ググランダ+フロッグマン=執念
マッドゴーレム以外にもクルタクルの沼には、ドラゴンフライが飛んでいる。
ドラゴンとついていても要するにでっかい蜻蛉だ。
マッドゴーレムも、ドラゴンフライも、経験値が少ないので数をこなさないといけないのが辛い。
クルタクル沼の主、土龍ググランダ討伐は明日の昼に決行となっている。
これはググランダが餌を求めて遠くの沼地にいっては、罠のある場所に誘導しきれなくなるからだ。
少しでも生還率を高める為に進化はしておきたい。
《これで、どうだっ!》
ソードマジックを使い魔力の剣でドラゴンフライを襲う。
ドラゴンフライも口から酸を吐き此方を牽制しつつ横へ横へと回り込む。
酸をステップで避け、羽を狙い飛び掛る。
ドラゴンフライは急制動を掛け体当たりしてきた。打撃音と共に吹き飛ばされた!
くそっ、体が小さい分当たり負けしてしまう。接近戦はこの体だとやっぱりきついな。
『キュキュキュ』
吹き飛ばした今がチャンスと思ったか、此方めがけて突っ込んでくる。
なめるなよ、【クイックアップ】俺の意思に反応して書ける君が素早く空を踊る
俺は奥の手の魔法クイックアップを使う。
脳の思考が速くなる、神経が過敏になり脳からの命令を体が素早く行使する。
先ほどの倍近くの反応速度でドラゴンフライの後ろに回りこみマジックソードで両断したっ!
切り裂き音と共にドラゴンフライが真っ二つになった。『キュゥゥゥゥゥ』音を立てて地面に落りる。
これで三十二匹目、どうだっ!
そう考えを巡らした時進化の変調が来た!
体を熱く赤い光が覆い、そしていつものように入ってくる!
一際明るく カッと光った後俺は進化していた。
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【ヘルハウンド(子)】
【HP162】
【MP200】
【攻撃力71】
【防御力88】
【魔法力50】
【必要経験値1000】
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種族スキル
【捕食】11【第6感】
【火炎無効】【耐氷】
【ジャンプ】【ステップ】【身体能力アップLv1】
【火炎力アップ】【氷結力アップ】
【リジェネ(微)】
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【速書き術Lv7】
【ペン習字】
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俺は真っ赤な色をしたコリーのような子犬になっていた。
《やった!なんとか間に合ったぞ》
これはっ、ステータスもかなり上がったけど【耐炎】が【火炎無効】に変わった。
どう考えても火系の攻撃が効くかなくなったとしか思えない。そして【身体能力アップLv1】これをためしてみる。
【身体能力アップLv1】発動
これは・・・ステータスに変化はないけど、確実に身体能力が上がっている。体の動きがさっきまでと比べるとかなり違うぞ。
ただ、一秒ごとに1MPずつへって行く。今のMPだと最高で二百秒しか使えない、使いどころが難しいスキルかもしれないな。
だけどこれでできることは全てやった。あとはググランダを倒すのみ!
◆ ◆ ◆ ◆
「それでは、私が空からググランダを見つけて合図を送りますね」
《ああ、頼んだ》
決戦の日、先ずは空からミカエラが土龍を探し出す。沼に潜っていない限り直ぐにでも見つけ出すだろう。
「それでは、我々は配置につくゲロ、シュン殿、どうかよろしく頼むゲロ」
《了解だ》
フロッグマン達は、決め事どうりに配置につく。マナナもケロード達と一緒の配置だ。
「それじゃ~わんちゃん、いってくるね~」
《ああ、きつい事を頼んで悪い》
「えへへ、大丈夫だよ~」
マナナは今ケロッグ達が用意した簡素な布の服とズボンに着替えている。作戦上ボロボロになるのが分かっているからだ。
作戦の肝はググランダを池から逃げ出させないようにする事、これ一つだ。
マナナの特性を生かし、ググランダが池を出ないように火の中に飛び込みできれば目を潰す。
後はフロッグマン達が全霊をかけて押し止める。方法は聞いてないがかなりの覚悟だ。
女子供、老人以外全てのフロッグマンで押し止める。人数は約二百人。
俺からしたら住む場所を変えればいいと思うんだ。だけど彼らは違った、先祖代々住んできた故郷。そして、ただ食いたいが為に殺された同胞たちの無念の気持ちと大蛇にたいする怒りが、彼らを復讐へと駆り立てている。
なら俺はどうなんだろう、別段彼らに同情した訳ではない。この沼地をとおらないと期限に間に合いそうにないからしょうがなく手伝うようなものだ。けっして褒められていい気になったわけではない!
