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飼育員さんの1日 (8)

晩御飯も終わりティーアはお片付けもほとんど終わりました。

今は先にアスカさんがお風呂に入っている最中です。


「しかし…………あれだけ急いでいた割には別に普通通りでしたね。変ですね何だったんでしょう?。…………変なのはいつもですけど。」


アスカさんはさっきまであんなに晩御飯を急がせたのに行ってみると…………


『あっ!来た。いいよいいよ。急がなくて。晩御飯はゆっくり作って。』

『?さっき急いでと言ってませんでしたか?』

『そ、そんな事は言ったっけ?ははは…………まあ、普通に作ってくれればいいよ。』

『?…………そうですか?分かりました。』


とこんな感じでした。

しかし、その後はいつもと同じ様子でご飯を食べていてティーアの料理をぺろりと平らげてしまったのです。

会話も普段と変わらずといった感じです。

やっぱりティーアの考えすぎでしょうか?

うーん。

分かりません。


「ティーア!お風呂上がったよ。」

「はーい。分かりました。」


そうこうしてる間にアスカさんがお風呂からあがったようです。

ではティーアも入ることにしましょう。

ティーアは洗った食器類を拭き終わると一度部屋に戻って着替えを一式準備するとお風呂に向かいました。

お風呂はこの仕事はどうしても汚れる事がどうしても多いのでいつでも使えるように作ってあるというこちらも又アスカさんのこだわりのお風呂です。

本当にアスカさんはここを作るのにどれだけのお金を注ぎ込んだのでしょうか?

中も広くて浴槽は縦長で二三人なら裕に入ることが出来ます。

脱衣場で服を脱いで体を洗った後湯船に浸かりました。


「はふう。いいお湯です。お湯に疲れが流れ出てます。」


お風呂の中だけはティーアだけの時間のように感じます。

お風呂で足を伸ばして全身でお湯を味わいます。


「うーん。やっぱりもう少し体を鍛えるべきでしょうか?」


お湯の中で腕や足をマッサージしながら肉付きを見ます。

これも日課です。

細腕では今日も思いましたが細腕ではやはり不便です。

腕はぷにぷにしてました。


「…………余分なお肉は無いんですが…………筋肉も育って無いですね。」


言っていて自分で悲しくなります。

でも、まだ成長する余地はあるはずです。

ティーアはまだ諦めていません。


「しかし…………今日は疲れました。」


口元までお湯に沈み今日のお仕事を振り返ります。

街でクオールを見たこと。

新しい飼料の調合を見せてもらったこと。

そして…………

フラミーさんとミーアのこと。


「ミーア…………」


やっぱりその事が思い出されます。

ティーアは自分ではもう区切りはつけたとは思っていましたが、目を瞑るとミーアが出てきます。

でもミーアに誓ったのです。


「ティーアいるー?」


あれ?

突然アスカさんの声です。

何でしょう?普段ならこの時間は書斎兼研究室にいるか寝室にいるはずなんですが…………


「はい。お風呂にいますよ。」

「あっ、まだいる?ちょうど良かった。」


ん?ちょうど良かった?

何でしょうか?

すると、脱衣場の所にアスカさんが来ました。


「あれ?どうかしましたか?ご用でしたら出ましょうか?」

「ううん。いいの。そのままで。」

「はい…………」


本当にどうしたのでしょう?

珍しいです。

しかも、脱衣場でごそごそ何かしているようです。


「あれ?アスカさん?何してるんです?」

「ん?私もお風呂に入ろうかなーと思って。」


ティーアが気付いた時には時すでに遅しでした。

お風呂の扉が開いたかとおもうとそこには一糸まとわぬ姿のアスカさんが立っていました。

さっきのごそごそは服を脱いでいたのです。


「ちょ、ちょっとアスカさん!?何してるんですか!」

「いや、だからお風呂に入ろうと思ったって言ってんじゃん。」


全く恥じらいのないその堂々たる姿に思わずティーアの方が恥ずかしくなり湯船に沈んでしまいました。

アスカさんの方は特に気にしていないのかシャワーをじゃあじゃあと体に浴びせ始めました。

顔を上げたティーアの顔はきっと真っ赤だったはずです。

でもきっとお風呂で温まっているのでアスカさんには気付かれないはずです。


「アスカさん!せめて隠すとか…………」

「何を気にしてんの?女同士じゃん。」

「それはそうですけど…………」


同性同士でも思わずアスカさんを横目で見てしまいます。

しなやかな体躯がシャワーの水を弾いていて体つきもティーアとは全然違います。

何だかじろじろ見ているのも恥ずかしくて目をそらしてしまいます。

アスカさんはシャワーが終わるとティーアの入っている湯船に来ました。

どうしましょう。


「すみません。ティーアもう上がります。」

「いいよ。いいよ。たまには一緒に入ろう。長湯好きでしょ?ティーアは。」

「…………はい。」


アスカさんに言われてティーアは一度出ようとした湯船にまた浸かりました。

アスカさんはティーア浸かっている正面の所に浸かっていました。


「………………」

「…………ふー。」


何か言いたいのですが何も言えなくて思わずティーアは喋れなくなってしまいます。

アスカさんはジャバジャバと湯船で顔を洗っています。


「ふー。気持ちいいねえ。」

「…………あの、さっき一回入ったんじゃないんですか?」

「ん?入ったよ。」

「何でまた入ってるんです?」


ティーアはとりあえず最初に持った疑問をぶつけてみることにしました。

アスカさんは真っ直ぐティーアの目を見て…………


「…………実はさっき外で星を眺めてたら転んじゃって汚れたから。」

「…………嘘ですね。」

「えっ!何で分かるの?」


バレバレでした。

そんな事でお風呂入り直す人がこんな生活するわけがないですから。


「…………半年の付き合いですから。」

「ふーん。バレてるか…………」


あれ?

