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酒場+おっぱい=ソムリエ

自由都市、魔都キリマン。


東ユーラン大陸中央に位置し、商業の中心であり交通の要所でもあり。魔属領唯一の議員制で六人の議員によって運営されている独立都市でもある。


そして、バトルウォー唯一の市街戦フィールドが、ここキリマンで行われている。


        

        ◆ ◆ ◆ ◆



魔都キリマンには誰でも自由に出入りできる。露天や商売をするには最低限の身元確認をされるが、他に制限は一切ない。


たとえ重犯罪人だろうと聖人君子だろうと全て平等に扱われる。


だがこの都市は今五人の魔王によって守護されていて、わざわざ魔王達に悪印象を与えたいと思う馬鹿はそうそういないだろう。


露天商が立ち並ぶ大通りには、雑多な種族が行き交いその喧騒とエネルギーは熱気となって渦巻いていた。


《うはー、すごいなー。まるで秋葉原に来たみたいだ、人(?)がごった返しているよ》


「う~わ~すごいね~」


俺とマナナはまるでおのぼりさんのようにあたりを見回しては驚きの声を上げていた。


「そうですね、ユーラン大陸でも有数の人口を誇る上に今週はバトルウォーが開催されるみたいですよ?」


《え?ここでバトルウォーをするんだ?》


少し呆れたようにミカエラが聞いてくる。


「シュンさんの目標は、バトルウォーに出るようになることではありませんでしたか?せめて開催される場所ぐらいは覚えたほうがいいですよ」


むぅ、確かにそうだが、そんな余裕がなかった気がするのは何故だろう……


「ふわ~、わんちゃんわんちゃん、すっごいよーでっかいよー、ふわー」


《マナナ、言いたい事はなんとなく分かるが、もうちょっと分かりやすく言ってくれ》


マナナは都市の中央に建っている、巨大な銅像を指差して興奮していた。


「あれはこの都市を作った時に、六人の魔王が不干渉を貫くという制約の為に建てた自身の銅像ですね」


《へー、この都市って魔王六人が作ったのか、それなのに議員制なんだな」


「魔属領のど真ん中ですからね、ここを他の魔王に取られるのは嫌だったのでしょう。取り合いをしてはまた戦争になりますしね」


なるほどなー、それにしてもよく知っているな。


《ミカエラは物知りなんだな》


「少し興味がありまして、色々調べた物で」


そういって肩をすくめる。


《さて、まずは魔道具屋に行けばいいんだっけ?》


「ええそうです、そこで魔物の特殊部位が売れますよ」


クルタクル沼を抜けてから五日ほどかけて、ここ魔都キリマンに着いた。


その道中、なんどかモンスターに襲われたが、全て返り討ちにした。


ミカエラがいうには、他に誰も来ない場所のモンスターの特殊部位はいいお金になるとか。


考えてみれば俺とマナナはモンスターを生でもいけるが、ミカエラは流石にモンスターも生も無理みたいだ。どこかで食料を調達しなければいけない。


それに皆ボロボロだし、宿を取って身奇麗にもしたい。俺はともかく二人とも女の子なのだから。


それにはお金がいる。俺とマナナが持っているわけがなく、ミカエラも少ししか持ち合わせがない。なので都市に寄り、換金できるモンスターの部位を売りに行くわけだ。


「ふわーふわー、あっ、おいしそ~」


「マナナさん?離れては迷子になりますよ……ふぅ、仕方ありませんね」


俺が考え事をしているとマナナがふらふらと動き出し、ミカエラがそれを追いかける。


《二人ともあんまりはしゃいで動くなよー逸れたら迷子になる……ぞ?》


俺がそういう間に、すでに2人とも姿が見えない。


《あっあれ?、2人ともどこに行ったー?おーいマナナ?ミカエラー?》


あれ?おかしいな、確か魔道具屋の場所はミカエラしか知らないんじゃなかったか?


《………》


あっれぇ?動いてない俺がもしかして迷子になってなくね?