《あー、やめやめ、やると決めたんだからうじうじしてもしょうがない!》
それから三十分ほど……合図である赤い光が上がった。土龍ググランダはその下に居る。
行くぞっ!!
◆ ◆ ◆ ◆
二十メートルもの巨体が沼地を叩き水しぶきと地震のような振動を撒き散らす。
ググランダの巨体が四十分の一ほどしかない子犬を追いかけている。
途中でぶつかる岩など全て吹き飛ばし、体をくねらせる。
その破壊力は圧倒的で、食べられずとも弾き飛ばされただけで体が粉々になりそうだ。
《うおおおおおおおおおおおおおお》
そのググランダの前を命がけで走るのはヘルハウンドの子供シュン。彼は今物凄い形相をしていた。
顔は蒼白で瞳には涙がたまり、舌をだらしなく垂れさせ荒い息を吐いている。
《やばい、無理これ、何でこうなった? 俺はどうしてこんな事をひきうけたんだあああああああ!》
後悔先に立たずというフレーズが頭の中を駆け抜ける!
『シャーーーーーー』
《ひっひぃぃぃぃぃぃぃ》
激しい音が響きググランダの巨大さを物語っている。
ググランダの体が地面を叩くたびに地響きと揺れと泥が襲ってくる。
《ひっひひひひ、ひぃぃぃひひひ、ひゃっはーーーやってやる、やったるがなーー!!》
精神が崩壊寸前まで追い詰められている。それほどの恐怖。
走る事十分、もう少し……もうすこしいいいいいっ!!
全長三十メートルは有りそうな大岩を回りこむ。燃える水の匂いだっ、大蛇は……確認しなくてももう直ぐそこまで来ている!!
《ぬあああああああああ!》
燃える池に、事前に板で作った橋の上を最後だとばかりに走り抜ける。
【身体能力アップLv1】【クイックアップ】
クイックアップをかけなおし、スキルをつかってスピードを上げる。
橋を渡りきった時、ググランダは池の真ん中ほどに到達していた。
周りに身を潜めていたフロッグマン達が松明を燃える池に投げ込む!
その瞬間、爆音と爆風が周囲を破壊という名で蹂躙した!
《うわわわわっぐげっ》
爆風に吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。
《いたたたた、どうだ?やったのか?》
『シャーーーーーーーーー!!』
ググランダは体中に消えない火を点し、痛みと熱さで狂ったように暴れている。
《あれでもまだ死なないのか》
ググランダは炎の地獄と化した池を急いで逃げようとしている。
しかし、逃げようとした先に回りこむ人影が、リサが炎の地獄と化した池にググランダめがけて突っ込んだ!!
「りゃああああああああああっ!!」
右手には大きく丈夫な槍を持ち、ググランダの右目めがけて飛び上がり、突き刺した!!
『シャァァァァァァァァァァッ』
痛みに暴れリサが放り投げられる。リサじゃないとできない無茶苦茶な攻撃だ……なのに!
『ワアアアアアアアッ』
雄たけびを挙げ、次々とググランダに飛び掛っていくフロッグマン達!
