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03・パスタとお風呂とハーフエルフ



ハーフエルフのこの女の子の事……


てっきり男の子だと思ってた……


だって

エルフ側の血筋から引き継いだ細身の身体に

ボロいパンツとボロい上着、

しかもやっと耳が隠れるくらいのショートヘアだし!


しかたないじゃないか。


でも女の子だってことは…


「あのね、その お風呂に入って着替えてっていうのは

おかしなことをしようとしてる訳じゃないからね!」


変な誤解を受けないよう言っとかないと!

イヤ?こんな事言ったら 逆に余計に怪しまれるか⁈


だが、少女の返答は 僕の想定外だった。



「…そんなコト、思いませんよ、だれが 好き好んでハーフエルフなんか…」



確かにこの異世界では ハーフエルフは 不当な扱いをされてはいるけど…


ハーフエルフの外見は エルフと人間のいいとこ取りの場合が多く

美男、美女がほとんどだった………


アレ? もしかして そう感じてたのは 僕だけ?

異世界美的基準って違うのかも?


「…でもハーフエルフなんかが 入ったお風呂とか…

一回でも着た服とかは…その…」


さすがに自分の口からは 言いづらいのか 最後は濁していたけど

言わんとする事は 理解できた。


異世界でのハーフエルフの扱いは きっと僕の認識以上に酷いんだ。

街中では ハーフエルフ自体ほとんど見かけないし、

そもそもエルフ耳さえ隠してしまえば 綺麗で細身の人間に見える。


それに こんな扱いをされていれば

ハーフエルフだということを出来るだけ隠しているだろう。

そりゃ見かけない訳だよな、


僕が むかし お世話になったハーフエルフの集落は

とんでもない僻地だったし集落全員ほぼハーフエルフだったので

隠す必要も無かったんだろうな……


「僕の名前はトール、昔 ハーフエルフの人達には お世話になった。

だから ハーフエルフだからって偏見なんかない。

イヤ、逆にハーフエルフの皆さんには感謝してるよ!

もうキミ採用!ウチで働いてくれよ!」


つい 勢いで決めてしまったかもしれない…

裏切られて後悔するかもしれない…

そうは思ったが なんだか やせっぽちのこの少女をほっとけ無かった。


それにこの少女以外だれも応募して来た人も居なかったじゃないか。


とすれば これは僕の偽善ゴッコでやってる訳じゃない。

通常の経済行為だ!

win-winってやつだ!


だがそれは 彼女が ウチの底賃金待遇に納得すればの話だった。

そこは確認しておかないと…


「あのーお給料はそんなに出せないけど……」


「住み込みで、食事もさせていただけるんですよね?

でしたら もうそれだけで充分です!

でも あの……ホントにハーフエルフでもいいんですか?」


「僕にとっては エルフでも人間でもハーフエルフでも一緒だから…

世の中のことはともかく この店の中では 普通にしてね?

とにかくお風呂に案内するよ?」


とにかくサッパリしてもらって清潔な格好をしてもらえれば

少しは卑屈な気持ちも薄らぐかと思った。


異世界常識では 小さな住居兼店舗に風呂など不相応な設備だが

現代日本人の僕には 予算的に無理をしてでも必要なものだった。


しかもウチの風呂には シャンプー、ボディソープ等々 揃ってますから!

僕の能力?と言っていいのかわからないが

自分の意思とは無関係にもとの現代日本に転移する。


転移の発動条件も発動期間も今の所 大雑把にしか把握出来てないけど

何回かの この『帰省能力』で生活用品を持ち帰っているのだ。


「それじゃ このお風呂と備品の使い方を説明するから

多分使ったことないだろうし、途中で分からなくなったら大声で呼んで?

ドアは閉めたままで聞こえるからね?」


僕は、シャンプーやらソープやらの使い方を説明して店舗部分に戻った。

彼女の着替えを用意しないとならないからね……


あ!彼女の名前 聞くのを忘れていた…………


まあ、お風呂のあとでいっか?

そうひとり納得して試作品サンプルの中から 彼女用の着替えを見繕った。


彼女は 言わなかったけど、

おそらくお腹も空いてるだろう。


そう思って簡単な 食事も用意することにした。

そもそも簡単なもの以外作れませんけどね?…


パスタ茹でて 出来合いソースかけるくらいです、

これも『帰省能力』で持ち帰った物だった。


何度かの往復で分かったことは、

自分の手で持っているとか、着用してる物は一緒に転移する、

触っているだけで持ち上げられていないものは僕の転移についてこなかった。


パスタを鍋に突っ込んでから 着替えを持ってお風呂場に行く。


「着替えを用意したから ここに置いておくよ?