《おっおーい、マナナー?ミカエラー……どこにいったのー!?》


俺はマナナやミカエラと逸れ、右も左も分からない場所で子犬一匹になったのだった。


《ふたりともどこーー!?》



        ◆ ◆ ◆ ◆



二人と逸れていく当てもなく、裏通りをとぼとぼと歩いていると、酒場らしい場所から激しい言い合いが聞こえてきた。


普段なら別段気にせず通り過ぎるのだが、話の内容が俺の興味を惹きつけた。


「ええかっ! フレイア・ゴルドワのほうが、可愛いに決まっとるやろ! 氷結の魔女なんぞただのババァやっ!」


身長百八十センチほどの赤い髪をオールバックにした、冒険者風の服を着た男がテーブルを叩いて主張する。


「何言ってやがる、あんな乳臭い餓鬼のどこがいいってんだ、それに比べて氷結の魔女のあの色気。かーたまんねーだろうが!」


もう一人はトカゲのような顔に尻尾、服をきてその上に革の防具を着込んでいる。リザードマンだ。


そのリザードマンに同調するように他の客たちも『そうだそうだー』と援護する。


どうやら赤髪の男のほうが不利なようだ。


酒場の奥には、この世界のテレビといってもいい、映像を記録したり中継したりできる魔法の水晶【映って送れるんです】が壁に二人の女性を映し出している。


『炎帝ガリウス VS 氷結の魔女レイファー』


どうやらバトルウォーに出る選手のプロフィールみたいだ。そして今映し出されているのは。


炎帝の娘、フレイア・ゴルドワ。ショートカットにした真っ赤な髪に金の瞳、顔立ちも整っており小麦色の肌が健康的だ。

メリハリの効いた見事なプロポーション。コルセットタイプのレザーアーマー(上乳と横乳が見えるタイプ)に白銀の胸当て、赤いミニスカートから見える太ももが眩しい。赤いレザーブーツを履いている15~6歳ほどの、まるで太陽の様な美少女だ。


対するは氷結の魔女、魔王レイファー。紫のゴージャスな髪に青い瞳、肌は病的に白く黒のナイトドレスのようなものを着込んで、肘まである青い手袋にガラスのような靴を履いている。

こちらまで匂ってきそうな、そんな錯覚を覚えるほどの色っぽさ。氷の薔薇、そんな比喩が似合う女性だ。


甲乙つけたがし!


だが、酒場の客はどうも氷結の魔女派ばかりのようで、赤髪の男の劣勢は覆せそうもない。


「わかったか小僧、誰もあんな乳臭い餓鬼には興味ないんだよ!」


「なっなんやと~~~われーかくご……」


俺は・・・我慢ができなかった。


《馬鹿やろおおおおおおおおおおおおおお!!》


いきなり酒場中に大きな声の思念が響く。


『なっなんだ?』『何処から聞こえてきた?』『これって念話だよな?』


ざわめく酒場のテーブルに俺は飛び乗った。


《お前らみんな馬鹿やろうだ! いいか?フレイア・ゴルドワをよく見ろ! 健康的な小麦色の肌に、美しいが愛嬌のある顔立ち! あんな少女ににこりと笑いかけられる。それを想像してみろっ!》


『何を言ってるんだ?』『馬鹿かこいつ……』『いや、言われてみれば確かに……』


いきなりの闖入者に目を白黒させる酒場の客たち。勢いに釣られ想像をめぐらす物まで居る。


《それに付け加えあの肌の張り! そしてプロフィールの二段目にある私服姿!!》


俺の説明に酒場のマスターが画面を私服姿のアップにする。ナイスフォローだ。


《見ろっ、あの服の上からでも分かるつんと上を向いているおっぱいの形を!!》


『おお……おおおお!』


《あれこそ見事なロケット型おっぱい、十代後半だからこそ出せる健康的な色気! 想像してみるんだ! あのおっぱいをつついた時の弾力を!》


『おおおおおおおおおおおおお!!』


《まさにぷるるん、ぷるるんおっぱいだ! さらにあの戦闘装備!》


マスターが元の画面に戻す。


《あっ横向きの姿にできます?》


マスターが頷きフレイアちゃんの横向き姿が映し出される。


《コルセットタイプのレザーアーマーだからこそ見える上乳と横乳、その上から白銀のプレートアーマーで潰される巨乳! だからこそ見えるのが……このはみ乳だあああああ!》


