プロローグ⑭:魅力のテスト ― 第三部
◆ベトリックの面接◆
オースメルはストレスを感じたようにイライラしていた。ベトリックが部屋に入ると、すぐに話しかける。
「ああ、敏捷力のテストで目立った志願者か。判断力のテストは散々だったそうだな。それに、耐久力のテストでは失神したと?
チチッ……そんな明白な罠に引っかかるローグが、いったいどこにいる?今すぐ諦めて、半年後か来年にでも出直したほうが良くないか?」
ベトリックは震え、居心地悪そうに座る。
「えっと……確かに、調子に乗りすぎたかもしれません。故郷のローグに師事していたので……」
「この試験に自分だけがローグ志願者だと思ったのか?ふざけるな。重要な任務だったら、潜入開始3分でお前が死亡し、罠解除もできず、誰にも気づかれずに終わりだ。
『深紅の盾』にふさわしい素晴らしい人材だ!」
『マジでやべえ……こりゃまずいぞ、ベトリック!ここで魅力のテストを乗り切れなきゃ、本当に落ちる……』
「オースメルさん、実は僕は『発明家ローグ』を目指しています。普段は鍛冶屋をやりながら、小さな工房でローグ用のガジェット開発をしていて……」
「なら、いっそ発明家に専念して、ローグ用ガジェットの工場でも作れば?そっちの方がよっぽど儲かるし、安全だ」
「僕は名声やお金が欲しいわけじゃないんです。『作ること』と『行動すること』の両方が夢なんです。ローグとは、チームの機転役で、狡猾で創造的で……それら全てが僕のアイデンティティなんです」
「つまり、『失敗すること』も職業の一部だと?」
「まあ、そうです。発明家としては、失敗は日常茶飯事です。『良いものは数多くの失敗の後に生まれる』――祖母の口癖です」
「『深紅の盾』には、趣味で失敗する冒険者はいらない。必要なのは有能で真剣なプロだ」
「わかっています。でも、成功者だって皆、失敗を重ねてきたはずです。オースメルさんだってそうでしょう?人は他人の成功ばかり見て、その背後にある苦労には目を向けないものですから」
「つまり、『失敗のプロだからチャンスをくれ』と?」
「いや、そうじゃ……つまり、原石が研磨されるように、僕は今日という日を通じて――いや、人生全体で既に十分『研磨』されてきて……」
「お前はダイヤの原石だと?」
「少なくとも、さっきのテストよりはマシになったと思います。これが言いたかっただけです……」
「それはお前の主観だ。我々が求めるのは、『試験で最高の自分を見せる者』だ。お前はその逆を証明した」
「最高も最悪も、全て見せました。ローグの本分である敏捷力テストでは突出し、力のテストでは即興力を発揮し、おそらく知力テストも悪くない。そして今このテストで、ありのままの自分を――」
「……で、その『モチベーショナル・コーチ』みたいな演説で、俺を納得させられると思ってるのか?」
「さあ……それはオースメルさん次第です。僕はただ、ありのままの『魅力』を見せているだけですから」
「それで合格できると?」
「かもしれません。でも仮に落ちても、さらに『研磨』されるだけです。失敗するたびに強くなる。たとえ0点でも、自分の全力を誇れるなら、それでいい」
◆ロッドの面接◆
オースメルは真剣な面持ちで、ペンを走らせている。
「おや?君は今日もう面接済みでは?」
「え?」
書類に目を通すオースメル。
「ロデリック・ゴドリック……失礼、別人と勘違いした。君の顔と存在感は……いや、実に『無難』だな」
『マジで言ってんのか!?』
ロッドは戸惑いながら着席する。
「朝から君を観察してきたが、正直何も印象に残っていない。良い意味でも悪い意味でも。では聞こう――このギルドに、君しか提供できない『独自性』とは何だ?」
「逆に、それって悪くないですよね? 欠点が目立たないってことじゃ……」
「敗北主義だ。試験に合格しながら『目立たなさ』故に冒険者を辞める新人は半数以上いる。仮に合格しても、君のプロファイルからして3年以内に廃業する確率は極めて高い」
「……そもそも、何かで『一番』である必要ありますか? 目立つことがそんなに……」
「『何か一つ』でいい。実務的な要件だ。何かで確かな腕を示せ。それができなければ、依頼など来ない。冒険者にとっては死活問題だ。これが現実だ」
「……腕とプロ意識さえあればいいんじゃないですか? 別に最強でなくとも、『良い冒険者』で……」
「この面接の本質を理解していないな。端的に言おう――向上心なく、頂点を目指さず、平凡に甘んじる者は、即座に置き去りにされる。『完璧』を追う者たちが、常に優先的に依頼を受けるのだ」
オースメルは机を指でコツコツと叩く。
「つまり、客は君ではなく『差別化要素』を持つ者を選ぶ。君が10番目、20番目の選択肢で満足するなら、そのまま終わる。だが現実の依頼募集で、候補が5人までしか検討されないことは知っているな?」
