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飼育員さんの初めてのお客さん(21)

「…………んうん?ここは……ティーアの……何で?」


ティーアが目を覚ますとそこはいつものティーアの部屋でした。

ティーアは自分のベッドに寝せられていました。

服も寝るときの格好になっています。

頭は少しボーッとしていて何だか不思議な心地でした。


「何がどうなったんでしたっけ?」


記憶をゆっくりと呼び戻すように自分の頭のなかを整理しました。

外に出たところでアスカさんに会ったところまでは覚えてるんですがそこから記憶が途切れています。


「おっ!起きた?」

「?ルージュ…………」


そう言いながら元気に部屋に入ってきたのはルージュでした。

ルージュも初めてここに来たときと動揺の修道服のような格好に着替えています。

手には水差しとカップを持っていました。

そしてベッドの側の椅子に腰かけます。


「私は……どうしたんでしたっけ?」

「びっくりしたわよ。突然倒れるんだもの。やっぱりあんたはその程度よね。」

「…………はあ、そうでしたか。それにしても倒れた相手にもルージュは容赦ないですね。」


ティーアはそう言いつつもいつも通りのルージュの言葉に何だか安心感を覚えました。


「まあね。でも大丈夫そうね。安心したわ。」

「すみません。ところでアスカさんが来たところまでは覚えてるんですがその後は?」

「ああ、あの後はドラグニア軍がすぐに制圧したらしいわ。私達はすぐに安全な所に移されたからよく分かんないけど…………」

「そうですか…………」


クオールも居ましたしドラゴンまで使ったとなれば戦力差は圧倒的にドラグニア軍が有利ですし時間の問題だったでしょう。


「でも、ドラグニア軍が突入したの私達のお陰みたい。」

「?どういうことです?」

「いや、私達で干し草焼いたでしょ?あれが外からも見えたみたいで中が何かあったってのが分かったみたい。それでドラグニア軍が一気に攻めたんだって。」


どうやらティーア達もそれなりに役に立っていたようです。

自分達が逃げるための作戦がまさかそんな所で役立つとは全く何が好転するか分かりません。


「あっ!そう言えばあの白いドラゴンは?今どうしてるんです?」


話を聞いていて思い出しました。

ティーアは危機一髪の所をあの不思議なドラゴンに助けられたのでした。


「ああ…………ラソの事?ここにいるよ。」

「クークー」


ルージュの後ろからあの白いドラゴンが出てきました。

ルージュの側を片時も離れようとしません。

しかもあの時のように声は聞こえず本来のドラゴンの鳴き声がしました。


「…………実はさ、あの後こいつから声が一切聞こえなくなったんだ。とりあえず私なりにラソって名前はつけたんだけど…………」

「…………原因は分からないんですか?」

「分かったら苦労しないよ。アスカも分からないって。」


アスカさんも分からないんじゃお手上げです。

やはりこの子は卵の時からの未知な部分が多いようです。


「そうですか…………で?アスカさんは?」

「下にいるわよ。ドラゴンの飼育員やってる。」

「あっ、そうでしたか。」


ティーアがいないということは必然的にアスカさんが全てをやらないといけないわけでした。

そうなるとティーアがこんなところでのんびり寝てる訳にはいきません。


「まずいです。アスカさんに迷惑をかけるわけには…………」

「ちょっと待って!ちょっと話があるんだ。ちょっとでいいの。聞いてくれない?」

「はい…………何か?」


急にルージュが真面目な顔付きになりました。

そう言えばルージュの依頼である使い魔となるドラゴンは得られました。

となるとその事に関することになるのでしょうか?

…………とするともう依頼が終わったのでルージュは帰ることになります。

……お別れの挨拶とかになるのでしょうか。


「…………お願い!ティーア。私と一緒にカトラス王国に来て欲しいんだ。」

「…………えっ!?ティーアがですか?」


それは想像をはるかに越えたものでした。

ティーアがルージュの故郷であるカトラス王国に?