普段ならここで何か一言あってもいいのですが何故かアスカさんがトーンダウンしました。

どうしたのでしょう?


「まあ、本当の所はさ、ちょっとティーアが心配で見に来ちゃったんだよね。ほら、今日はミーアのこともあったし、こういうのは裸の付き合いがいいって軍で習ったし。」

「…………そうでしたか。」

「でもさ、私、弟子とか取ったこと無かったからさどう元気付けたらいいか分かんなくて…………ティーアの師匠なのにね。」

「アスカさん…………」


(せき)を切ったかのように話し出したアスカさんは普段より少し早口でした。

そして普段よりティーアのことを心配してくれていました。


「…………でも、私は嬉しかった。今回改めてティーアを弟子にして良かったと思ったんだ。」

「…………え?」


ティーアは息が止まるかと思いました。

まさかティーアがアスカさんにこんなことを言われる日がこんなに早く来るとは思っていなかったからです。


「だってティーアはまだここに来て半年しか経ってないけどミーアに対して真剣に心配して、真剣に悲しんでくれた。そんな心の優しい弟子を持って私は嬉しかった。だから、どうしても元気付けてやりていなって。」


…………この人は本当に分からない人です。

普段はめちゃくちゃなのに、ドラゴンに関しては超超一流で、でも師匠としては自分ではまだまだだと思ってて……


「…………アスカさん。」

「何?」

「ティーアもアスカさんの弟子で良かったっていつも思ってます。でも、今回更にそう思いました。こんなに思って貰えてティーアは嬉しいです。そして元気になりました。」


だからティーアは率直に伝えました。

アスカさんに貰った感謝と元気を。


「…………ティーア。」

「はい。」


アスカさんはふるふると震えていました。

まさかティーアの言葉に感動して泣いているのでしょうか?


「ティーア!!もう可愛い過ぎ!」

「えっ?えっ?」


感動で震えているのかと思っていましたが次の瞬間、アスカさんがティーアに抱きついてきました。

そしてティーアを捕まえるとその腕でぎゅっと抱き締めました。

ティーアはいきなりのアスカさんの行動に驚きなすがままにされてしまいました。


「ああ、やっぱり私の目は完璧だったようね!こんないい子に育つなんて!」

「あ、あの…………アスカさん?」


ティーアが何か言おうとしてもアスカさんの体が顔に押し当てられたせいで喋れません。

というか女同士でもこれはちょっと。


「ア、アスカさんちょっと。」

「何?」

「そ、その顔にアスカさんの胸が押し当てれて苦しいです。」

「あっ、ごめんごめん、吸いにくいよね?ほら。」

「何がです!?」


何故かティーアの頭とアスカさんの体の間に少し空間を作るアスカさん。

何を考えて…………


「いや、ティーアのためなら頑張れば出るかもしれないじゃん。ぼにゅ…………」

「出ません!!それに出ても吸いません!何でそうなるんです!?」


何を言い出すんですかこの人は!!

ティーアは力いっぱいアスカさんを離しました。

ティーアをいくつだと思ってるんでしょうか?


「いや、だってさ、ミーアの世話しながらティーアが泣いてたからここは慰めるには母性愛も必要かなって…………」

「見てたんですか!?」

「うん。最初から最後まで。」

「…………」


まさか見られていたとは…………

真正面から言われると何だか恥ずかしくなってきました。


「大丈夫だって、誰にも言わないから。」

「そういう問題では無いです!」


重ね重ねこの人は…………

何でティーアはアスカさんの弟子になったのか、たまに分からなくなる時があります。


「…………でも。」

「はい?」

「ティーアが元気になったみたいで安心したよ。」

「…………アスカさんのお陰ではありませんけどね。」

「はいはい。」


ティーアのささやかな抵抗もさらっと流されてしまいました。

しかし、実際にところはそれがアスカさんは一番の心配だったのでしょう。

安心してくれてなによりです。


「とにかく明日からもお世話頑張りますからちゃんと教えて下さいね。」

「勿論。まあ、ティーアが覚えられればだけどね。」

「ふふ、そうですね。じゃあ私はお先に失礼します。」

「待った。」

「?」


ティーアが話を上手くまとめてお風呂から上がろうとした時です。

アスカさんに腕を掴まれ止められました。


「まだ何か?」

「ティーア…………」

「はい……」


アスカさんがティーアのことを上下と目を動かし見ています。

やけに真剣な目付きです。

ティーアの方はちょっと恥ずかしいのですが。


「うん。ティーアの裸は覚えた。また、一緒にお風呂入ろうね。毎回チェックするから。」

「…………いえ、もういいです。一生。」

「何で!?ドラゴンの体型チェックと同じだよ。」

「…………一生言ってろです。」

「ちょっと?ティーア!分かった。ドラゴンにもしてあげてる発育マッサージしてあげるから。」


この日ティーアは初めてアスカさんに暴言を吐きました。

でも、不思議と罪悪感は一切ありませんでした。

…………本当に疲れました。

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