1話 追放
以前書いた作品をフルリメイクしてみました。
「ノクト、お前をアーデルハイド家から追放する」
激しい怒りを表情に宿しつつ、父さんは厳しい声で俺にそう告げた。
夕食を食べている時のことだった。
突然、屋敷の警備兵が俺を拘束して……
そして、足音荒く現れた父さんが、そんなことを告げてきたのだ。
「え?」
最初はなにを言われているか理解できなくて、キョトンとしてしまう。
夢を見ているのだろうか? なんてことを思う。
ただ、警備兵に拘束される痛みが、これが夢でないことを示していた。
「追放、って……ど、どういうことなんだ、父さん!? 俺がいったいなにをしたっていうんだよ!?」
「おのれ、まだとぼけるつもりか……15歳になるまで育ててきた恩を仇で返しておいて、よくもまあ、そんなことをのうのうと言えたものだ!」
「ええ、本当に……信じられませんね。まさか、このような子がアーデルハイド家を継ぐ長男なんて」
「ネーリャ母さん!?」
父さんに続いて、母さんが姿を見せた。
昨年、父さんと再婚した新しい母親だ。
俺は本当の母親を知らない。
本当の母親は体が弱かったらしく、俺を産んですぐに亡くなってしまったらしい。
だから、父さんが再婚すると決めた時はうれしかった。
ネーリャ母さんは優しい人だった。
血の繋がらない俺のことをかわいがってくれて、母親の温もりを教えてくれたのだけど……
「父さんもネーリャ母さんも、落ち着いてくれ! いったい、なにがどうなっているのか教えて……」
「黙りなさい。今は、あなたの発言は求められていません」
ネーリャ母さんは氷のように冷たく言い放ち、こちらを睨みつけてきた。
ネーリャ母さんは、最初は俺に優しくしてくれたのだけど……
自分のお腹に父さんとの子供ができたことがわかると、途端に態度を変えた。
俺に冷たく当たるようになり、笑いかけてくれることは一度もない。
それだけではなくて、あることないことを父さんに吹き込んで、俺の評判を落とす始末。
たぶん……ネーリャ母さんは、俺のことが疎ましいのだろう。
俺がいる限り、自分の子はアーデルハイド家を継ぐことができないからだ。
「これを見なさいっ!」
ネーリャ母さんは屋敷で働くメイドに合図を出した。
その合図に従い、メイドはとあるものを運んできた。
澄んだ透明な水晶玉。
それは、伯爵の位を授かるアーデルハイド家に代々伝わる家宝だ。
持ち主に富と幸せを授けると言われている。
しかし……水晶玉は二つに割れ、無残な姿を見せていた。
「そんな、我が家の家宝が……」
「これを見て、まだとぼけるつもりか、ノクトよ」
父さんも鬼のような形相で俺を睨みつけていた。
そのようにして怒りを見せることは、わりといつものことだ。
本当の母さんは体が弱かったらしく、俺を産んですぐに亡くなってしまったらしい。
そのためか、父さんは俺にきつく当たることが多い。
俺のせいで母さんが死んだと思っているのだろう。
そのため、俺に冷たく当たるのだろう。
でも……これほどまでに激しい怒りをぶつけられたことはなくて、思わず恐怖に震えてしまう。
「これは、ノクトの仕業なのだろう?」
「えっ!? まさか、そんなことするわけないじゃないか!」
「とぼけるなっ! ネーリャが、ノクトが水晶玉を持ち出すところを見たと言っているのだぞ!」
「ネーリャ母さんが……?」
反射的にネーリャ母さんを見て、視線が合う。
「……ふふっ」
一瞬。
本当に一瞬だけど、ネーリャ母さんは笑った。
とても醜悪な笑み。
それを見て、俺は全てを理解した。
これは罠だ。
俺をハメるために、ネーリャ母さんは虚偽の証言をしているのだろう。
水晶玉が壊れているのも、ネーリャ母さんの仕業かもしれない。
というか、ほぼほぼそれで間違いないだろう。
俺にありもしない罪を被せて、この家を追放して……
そして、我が子に家を継がせるつもりなのだろう。
「私は、ノクトが水晶玉を持ち出すところを確かに見ました。ノクトは家を継ぐ者ですから、家宝である水晶玉を調べるなりしたいのだと思い、その場はなにもしませんでしたが……私が間違っていました。まさか、このように破壊してしまうなんて……あの時、私がノクトを止めていれば……」
「おぉ、ネーリャよ。そなたが気にすることはないのだ。全ての罪はノクトにある。例え長男とはいえ、家宝である水晶玉を持ち出すなど、愚の骨頂である」
「しかし、血がつながっていないとはいえ、ノクトも私のかわいい息子……子の罪は、母である私にもあります」
「なんて優しいのだろうか。それに比べて……」
父さんの刺すような視線が俺にぶつけられた。
「ノクトっ、ネーリャの言葉を聞いて、なにも思わぬのか! 自分の罪を素直に認めることなく、これ以上、シラを切るつもりか!?」
「父さんっ、俺はなにもしていない! 本当だ! それは……全部、ネーリャ母さんがでっちあげたことだ!!!」
「なんだと?」
「ネーリャ母さんは俺のことが疎ましいから、だから、こんなことを仕組んで……俺は無実だ! 本当になにもしていない! 父さんは、実の息子である俺とネーリャ母さんの言葉、どっちを信じるんだ!?」
「この……愚か者がぁっ!!!」
「ぐはっ!?」
父さんは烈火のごとく怒り、俺の顔を蹴り上げた。
つまり……それが父さんの答え、というわけだ。
「言うに事欠いて、ネーリャのせいだと!? ノクト、貴様それでも人の子か! ネーリャはこんなにも貴様のことを気にかけているというのに、それなのに、恩を仇で返すようなことをしおって!!!」
「あなた、ノクトを責めないであげて……この子は、ただ寂しいだけなのでしょう。母親を知らない時間が長すぎたために、私をうまく受け入れることができず、心の中では泣いているのです。だから、責めないで」
「おぉ、ネーリャよ……そなたは、まるで天使のようだ」
なんだ?
いったい、なんなんだ……この茶番は?
俺は間違ったことはなに一つ言っていない。
それなのに、父さんは俺のことをまるで信じてくれない。
それどころか、ゴミを見るような目を向けてくる。
ネーリャ母さんは、変わらずに冷たく笑う。
血は繋がっていないのだけど、それでも母親だと思っていたのに……
あっさりと手の平を返されて、こんなことを企む。
こいつらは、いったい……
「なんだよ……なんなんだよ、これは!!!?」
「おとなしくしろ、ノクト!」
「ぐっ……!?」
再び蹴り上げられて、俺は抵抗する気力を失う。
こんな人たちを家族だと思っていたなんて……俺、とんでもないバカだ。
ホント……バカだ……
「ノクトよ。アーデルハイド家の宝を壊し、なおかつ、その被を認めることなくネーリャに冤罪を着せようとした罪は重い。アーデルハイド家を追放として、流刑の刑に処すっ!!!」
……雪が溶けた春の頃。
こうして、俺は家を追放された。
本日、19時にもう一度更新します。




