第11章:「ジェナヴラで魔術師と神官を探せ」作戦
翌朝、キャンプ地にて。
夜の間、警備のためにグループは交代で見張りをすることになった。8時間の休息のうち、メンバーは6人しかいないため、2人は2回見張りを担当しなければならなかった。
最初はカルタンが「戦えない分、せめてそれくらいは」と志願したが、エロウェンは魔力とエルダーグローヴの樫の杖の魔力を回復するための瞑想、さらに自然との交信による治癒のため、3時間の見張りを引き受けた。
夜は何事もなく過ぎ、朝を迎えた。
エロウェンの薬草と一晩の休息のおかげで、全員の傷は少しずつ癒えていた。そのおかげで、カエウは魔力を節約しながら少しずつ治癒魔法を使い、残りの傷を癒していった。
旅の間、ロリアンとカルタンは作業を続けていた。ロリアンがアウレリオ語の記録を翻訳し、カルタンがその情報を地図に描き起こしていく。リサンドラはまだ、痩せ衰えた老人のような姿のままだった。
(リサンドラ)「なあ、太陽の子よ。グループの役に立ちたいなら、まずはちゃんと戦えるようになるんだな」
(カエウ)「うん、なりたい。でも…旅の途中で修行ってできるの?馬車の中で鍛えられるとは思えないけど」
(リサンドラ)「休憩の時間を使えばいい。アタシが元に戻るまで、あと八時間だしな」
ロリアンはその言葉に勇気を出して話しかける。
「こ、こほん…リサンドラさん、あの…僕も、その…この機会に教えていただけませんか?剣術は独学で、本格的な訓練は受けたことがなくて…」
(ディミトリ)「気持ちは分かるがな、ロリアン。お前は一秒でも惜しんで翻訳作業を続けるべきだ。
戦えるようになりたい気持ちは分かるし、グループにもっと貢献したいのも理解できる。
だが今は…お前がすべきことは翻訳だ。鍛錬に時間を割くのは逆効果だ」
ロリアンはうつむいて、静かにまた文書に目を戻した。
(リサンドラ)「ったく、ローグめ。やりようってもんがあるだろ?今ロリアンに必要なのは戦いの技術よりも、まず筋力だ。
実力は年齢相応だが、筋力が足りない。翻訳の邪魔にならない形で筋力を鍛えられれば問題ないだろ?」
(ディミトリ)「それで…その方法ってのは?」
(リサンドラ)「ジェナヴラに着いたら、ある道具を買う予定だ。それでロリアンは作業しながらでも鍛えられるさ」
(ロリアン)「そ、そんな…ありがとうございます、リサンドラさん!本当に感謝します…」
***
そのまま彼らはさらに三日間、旅を続け、ジェナヴラの郊外へと近づいた。街の姿が、道の先にうっすらと見えてきた。
三日間の間も、彼らは前と同じく森の中に宿営し、リサンドラは約束通り24時間後に元の姿に戻った。
その後は馬の休憩時間を使って、リサンドラがカエウに戦闘訓練の基礎を教え始めた。
カエウはその後も、三日間にわたって時折治癒魔法を使い、ディミトリ、リサンドラ、そしてロリアンの傷を完全に癒していった。
そして街の近くに来たところで、馬車を止め、全員で作戦会議を開いた。
(ディミトリ)「計画を再確認する。今から12時間以内に、共に旅をしてくれる魔術師と神官を見つける。その間に出来る限りの情報を集め、最適な仲間を探すんだ」
(カルタン)「え〜っとさ、ちょっと聞いてもいい?さっき、魔術師と神官が必要って話してたよね?それに、ディミトリさんが言ってたじゃん、大都市ならブラック・ハンドもそう簡単に手出しできないって。
だったらさ、ジェナヴラにしばらく留まって、地図の完成と仲間探しに集中した方が安全じゃない?街の中なら自由に動けるし、時間も稼げるっしょ?」
(ディミトリ)「残念だが、そうはいかない、カルタン。冒険者になって最初に学ぶのは、『物事は思い通りに進まない』ってことだ。三日前に遭った襲撃が、まさにその証拠だろう」
(ディミトリ)「それに、敵が俺たちの位置をどうやって把握していたのか分からない今、連中がこれから何を仕掛けてくるかも読めない。最悪のケースを常に想定して動かないといけない」
(ディミトリ)「それに、仲間探し自体が簡単じゃない。禁断の地へ行くなんて依頼、しかもブラック・ハンド相手の任務に、無償で同行してくれる冒険者なんて、まずいない」
(ロリアン)「本当です!僕たちは正式な依頼ではありません。依頼人もおらず、報酬も出ません」
(ディミトリ)「その通りだ。金にならないこんな任務に命を懸ける者など、普通はいない」
(カルタン)「うーん……ぼくは地図製作者としてはそれなりに稼いでるし、1人分くらいの報酬なら何とかなるかも……?」
(リサンドラ)「なら、アンタ金持ちかって話だな、小人。この手の任務なら、1人につき金貨5千枚は最低ライン。国や依頼主次第じゃ、金貨2万枚ってケースもあるくらいだぜ」
(カルタン))「に……に、にま……にまんんんんだとおおおおおお!?」
(エロウェン)「それは既に我が予見しておったことだ。人間というものは本質的に、強欲にして利己的であろう。短期的な利益と目先の報酬に惑わされ、たとえ己が命を脅かされようとも、他を顧みぬのだ」
(カルタン)「ちょ、エロウェンさんも人間だろ?」
(エロウェン)「されど、これが現実である。人間の大多数は、まさにかく在るのであろう」