『うわあああああああああああ!!』


歓声が爆発し酒場を満たす。


《だが氷結の魔女だって魅力的だ! あの大人の魅力、匂いたつ色気。たしかに肌の艶はフレイムちゃんにはもう勝てない、だがだからこそ出せる大人の色気があるんだ!》


『おおお……おおぉぉぉ!!』


《そして、あの大きなおっぱい! 形や張りではフレイムちゃんには負けている。だが大きさでは氷結の魔女が勝っている!》


『うおおおおおおおおおおお!!』


《だがしかし、そのために氷結の魔女のおっぱいは……垂れている……だが! それがいいんだ! あの大きなおっぱいが重力に負けて揺れに揺れる姿を想像してみろ! それこそおっぱいの魔力! 垂れ魔おっぱいだあああああああ!!》


『うわあああああああああああ!!』


またもや酒場に歓声の悲鳴があがる。


《甲乙つけたがしっ! どちらも魅力溢れる女性なのだ!!》


俺はテーブルの上に後ろ足だけで立ち、両前足を広げて高らかに宣言した!


『なッ何者なんだあの子犬は』『信じられねー、目から鱗だぜ』『あれこそおっぱいソムリエだ……!』


「わいがアホやった、そうやなどっちも魅力溢れるとる。どちらが上なんてあほなことやった」


赤髪の男がうなだれる。


「そんなことねーぜ兄ちゃん、俺も馬鹿だった。フレイア・ゴルドワ、可愛いお譲ちゃんだ」


リザードマンが赤髪のおとことがっちりと握手する。


うんうん、これこそ青春だ!


『おっぱいソムリエバンザーイ』『ぷるるんおっぱいバンザーイ』『垂れ魔おっぱいバンザーイ』


この日、酒場『比翼亭』は魔窟の坩堝と化した。



        ◆ ◆ ◆ ◆



「いやーほんとまいったわー。わいもまだまだ修行不足やったでー」


そういいながら俺の目の前においてある皿に葡萄酒を注ぎいれる。今俺は、赤髪の男と酒を飲んでいた。名前はアポロス・ゴルドワ。少し引っ掛かる名前だが始めてのお酒に酔っていてどうでも良くなっていた。