あるものはたどり着く前に炎に焼かれ、あるものはただ痛みで暴れてるだけのググランダに潰される。
彼らの選ん道は、死んでも池からググランダを出さない事。
ググランダの力は圧倒的で、フロッグマン達はただただ死んでいく。
火に焼かれ、叩き潰され、弾き飛ばされる。それでも誰一人として戦う事をやめない。
俺はその光景を呆然と見ている事しかできなかった。
そして誰かがググランダの顔に張り付く、あれは……ケロード、駄目だそのままじゃ振り落とされる。
俺は咄嗟に魔法を使っていた。
【ウインドウォール】
顔を振って振り落とそうとしたが、風の壁にぶつかり勢いがつかない。
ケロードがググランダの左目に腕を突き刺す!
『シャーーーーー!!』
滅茶苦茶に振り回され岩に叩きつけられたケロードと一瞬目が合った。
おかしいよ、なぜあれだけ満足そうな顔ができるんだ!
《うわああああああああっ!!》
俺は自分でも何を言ってるのか分からない滅茶苦茶な思念を喚き散らしただMPが尽きるまで【フレイムランス】をググランダ相手に放っていた。
音が……あれほど激しい戦いの音が消えている……
周りを見回しても誰も立っていない。二百名ほどいたフロッグマンは全て死んだ……
上を見上げる、ググランダは鎌首を挙げた体勢で動かない。
そして、ゆっくりと崩れ落ちていった。
激しい音と泥しぶきを上げ地面に横たわるググランダ……
それがクルタクル沼の主、土龍ググランダの最後だった。
そうググランダは死んだ、フロッグマン達の執念がググランダよりも強かったんだ。だけど!
《皆死んで、それで勝てたからって何になるんだよ!!》
たった一日話をしただけ、しかも元々フロッグマン達に良い印象なんて持っていなかった。
だけど、どうして涙が出てくるんだ?後から後から流れていく。
《こんなの無駄死にじゃないかよっ! どこかに移り住めばもう誰も死ななかったのに!!》
パシャッと足音を立てて年老いたフロッグマンが近づいてくる。
「たしかに、この地をすて何処かに移住をすれば、村の男たちは助かったケロ」
老ケロッグが俺に語りかける。
「しかし、新しい土地に移ったとて、我らが生き残れる保障が何処に有ったケロ」
いつの間にか、周りにはフロッグマンの子供たちが集まっていた。
「この子達は、父の、兄の勇姿を今日両の眼に焼付けたケロ。我らは誇りと故郷を守り通したケロ」
《そんなの俺は納得できない》
「そうか、残念ですが仕方ない事ですケロ」
俺はどうしてもググランダを捕食する気には成れなかった。馬鹿なことかもしれない、でも彼らのことを否定した俺にその権利があるとは思えなかったんだ。
「わんちゃん、大丈夫?」
吹き飛ばされボロボロになった服を着たマナナが、心配そうに俺に声を掛ける。
俺はここに一秒でも長く居たくなかった。
《マナナ……行こう》
「うん」
そう頷いて俺を抱き上げる。
《なっなんだよ、いきなり》
「うん~なんでかな~どうしてもわんちゃんを抱き上げたかったの~」
そういって俺のお腹に顔を埋める。とても恥かしいのに、とてもありがたかった。
そして俺とマナナは沼を抜ける為に歩き出したのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
誰もいなくなったあとググランダの死体の頭の上に、ミカエラが立っていた。
「やっぱり、ここに入り込んでましたか。暴食のグラトニー」
そう呟いてなにか黒い靄のような物を、手持ちの本に吸い込ませていく。
「これであとは嫉妬のエンヴィーだけですね……しかし、私だけではアレは手に負えませね」
一つ思案して。
「一先ずはシュンさん達と行動を共にしますか。あのおかしなスキルは何かの役に立つかもしれませんね」
そう呟き、瞬達が消えたほうへと顔を向け一つ頷くと飛び立っていった。
フロッグマン達の生き様にどうしても理解できない主人公。
主人公は今日という日をけっして忘れません。
少しずつ成長していく主人公を応援してやってください。