そのとき、カエウが立ち上がり、自信に満ちた声で言う。
「ならば僕たちがすべきことは、そうじゃない『1%』を見つけることだよ。この6人だって、そんな例外の集まりだ。
人類が本当に堕ちきってるなら、この仲間たちはいなかったはずだ。僕たちは信じよう、新たな仲間を見つけられるって!」
(カルタン)「……あれ?もう神官、ここに1人いない?」
(ディミトリ)「よし、作戦の整理だ。リサンドラが見逃したオークがブラック・ハンドに情報を流していないと仮定するなら、エロウェン、ロリアン、カルタン、そしてカエウの身元はまだ敵に知られていない。
俺はローグとして変装や潜伏の手段があるから、身元が割れてない今のうちに街を動ける」
(ディミトリ)「だが、最悪のケースにも備えておけ。オークが密告しているかもしれないし、そもそもブラック・ハンドには俺たちを探知する別の方法がある可能性もある」
(カエウ)「ってことは、結局リサンドラだけは確実にマークされるってことか」
(リサンドラ)「それが逆に都合がいい。ジェナヴラにブラック・ハンドの奴らが潜伏してるなら、アタシが囮になって炙り出せる。
そいつらの動き次第で、どんな危険が迫ってるのかも分かるしな。場合によっては、アタシ1人で片付けてやるよ。そっちがお仲間探しに集中できるようにな」
(ディミトリ)「よし。では、二人一組に分かれて行動しよう。リサンドラ、エロウェン、そして俺がこの中で最も戦闘能力が高い。だから他の三人はそれぞれの誰かと組むのが妥当だ。俺はロリアンと一緒に動く」
(リサンドラ)「じゃあ、アタシは『弟子』のカエウと組むわ。ちょうどいい。戦闘になったら、この三日間で教えたことを実戦で叩き込んでやる」
(カルタン)「じゃあ、ぼくはエロウェンさんと一緒ですね。ラッキーかも?ぼく、人間じゃないし、小人だし〜、ひひひ」
(ディミトリ)「了解だ。リサンドラとカエウの組は、街中で自由に動ける分、物資の調達と出発準備も頼む。緊急時に即座に出発できるよう、馬車と馬の手配もな。
俺とロリアンは魔術師探しを優先する。正直、こんな状況でグループに加わってくれる魔術師を見つけるのは、神官よりも難しいだろう」
(カルタン)「なるほどね〜。まあ確かに、自己犠牲タイプが多いのは神官クラスだし。利他的な人を見つけるなら、そっちの方が確率高そうっすね〜。ね、エロウェン?」
しかし、エロウェンは答えず、ただ信じられないという顔でカルタンを見返すだけだった。
そのとき、ディミトリがポケットから硬そうな筒状の何かを取り出し、カエウとカルタンに渡す。
「街の中ではそれぞれ別行動になる。緊急時には、これを使え。信号弾だ。下の紐を引いて、空に向けて発射すればいい。状況によっては、王国の兵士たちも応戦してくれる可能性がある」
こうして、リサンドラとカエウは先に馬車で街へ向かう。カエウはフードを被り、顔を隠している。数分後、エロウェンとカルタンも出発した。
残ったディミトリは、いきなり服を脱ぎ始める。ロリアンは思わず目を逸らし、少しだけ気まずそうに顔を赤らめた。
『ディミトリさん、まさか僕の前で服を…?旅の間、仮面を一度も外さなかったのに……。顔を知られてないのは、彼の大きな武器のはず。
それを僕に見せるなんて……いや、見ない方がいい。信頼されてるなら、それに応えるべきだ』
「準備できたぞ、ロリアン。行こう」
と声がかかり、ロリアンが恐る恐る振り返ると、ディミトリはもう別人のようだった。
商人の従者か、旅の一般人のような服装。そして――仮面がない。角張った輪郭、軍人のように短く刈られた髪。左の眉から鼻筋にかけて走る一本の深い傷。まるで戦場を生き延びた歴戦の傭兵か、軍の上官のような風貌。
ロリアンは見すぎないように注意しながら、どうしても気になっていたことを口にした。
「……あの、ディミトリさん。なぜ、僕を選んでくださったんですか?」
「お前は賢く、戦略的思考に優れている。そして……『マルチクラス』だからだ」
「マルチクラス……?」
「複数のクラスにまたがる能力を持つ冒険者のことだ。お前は剣士としての技術を持ちながら、補助魔法も扱える。さらに知識量も豊富だ。まるで魔術師か戦略家のように」
「だからこそ、ローグの技術を教えておく価値がある。お前の最大の強みは、『知力』と『敏捷力』。俺と共通する部分が多い。学べることは多いはずだ」
「は、はい……ありがとうございます」
***
──ジェナヴラ。
エルドール王国の五大都市の一つ。商業と芸術の中心地であり、貴族の社交場でもある。
街には多種多様な店が並び、人通りも多い。王国の南端に位置するため、中心部に比べてドワーフやエルフ、小人といった他種族も多く見かける。
──────
その街の一角、二階建ての建物の中。暗い部屋で、女性が一人、机の上の水晶玉を見つめていた。
窓際には、15〜17歳ほどの少年が立ち、カーテン越しに外を見ている。黒髪に目の下のクマが目立つ。
水晶玉の周囲には黒いロウソクと香が立ち込め、机の下には漆黒の五芒星が描かれていた。
女性の目が、紫色に妖しく光る。
「……来たわね」