何故?


「ど、どうしてです?ティーアはまだ見習いの身ですし、ルージュの役に立つとは…………」


そ、そうです。

アスカさんならまだしもティーアごときでは……

結局あの時ルージュを守ったのはで?ではなくラソです。

それに別にティーアでなくても…………


「ティーアがいいの。ティーアでないとダメなの!あの時ラソが生まれたのも声が聞こえたのもティーアがいたからなの。だから私はお願いしてるの!お願い!ティーア!私と来てもう一度この子の声を聞かせて。」

「…………だってさ。ティーア。」

「…………あっ。」


頭を下げるルージュの後ろにいたのはアスカさんでした。

いつもの姿でいつもの笑顔でアスカさんはそこにいました。


「私もさっき聞いたんだけどね。ルージュはティーアのお陰で成長したからこのドラゴンと3人で頑張りたいんだって。このドラゴンを本当の相棒にするためにね。」

「そう。ティーアがいればラソはまた私達に声を届けてくれるような気がするんだ。勿論、お金は私が払うから。」

「……そんな、突然言われても…………」


全然ピンとこない話でした。

ルージュとアトラス王国へ?

じゃあ見習いとしての私は?

アスカさんはそれでいいの?

そんな事が頭を駆け回ります。


「アスカさん…………はティーアがいなくなってもいいんですか?」

「…………それはティーアが決める事だから……私にはどうも出来ないよ。ここで一人前を目指すのもいいし、外で色々見てくるのも勉強になると思う。ちょうど良いことに外に出るのも自由だから外の情報や知識を得て生かすことも出来るからね。」

「そうですか……」


その時ティーアの脳裏に昔アスカさんが言っていたことを思い出しました。

アスカさんは昔、ティーアがティーアであるのなら時代が変わってもやっていけると。

もしかしたらアスカさんはこういう日が来ることも予想していたのかもしれません。


「アスカさん…………」

「…………何?」

「ティーアはドラグニア軍の竜舎で自分がここでは見たことないものを色々見ました。………ティーアはもう一人である程度出来ると思いましたが現実はもっと勉強することがありました。…………だから、もっと色々勉強するために外を見たいと思います。」


ティーアは今思ったことを正直に言いました。

勿論アスカさんにもっと教わりたいという思いもありますがそれ以上にもっと物事を見たいと思ったのです。


「ティーア!」

「…………そう……か。決めたんだね?」

「はい。」


ティーアはルージュに着いていくことにしました。


「じゃあ、アスカさん行きますね。」


次の日。

朝早くにティーア達はカトラス王国へ向けて旅立つことにしていました。

さすがにこの日はアスカさんも早く起きてくれていました。


「……うん。頑張っておいで。」


ティーアを見送るその顔はドラゴンを送り出すように優しく微笑んでいました。

それにこたえるようにティーアはアスカさんと握手をしました。


「はい。アスカさんも無理ばっかりしないでくださいね。」

「じゃあ、最後は別れのキスを…………」

「……はい。」


チュッとティーアはアスカさんの頬にキスしました。


「ふふっ、たまには良いですよ。」

「……ふふふ。やるじゃない。」


最後にやっと驚かせられました。

これで心残りが一つ消えました。


「ティーア!!早くー」

「はーい。今いきますよー。」


少し先ではルージュが急き立てます。

なんでもカトラス王国は結構距離があるらしいので早く行かないと日が暮れるそうです。


「では…………改めて……いってきます!」

「いってらっしゃい。」


アスカさんとお互いに視線を重ねてるとティーアはクルリと回りアスカさんの元を離れました。


「ルージュ待ってくださーい。」

「遅いのよ!早く早く!」


それからは一度も振り返りませんでした。

ティーアは今のティーアは未来しか見てませんから。

今日も天気が良さそうです。

絶好の旅日和になりそうでした。

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