第4話 部活
「それは…家が隣だからですよ?」
なんの冗談性もなく、ただただ疑問に満ちた声でそう返答する。
恐らくハッタリの類いでは無いのだろう。理由は二つある。
ひとつ目が、君敵さんはただ疑問に満ちた顔をしていることだ。
にやけ顔をするでもなく、目が泳いでいる訳でもない。
もうひとつが、僕の家のとなりが高級マンションだということだ。
君敵さんの家はとてもお金持ちで、ここら一帯を締める君敵財閥のご令嬢。
彼女がそこに住んでいたとして、なんの疑問も無い。
「その目は、もしかして私が言っていることが信じられないんですか?」
「ええ、まあ」
君敵さんとは中学時代殆ど話したこともないし、帰り道に彼女の姿を見たことなんて一度もない。そんな彼女が隣のマンションに住んでいるなんて、想像もしなかった。
「それでは、今日は部活が終わったら、一緒に帰りましょう!青春っぽくないですか?」
「まあ、別に構いませんが、誤解されても知りませんよ?」
実際に君敵さんは高校に上がっても、モテる事に変わりはない。
今じゃ学年のアイドルだ。そんな彼女がオールノーマルな僕と一緒にいた。
なんて事が知れたら、僕が殺されてしまう。その面ではこの人にはたくさんの学習を積んでほしいものだ。
今日も何気ないような時間を過ごし、授業が終了する。
部活にいく準備を済ませ、席を立とうとすると、
「あら、月乃瀬くん。今から部活ですか?」
「ええ。君敵さんも、これから部活ですか?」
「はい。もし月乃瀬くんさえ良ければ、一緒に部室に行きませんか?お話ししたいこともありますし。」
「僕は構いませんが、君敵さん僕が朝に言ったこと、もう忘れたんですか?」
「ふふふ、もちろん覚えていますよ。回りの人たちに誤解されたくない。ですよね?」
「覚えていてくれたんですね。なら言動は慎んでください。」
「仕方ありませんね。しかし、同じ部員であれば一緒にいてもおかしくはないと思いますよ?」
「まあ、それはそうなんですが…」
こちらが反論しない事でこの口論は終わりだ。
勝ち誇った顔をする君敵さんに腕を捕まれ教室を出る。
渡り廊下を歩いている途中、急に話を振られる。
「ところで月乃瀬君は、この部の事をどう感じていますか?」
いきなりの質問に戸惑いながらも冷静さを取り戻し答える。
「とても良いところだと、思いますよ。人付き合いが苦手な僕でも、あそこでなら、本当の自分でいられると言いますか」
言い終わって、急に体温が熱くなるのを感じる。我ながら恥ずかしい事を言ってしまったと、後悔していると、クスクスと君敵さんが笑っていることに気がつく。
「いえ…ごめんなさいね月乃瀬くん。なかなか、可愛いところがあるんですね」
またもや体温がぐっと上がる。これは照れとかの類いではなく、ただただ羞恥に襲われているだけだ。
そんなどうでもいいようなことを話ながら、部室の扉を開ける。
すでに七瀬くんと椿さんは到着しており、お菓子を食べながら談笑していた。
「こんにちは。お二人とも。今日もご参加いただき、ありがとうございます。
今日から、本格的に部活を始めていきたいと思います。」
君敵さんが軽い挨拶を交わし、トートバッグから、なにかを取り出そうとする。
その光景を僕たち三人は、緊張した面持ちで見つめていた。
君敵さんが探し物を見つけたのか、ニヤニヤとしながらそのブツを取り出す。
「恋を知るためには恋を体験する。それが手っ取り早いと考えまして、私!考えました。皆さんでギャルゲーをしましょう!」
わ、わーい。何だか凄い名前が飛んできた気がするな~。あははー僕ってばとうとう耳がやられたっぽい(笑)ギャルゲーとか言っちゃった?聞き間違いだよね~
そんな微かな願いも打ち砕かれる。胸を張り堂々とした顔でギャルゲーのソフトを抱えあげている。横目に残りの二人を見やると、これはひどい。七瀬くんは世界の終わりを告げるような顔をしており、椿さんに関しては、白目をむき出し、口を開き、凄く間抜けな顔をしている。全員状況が掴めていないらしい。無理もない。
ルックス、学力、運動能力、コミュニケーション能力、どれを取っても完璧な
学園のお嬢様から、ギャルゲーなんてワードが出てきたのだから。
「皆さん?もしかして聞こえませんでしたか?仕方ありません。皆さんでギャ…」
「わー!それ以上言わなくていいいですー!分かりましたよ!やりましょうギャルゲー。いやーギャルゲーなんて始めてやるなー!あははははー!」
「そ、そうね!やりましょうギャルゲー!私かわいい子攻略するわー!私!女だけど~!あははははー」
「よ、よっしゃー!やるぞギャルゲー!おっ⁉このパッケージの子、かわいいな~
よーしゼッ↑タイ↓攻略するぞ~」
もうみんな、テンションがおかしかった。七瀬くんは声がひっくり返るし、椿さんはレズに走ってしまうし…
対する君敵さんは感動したのか。口元に両手を添え、ピクピクと震える。
そして16時42分。恋愛塾に空爆が落とされる。
「そんなに皆さんギャルゲーをやりたかったんですね!私感動しちゃいました。
人数分カセットを揃えてきた甲斐がありました。」
そこには人数分のギャルゲーのソフト。今度は迎撃に失敗し、回避不能な空爆に僕たち3人はその場に力なく座り込んだ。