、今のところ11~14点ってことか」


(フェクサー)「数字の話はいいってんだ!男の価値はこの肉体で決まるんだぞ!見てみろ!」


フェクサーはテーブルに立ち上がり、筋肉を誇示する。


(ルミ)「悪いけど……この後『知力のテスト』があるの、忘れてない?」


フェクサー、オマック、ロッドはまるで冒涜を聞いたような顔で凍りつく。


(オマック)「おいら……まだ合格できるんだべか?正直言うと……読み書きは苦手だ。田舎じゃ勉強するのも大変でよ……」


(ロッド)「ま、俺は商人の家の出だ。親父はメルドリック一の大商人だが……それでもオマックみたいなオークの苦労はわかるぜ。筆記試験だったらオレも詰みだ」


(ベトリック)「少なくともお前は勉強する環境があったんだろ? 僕は余裕だね」


(ロッド)「そりゃそうだ! てめえは本を喰い散らかすクソ蛾野郎だ! その上、わけのわからねえ発明品まで作ってやがる!」


(ロリアン)「あのガ……ベトリックさんは発明家なんですか?」


(ベトリック)「志望者だよ。正式には鍛冶屋だけどな。でも収入と時間の一部を『発明家冒険者』になる夢に投資してるんだ。ハハハ!」


(ロッド)「一部? 50%超えてんだろが!」


(ベトリッ)]「おお、ロッドが百分率を理解してる! 驚きだ!」


(ロッド)「うるせえ、クソが!」


(ベトリック)「ルミさんは? 何をされてるんですか?」


(ルミ)「まだ無職よ。魔術の勉強を終えたばかりで、魔法使いとしてのキャリアを始めようとしてるの。冒険者になれなかったら、別の道を探すわ」


(オマック)「ロリアンは余裕そうだなぁ……」


ロリアンは照れくさそうに、しかし嬉しそうに微笑む。


(ロリアン)「あの……僕は8歳からこの街の図書館で働いてて……ほぼ全ての本を読みました。給料で買った本も含めて。これだけは自信があるんです」


(フェクサー)「じゃあガキの頃から脳みそ鍛えてたんだな? 筋肉も鍛えとけよ、小僧!」


(ルミ)「フェクサーだって脳みそ鍛えればよかったのにね?」


一同は和やかに笑い合ったが、オマックは静かでどこか心配そうに呟いた。


(オマック)「もしかしたら……おいら、試験に落ちるかもしれねえ……」


フェクサーとロッドも表情を曇らせる。彼らも勉強不足の重圧を感じていた。ルミとベトリックはどう返すべきか戸惑っているようだ。この重苦しい空気に耐えきれず、ロリアンが口を開く。


(ロリアン)「その……苦手なテストで失敗するのは普通なんです。クラスによって得意不得意があるから……魔法使いは耐久力のテストが苦手だし、蛮族は知力のテストが苦手だし、盗賊は筋力のテストが苦手なのが普通です」


一同は静かにロリアンの言葉に耳を傾ける。


(ロリアン)「でも……得意なことでカバーすればいいんです。僕がこの試験に挑戦したのも、それだけが理由でした。得意分野を徹底的に鍛えて、まあまあな部分を補強して、苦手なものは失敗しても仕方ないと覚悟して……」


テーブルの下でロリアンは膝の上で拳を握りしめる。


(ロリアン)「僕は……本当は筋力のテストも耐耐久力のテストも無理だと思ってました。だって……見ての通り……これが僕の最大の弱点ですから。でも……僕の最高の能力と意志の力でカバーして……なんとかできたんです」


ロリアンは恥ずかしそうにオマックの大きな手にそっと触れる。


(ロリアン)「だから、皆さんもきっと大丈夫です。こんな小柄でガリガリの子供でも重いハンマーを持ち上げて、空腹と暑さに耐えて石の上に跪いていられたんですから……きっと皆さんも苦手を乗り越えられると思います」


一同は笑顔を取り戻す。ロリアンの言葉は上から目線ではなく、理にかなっていた。


(ロッド)「そいつはいい! ガキの言う通りだぜ! 俺たちは自分自身の限界を超えるためにここに来たんだ! まだ起きてもいないことでクヨクヨするんじゃねえ!」


(オマック)「そうだな。小柄なロリアンが筋力のテストで不可能を可能にしたんなら、おいらも頑張れるはずだ。ありがとう」


(ルミ)「ロリアンくんの言う通りよ。私だって耐久力のテストを突破できるなんて思ってなかったんだから。まさか私に負けるつもりじゃないでしょ?」


(ベトリック)「じゃあ我がグループの最年少が精神的なリーダーってわけか? お前ら三人、恥ずかしーぞ! バカ面して落ち込んでんじゃねーよ、ハハハ!」


ロリアンは恥ずかしさのあまり目も合わせられず、心臓が高鳴る。フェクサーが立ち上がり、彼の背中をドンと叩く――その勢いでロリアンの顔が残りの煮込み料理に突っ込んでしまう。


(フェクサー)「その通りだ! ガキの脳みそ絞りは役に立ったな! じゃあ今度は俺の上腕二頭筋で、試験問題の答えまで捻じ曲げてやるぜ、ハハハ!」


顔を上げたロリアンは、食べ物まみれだ。フェクサーは自分のしたことに気づくが、ただ大笑いする。


(フェクサー)「ハハハ! 悪いなガキ! お前らがオレより脆いってつい忘れちまうんだよ!」


ロリアンの胸には温かい感覚が広がった。このグループは――彼を小馬鹿にせず、嘲笑せず、痩せこけた小僧が不可能に挑むことさえ当然のように受け入れていた。そして彼は、失敗を恐れる仲間たちを支えることさえできた。


『あの失敗への恐怖……僕もずっと感じていた。でも僕を支えてくれる人は誰もいなかった。――皮肉なことに、僕がずっと欲しかった支えを、今僕が彼らに与えている』

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