《いやいや、ここの客たちもノリがよくて、ひっく、俺の言いたい事を理解して貰えてよかったよ》


「実はわい、あのフレイムと血縁でな?乳臭いとか馬鹿にされてて悔しかったんや」


どうやら身内のことを馬鹿にされてあんな騒動になったらしい。ひっく。


《わかるっ、わかるよ~身内を、ひっく、馬鹿にされ黙っていられるかってんだー、ひっく》


「そのとおりや、でもな、だからって相手の好きなものを貶すのは違ったわけや。ほんま勉強になったわー」


《うむ、よきに……はからえー》


「わはは、なんやそれ、もうよっぱらったんかー?」


《にゃにおー、私はよっておりまへんっ!!》


「そうかそうかシュン、今日はわいのおごりやどんだけ食って呑んでもええでー」


俺はアポロスの優しさに触れて思わず泣き出していた。


《うえっうえええ、やざじいんだな、アポロスは。おでこっちの世界に来てこれだけやざじくされたのは初めてだ~うえええ》


「どないしたんや?わいに話してみ?」


《おで、おでスライムにされて、ゴミだのヘタレだの、犬鍋にされるは餌にされるは不味いといわれで》


おーいおいおいと泣く子犬。


「分かる、分かるで~女に理不尽な扱いを受ける。つらいわな~、わいもそうや、妹の胸を揉んだら半殺しにされ、部下の尻を揉んだらしばきまわされ。ほんまきっついわー」


自業自得な気もするが酔っ払いにそんなことは分からない。


「えらい苦労しとんねんな。よっしゃシュンこのコインをお前にやる」


そういって懐から炎の紋章が描かれた1枚のコインを取り出す。


「これ持って炎魔王の統治下にある街や村の軍関係者に見せて、わいの名前出せばいろいろ便宜図ってくれる。困った事があったら遠慮なく使い」


《うぼーいいやずだなアポロスってー》


おーいおいとまた泣き出した子犬、かなりの泣き上戸だ。


「きにすんな、わいとシュンの中やないか」


意気投合し明け方まで飲み明かす2人だった。


        ◆ ◆ ◆ ◆


おっぱいソムリエ誕生から半日。


《ぐが~~、すぴ~~~ぴゅるるるるる》


「うおー流石に呑みすぎたか、しもうたなー今日は勝たなあかんのにゲームまであと6時間しかないやんけ……まぁなんとかするしかないか」


アポロスがそう呟いていると、一人の女性が酒場に入ってくる。


「殿下、こんな所に居たのですか。探しましたよ」


真っ赤な長い髪を後ろで括りまるで踊り子のような民族衣装を着た美女がアポロスに話しかける。


「おう、なんやミザリー、わいがおらんで寂しくなったんか?」


「ありえないことを言っている場合ではありませんよ。氷結の魔女にやられました」


氷結の魔女の名前を聞いてアポロスの顔つきが変わる。


「なにがあったんや?」


「闇討ちをされた上、食事に毒を混ぜられました。被害は八チーム四十名、予備につれて来ていた者を入れてもあと五名人が足りません」


「ちっ、やってくれる。まさかそこまであからさまな事までするとは思わんかったわ。それで?補充はできるんか?」


その言葉にミザリーは顔をしかめる。


「バトルウォーに出るための百人に後一人足りません。先手をうたれゲームに参加できる資格を持つ従者や契約者は四名までしか集めれませんでした」


ミザリーの言葉にかなり切羽詰った物が感じ取れる。


「くそがっ、百人にたらんと不戦敗になるやんけ。わいらはあのババァに二連敗しとるんやで!三連敗でゲームオーバーや!」


《ぐが~、ぴゅるるるるるる~》


二人が深刻な表情で話をしているのに暢気にいびきをかく犬。


「……おい、シュン、ちーと起きようか」


そういって揺さぶって起こす。


《んあ?何事?》


「お前バトルゲームの資格とかもっとらんか?Eクラスでもええんやけどな」


いきなり子犬にそんな事を聞き出すアポロスに呆れながら。


「殿下、そんな子犬がゲームの資格を持っているわけないでしょう?」


「わかっとる、けど他にあてなんて見つからん。なら今は誰でもいいから聞くしかないやろ」


ぼーとした頭で二人の会話を聞く、どうやら俺なんかがゲームの資格なんて持ってないだろう?このゴミめっと女の人が言ったように聞こえた。


なんだとー!けしからんおっぱいをしているくせに!!


《持ってるぞー!!Eランクであるはずだー!!》


いきなりのハイテンションに二人ともぎょっとするが、資格持ちと聞いて素早く動く。


「ミザリー、データー確認できる水晶をもってこい」


「分かりました!」


急いで走っていくミザリーを見送って、アポロスがシュンに声をかける。


「なあシュン、今わいはちーとばかし困ってんねん。助けると思って簡易契約してくれへんか?」


酔っ払いはなにも考えずに応える。


《んおーばっちこーい!!》


シュンが威勢良く返事をする。丁度ミザリーも戻ってきた。どうやら近くまで持ってきていたらしい。


水晶をシュンの手に触らせ、データーを読み込む。


「確かにEランクの資格を持っています。これでゲームに間に合いますね」


「よっしゃ、これであのババァぶっとばせる! 卑怯なことばかりしよって、唯ではすまさんで!」


シュンはお酒でフラフラしつつ、アポロスの取り出す契約書にサインをした。そして……




        ◆ ◆ ◆ ◆


バトルウォー開始三十分前。


『皆さんおまたせしましたっ! 炎帝ガリウス VS 氷結の魔女レイファーのバトルウォーが始まります!! 最初にフィールドに現れたのは、炎魔王軍、炎帝の息子、炎の貴公子アポロス・ゴルドワだー!! おっと? アポロス戦闘者の肩に一匹の子犬がくっついているぞっ!! あの子犬にはどんな能力があるのか楽しみです!! そして……』



アポロスの肩に捕まり、廃墟に流れる風を受けつつ俺は思った。


……どうしてこうなる?



貴方は好きですか?


それとも大好きですか?


私は大好きです。

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