飼育員さんの1日 (9)
それからもアスカさんは中々ティーアを解放してくれませんでした。
逃げるティーアを脱衣場まで追い回してあれやこれやと。
今度からは入ってこれないようにお風呂に鍵をつけましょう。
誰かつけてくれる人を探さないといけません。
ロック辺りがいいでしょうか…………
でも、ロックにティーア達が入ったお風呂を見られるのを想像すると寒気と吐き気がします。
やはり別の人を探しましょう。
やっとの思いでアスカさんから逃げると、ここからがやっとティーアの一人の時間です。
「何でお風呂で疲れなければいけないのでしょう。」
せっかくお風呂に疲れを癒しに行ったのに逆に疲れが溜まってしまいました。
濡れた髪をとかしながら思わず愚痴が出てしまいます。
アスカさんは一切悪気はなくむしろティーアのために来たくれたのは重々感じてはいるのですが、如何せん後味が悪すぎて何だか素直に感謝することが出来ません。
「でも、日の浅いティーアのことをを心配してくれているんですよね。」
きっとそうです。
きっと…………たぶん。
「しかし、ここに来て半年ですか。髪もだいぶ伸びてきましたね。」
ティーアはここに初めて来たときは肩位までの長さの髪の毛でしたが今は背中位までの伸びています。
お仕事の時はポニーテールにしているので邪魔にはなりませんがそろそろ髪を乾かすのに時間がかかるようになってきました。
「…………そろそろ切り時でしょうか?」
鏡を見ながら髪を指に絡ませます。
元々はショートカットで来たのですがあの品評会を見て以来、アスカさんに憧れて髪を伸ばし始めました。
最初は両親が伸びるたびに切ってしまい、なかなかロングにすることが出来ませんでしたが今はそのアスカさんより長いという状況です。
「うーん。明日一応アスカさんに聞いてみましょうか。参考になるかは別として。」
仕事の時にはタンクトップを着ているような人ですがきっとティーアに似合う髪型を提示してくるはずです。
でも、恐らくティーアは本当に参考にしかしないと思います。
「あっ。今日は月がくっきり見えるんですね。」
ティーアの部屋はアスカさんの家の天井裏です。
何故天井裏かというとティーアがこの家に押し掛けたときにここしか空いてなかったからです。
天井裏なんですが意外と広くて窓も一つ付いています。
最初にここに住み始めた時はそこかしこ汚くて本当に住めるのかと思いましたがティーアの非凡なセンスでこの部屋は蘇りました。
それどころか間違いなくアスカさんの部屋より綺麗です。
その一つしかない窓からは大きく欠けてはいますが月がくっきりと見えていました。
「あんな綺麗な月を食べるなんて野蛮なドラゴンもいるものです。」
昔からドラゴニアの古い言い伝えで月が欠けるのはドラゴンが夜に月を食べているからだというのがあります。
…………勿論言い伝えなのでティーアは信じていませんよ。
そんな子供騙し。うん。
でも、月を見るたびに思ってしまいます。
この世には色んなドラゴンがいて、ティーアもアスカさんさえも知らないドラゴンがきっといて中には悪いことをしてるドラゴンもいるかもしれないけど、そのドラゴン達と出会う機会がティーアにはこれからあるのだと。
勿論最終的な夢はあの日ティーアが見たアスカさんのように誰かを魅了することの出来る金等級のドラゴンの飼育員になることです。
でも、ティーアはここに来て色んな個性のあるドラゴンを見ました。
見た目は勿論、性格まで一匹一匹違うのです。
それぞれがとても魅了的で可愛い存在でした。
ティーアは色んなドラゴンを見てみたいとも思うようになりました。
ドラゴニア以外の国にもドラゴンは沢山いるそうです。
ティーアはいつか街の外にも出てみたいです。
自分の部屋に一人でいるときはいつもそんな夢を膨らませています。
「さてと…………」
ティーアには1日の終わりに必ず日記を書くという習慣があります。
これはこの家に来た日から始めました。
ティーアの机に向かい引き出しの一番奥に隠してある日記を出します。
アスカさんに見つかりたくない物なので分かりにくい所に置いています。
まあ、アスカさんがティーアの部屋に入るということは無いのですが、用心に越した事はありません。
最初はこの日記はアスカさんの教えを1日の終わりに復習するために始めたのですが、あまりアスカさんが物事を教えてくれなくて自分でなんとか盗んでいくしかないと決めた時からは普通の日記になってしまいました。
それでも毎日欠かす事なく書き続けています。
ティーアは今まであまり物事が続くことが無かったのでティーア自身も日記が続いていることには驚いていますが、たまに振り替えって見てみると面白かったりします。
これもティーアの成長なのでしょうか?
「今日は…………」
日記は毎回そんなに時間をかけることなく書き終わります。
思ったことを書いているだけなので早いときは数分です。
日記を書き終えるとまた机の引き出しの奥の方にしまい、やっとベッドに入ります。
「はふう。」
布団の不思議な温もりには毎回負けてしまいます。
いっそこのまま永遠に夜のままならいいのにと魔法をかけられたかのようです。
「ふああ。」
どうやら、そろそろ限界のようです。
目を瞑って明日の事を少しだけ考えます。
朝起きたらいつも通り四匹に元気よく挨拶して朝ごはんをあげないといけません。
その後はアスカさんを起こさないと明日は上手く起きてくれるでしょうか?
そんな事を考えているうちにティーアは夢の中でした。
ドラゴンの飼育員の1日はこうして過ぎていきました。
次回からサブタイトルが変わります。
ティーアの日々をどうぞよろしく。