ロッドは俯くが、やがて顔を上げて言った。
「……確かに、パッと見の『目立ち』はないかも知れない。でも……ある種の資質は、簡単には見えないものです」
「例えば?10時間観察して気づかなかった『資質』を教えてくれ」
「仲間を絶対に売らない。金でも名声でも。あと……簡単には諦めない。問題から逃げず、今のこの議論だって正面から……」
「市民なら誰もが持つべき倫理観だ。冒険者の特質ではない」
「……じゃあ、今の市民の何割がそれを実践してます?『平凡』って誰でしたっけ?」
オースメルは、卓越した演技力を持ちながらも、思わず笑いを漏らした。だがすぐに顔を引き締め、元の姿勢に戻った。
「……なるほど。では仮に30年、40年と冒険者を続けても二流のままであっても、それでよいと?命を懸けて得る報酬が、他の職業と大差ない額でもか?」
ふと思い出したように付け加える。
「ところで、君はゴドリック家の息子だったな。メルドラで大商人をしている父親の後を継げば、より安全で名声も得られる。それでも冒険者を選ぶのか?」
「先生、もし名声が欲しいなら、親父の小遣いで吟遊詩人や役者になっていますよ。金なら尚更、家業を継いでます」
「俺がなりたいのは『違いを生む冒険者』です。天才でも才能ある奴でもない、普通の人間の代表として。世の中の大半は凡人だってことを証明したいんです」
◆オマックの面接◆
オースメルは軍隊式の厳格な態度で、オマックが入室するやいなや命令する。
「着席しろ、ハーフオーク! 時間は有限だ!」
オマックが腰を下ろすと、オースメルは背筋を伸ばし、室内を歩き回りながら質問を浴びせる。
「お前はハーフオークだ。差別を受けたことはあるか?」
「はいだべ、たんまりな。町さ作物売り行くとよ、『街襲うつもりで化けて来たんでねぇか』てな目で見られっからよ」
「どう対応した?」
「別に……スルーすっきゃねぇべな。乱暴はせんだべ」
「誰かを殴るかどうかを聞いているんじゃない。差別を無視するのは、本当にただ衝突を避けたいからか?」
「そりゃあ……『おいら悪いやつじゃねぇ』て言ったって、誰も信じねぇべな?」
「行動は言葉に勝る。自分への不当な扱いを受け入れる者が、どうして依頼人を守れる?まして依頼人自身が不正を望んだら?」
オマックは数秒間考え込み、静かに口を開く。
「わかんねぇべ、先生。ただ、金もらってるからって誰かに酷ぇことすっ気はねぇだ。けど……そういうのとは違ぇんだべ?」
「違うな。尊重と服従は別物だ。自分の誇りさえ守れない者が、他人を守れるはずがない。ましてや、それはハーフオークの冒険者にとっては致命的な欠点だ」
オマックは言葉に詰まった。
「でもよ……ロリアンや他の連中は、おいらのこと気に入ってくれてんだべ。穏やかでいっからこそ……」
「彼らはお前が差別されれば、間違いなく行動するだろう。だがこれは冒険者試験だ。己を卑下する者に、この職業は務まらん。たとえ膂力があろうともな」
オマックはうつむく。
「……家族を豊かにすっため、それと……オークやハーフオークが悪党じゃねぇって証明すっためにな、なりてぇんだべ」
「ならば、わが言うことの重みも理解できよう。報酬を盾に客がお前を辱めても従うのか?任務中、貴族に人種差別的な罵詈を浴びせられても耐えるのか?」
「なにより、オークへの報酬は他メンバーより低く設定されることが常だ。己を貫けぬ者に、冒険者の資格はない――それがわからぬか?」
オマックは深く息を吸い込む。
「……先生の言う通りかも知んねぇだ。おいら、まだ『魅力』は足りてねぇ。
でもよ……ロリアンが教えてくれただべ。『弱点は強みで補える』って。あのガキ、知恵で重てぇハンマー持ち上げて、耐久テストも突破したんだ。おいらも力で補えっぺ……やり方さえ覚えればな」
オースメルが不意に提案する。
「では提案だ。全力で俺を殴れ。この扉越しにギルドのホールまで吹き飛ばせば、『魅力のテスト』は10点だ」
オマックはしばらく考え込む。机の上の砂時計が静かに尽き、面接の持ち時間が終わりを告げた。
オースメルが次の志願者を呼ぼうとしたその時――
オマックが口を開いた。
「……そんなの、不正だべよ」
オマックはゆっくりと立ち上がる。
「おいら、まだ差別の受け流し方わかんねぇ。偉ぇ人相手なら尚更だ。けんどよ……線は引けっぺ。『恥』の守り方は知らねぇけど、不正な命令には逆らえっぺ。それがおいらの強みだべ」
ドアを背にした彼は、静かに部屋を去った。廊下で待つ仲間たちがオマックを取り囲む。まだ50人近くの候補者が残っている。
(ロリアン)『……今日は、家に帰るの、だいぶ遅くなりそうだな』