カゴのなかに入ってるのに着替えてね!

おっきなタオルは お風呂から出たときの身体を拭くのに使う用だからね?

それと下着も用意してあるから!

見慣れないタイプだとは思うけど

着方のイラストが添えてあるから分からなかったらソレ見て!」


ドア越しに聞こえる様にちょっと大きな声で説明した。

異世界にすりガラスなんてないのでシルエットが見えるなんて事もない。

木製のドアだ。


「は、はい!トール様!ありがとうございます!

スッゴイ泡が 出て! すごいいい匂いです!

貴族様が使う様な高級品じゃないんですか⁈ スゴイです!」


ついさっきまでの彼女らしくない 少しはしゃいだ声で返事があった。

コレが 彼女本来の声なんだろう。


やっぱり 清潔にしてサッパリすれば

あんな怯えた感じも無くなってくるんだ。

その明るい声を聞いて僕は 少し嬉しくなった。


「それじゃ僕は行くけどユックリでいいからね?」


「は、はい!トール様!ホントにありがとうございます!」


ばたん!

いきなり風呂場のドアが開いて 彼女がお辞儀をしている?

え?なんなのこれ?⁈


入浴中だから 当然 なんにも着けてない……


「ホントにこのソウプ?ですか!すごいです!」


お辞儀姿勢から顔を上げて身体についた泡をすくって手のひらに乗せて見せてくる。


「バカ‼︎ なにやってんだ!」

思わず 大声で怒鳴って背を向けた。

いくら凹凸のない身体とはいえなんなんだこれは?


「す、すみません‼︎つい調子にのって!

ご無礼な態度を!も、申し訳ありません!

すぐ、出ますから! すいませでした!」


そう言って開けたドアからそのまま出ようとしてる音がする。

僕は思わず背を向けたまま彼女を押しとどめるように両手を広げた。


「ちょ、ちょっと待った!コラ!なにするつもりだ?出るな!戻れ!」


広げた右手に濡れた何かが当たった。

何かって彼女の身体しか考えられないだろ⁈

慌てて引っ込めた手に 泡がついてる!


「え?戻って?えと お風呂場に?外に出てけじゃ無く…ですか?」


「とにかく 風呂場に戻ってドアを閉めて!話は それから‼︎」


キイ〜、ばたん ……


「トール様、申し訳ありませんでした。

ついハーフエルフの立場を忘れて…ご無礼な態度を…」


絶対 なんか感違いしてるだろ?

この子チョットおかしいって?

なんで裸で男の前に出てきてんのに そっちの件は気にしてないのかよ?


「僕が 言ってるのは 女の子が裸で男の前に出てきちゃダメでしょってコト‼︎

言葉使いや態度の事なんて 気にしてないから!」


「…………………」


返事が ないけど理解してもらえたのだろうか?


「…ハーフエルフなんかの不浄な裸を見せられてお怒りに…?」


やっぱり分かってもらえてなかった‼︎


「違うでしょ!綺麗だよ!君の裸はスっごく綺麗です‼︎

そうじゃ無くって……?」

アレ?僕 いま 流れで余計なコト言った?


「男の前に無防備に肌を晒しちゃいけませんって言ってるの!

僕だって男だからね、襲われたらどうするの⁉︎そういう事を言ってるの!」


今、ハッキリ説明しましたよね?

コレで分かってもらえなかったら…

彼女か僕のどちらかが頭オカシイってコトだよね?


「はい、でもわたしハーフエルフですけど………

人間のトール様がそんな気持ちになるものなんですか?」


え?異世界では種族がちがうとそういう対象として見れないってコトなの?


………………………………いや………いや、いや、

だったらハーフエルフなんて生まれないハズじゃんか!


危ない…危ない メジャーではないのかも知れないけど

種族が違っても『慎み深く』は必要なんだ!

間違い無い!


「君の両親だってそういう気持ちになったからキミが生まれてきたんだろう⁈

エルフと人間が 種族を超えて愛し合ったからだろ?

その、もう この際だから言っとくけど

僕だって今 その ドキドキしちゃいましたから!

だから 気をつけなさいって言ってんの!」


どうもハッキリ言わないと分かってもらえなさそうだったので

恥ずかしかったけど 言い切りましたよ。


「…………………」


「とにかく もう一回ユックリ入ってから……着替えてからおいで……」


返事は返ってこなかったけど

それだけ言ってから戻った。


彼女との意思疎通は上手くいったとは言えなかったけど

パスタの方だけは ちょうどアルデンテに仕上がっていた………







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