第8話 君敵父の来訪とぼくたちの過去
ドアを開けると、一人の男がこちらを見据えている。
身長はぼくと同じくらいで170弱。君敵さんと同じで落ち着いた雰囲気をまとっている。君敵さんの父親と見られる男は一礼すると、ぼくにこう言った。
「君が時雨の彼氏さんかな?どうもはじめまして。時雨の父の近衛と申します。時雨がいつもお世話になっております」
……なんだこの茶番は。この人が君敵さんのお父さんだということはわかった。問題はそこじゃない。なんでぼくが君敵さんと恋人である設定になってなっているんだよ…
そんな事を考えていると君敵さんが後ろから抱きついて小声で言う
「後で事情は話すから、今は私に合わせて下さい。」
君敵さんは未だに抱きついて離れようとしない。体温がダイレクトに伝わり、体の熱が急上昇する。それでも今は合わせることにした。
「は、はい。君…時雨さんとお付き合いさせていただいております。月ノ瀬満と申します!えっと…立ち話もなんなので、どうぞ入ってください。」
とりあえずはごまかせたようだ。しかし、いつかは限界を迎えるだろう。本心としては入れたくなかったが、こうせざるをえなかった。
「ははは。せっかくの招待なのに申し訳ないね。私はこれから用事があるものでね。それにしても海人の子供か…見ない間に大きくなったものだ。」
海人とはぼくの父さんの名前だ。それにしても、この人とはあった記憶がないはずなのにぼくの事を知っていた。恐らく大分前の話なのだろう。ぼくは笑顔で送り返す。
しばらくの沈黙の後、君敵さんを見やる。君敵さんは笑顔でぼくを見返す。
リビングのソファーに二人して座り、さっきの話をする。
「君敵さん。さっきのはなんだったんですか?」
「あー。君敵家ってね?恋人ができると家を出ていく権利があるの。それで月ノ瀬くんに無理いっちゃった!」
「そんな笑顔で言われても納得できませんよ…それにぼくじゃなくても良かったんじゃないですか?」
君敵さんは少し不服そうな顔を見せ、口を開く。
「月ノ瀬くんってね?昔何度か家に来たことがあるんだよ?もう何年も昔の話だけど」
「親見知りなら迷惑をかけずにやり過ごせる…と」
「まあそんなところですかね?」
まあそのくらいならいいか。と自分の中で決着を付け、話を前に戻す。
「そういえば君敵さん。旅行の件なんですが…」
「そうでした!完全に頭から飛んでいました。ありがとうございます!
そうですね…まあ夏休みは確定としまして場所をどうするか…ですね」
「言い出しっぺがこんなんで大丈夫なんですかね…場所かあ。出来れば景色がきれいなところとか、恋人が訪れそうな雰囲気の場所が理想的ですよね。」
「そうですね…海なんてどうでしょうか?」
「悪くはないんですけど…なんか定番過ぎるというか」
「なるほど。月ノ瀬くんは型破りな男性…っと。それで、どこがいいんです?」
なにかメモをとられた気がするが…いちいち突っかかってはキリがない。
適当に場所を連想すると、昔に誰かと行った山のキャンプ場を思い出す。
「山でキャンプ何てどうでしょう?昔行ったっきりでもう一度いきたいなーって思いまして。確か景色と夜空が綺麗だった気がします。どうでしょう?」
「いいですね! 山でキャンプなんて幼稚園の時以来です!」
「じゃあはほかの皆さんに連絡をしておきましょうか」
「はいっ! よろしくお願いします!」
ぼくは椿さんと七瀬くんに要件を伝え、ウキウキとした顔の君敵さんの横顔を見つめていた。
いやあ、春も終わりを迎えそうですね……なんだか悲しくなってきてしまいます。
次回はギャルゲー回になりそうです。あとは定期テストなど……旅行までにまだイベントは盛りだくさんです