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冬祭りの妖精と人間

それから俺達は町の中を少しぶらぶらしてから冬祭り装に戻った。そしてすぐ眠いとか言いながら人のベッドで今までぐっすり寝ている時間の妖精だったのだ。

「本当に良く寝るなぁ…」

 こうやって黙っていりゃ結構可愛い少女に見えるのによ…。もうこのまま永遠に眠って欲しいくらいだ。起きたら可愛いのはホント顔だけだから。あ、でも可愛いと言っても客観的にこいつよりうちのKOの北野の方がもっと可愛いだろう。でもまあ…こいつもなかなか…。っていけない!俺はこんな正体不明の非常識な迷惑の妖精なんかには何の興味も無い!

 俺は頭を振って短いため息をしながら時計を見た。

「は…。そろそろ起きてくれないかな」

 時間は6時を過ぎた頃。そろそろバイトに行かなくちゃ…。でもこいつを起こすのも少しかわいそうだからメモでも残しておくか。

「これからバイトに行く…。12時までには戻ってくるからもしお腹空いたら冷蔵庫にある弁当温めて食べろ…。レンジの使い方は知っているだろう…。眠くなったら先に寝ろ…っと」

 これでいいか。電気は付けたままにして、俺は外に出て鍵を閉めた。4月なのに口から出てくる息は白い。夜になったらまた寒くなった。やっぱりこの町の天気は普通じゃない。暑くないのはいいけど。

 俺はもう一度白い息を吐いて体を回した。同時に誰かの声が俺を止まらせた。

「お前か。ロニ姉様の契約者ってやらが」

「ん?誰?」

 俺は声が聞こえる方を見たが、そこには人の影も見え無かった。その代わり地面に何かが落ちていることを発見した。

「…ん?」

 紫色の面長の丸い物体。見たところ茄子じゃないかと思ったが…。

「う、動いている?」

 その通り。あの茄子みたいな物体が動き始めたのだ。

「うわっ!怖っ!何だこりゃ!」

「怖いって、俺様の立場にはテメーの方がもっと怖いぞ!でっかいし」

 な、何だこいつは。頼むから不思議ごとって言うか変な事件は一ヶ月に一度だけにしてくれよ。…ってか、茄子が喋ってる⁉

「な、何だこの茄子!喋っているじゃないか!」

「誰が茄子だ!このクッソ野郎!」

「じゃあ、何だ⁉どう見ても茄子じゃないか!…茄子じゃないかも知れないけど」

「よく見ろ、このクッソ野郎!ただ服が紫で顔はちゃんと黄色だろ!俺は梨だ!梨!梨の妖精!」

 は?

「…妖精?梨の?」

「そう!人に茄子だなんて失礼じゃないかこのクッソ野郎!」

 何で俺が初対面の妖精にクッソ野郎とか言われなきゃいけないんだ?でも茄子じゃなくて梨

か…。ほお―。こいつもなかなかやるなぁ。なんでうまい話だ。

「それより、テメーロニ姉様の契約者だろう?」

「…だとしたら?」

「やっぱりそうか」

 あの茄子…じゃなくて梨の妖精って奴は俺を見て何かを納得したように頷いた。

「まあ、テメーみたいな野郎なら心配は無かろう」

「何だそれ。って、お前何だ?あいつと知り合いか?」

「あいつって言うな!姉様と呼べ!」

 ロニもそうだけど何で妖精達は皆始めから怒鳴る。何?姉様?梨の妖精が話し続けた。

「知り合い…だったと言うのが正しいだろう」

 過去形?

俺が理解出来なくてそのままあの妖精を見ていると妖精が自らその理由を話した。

「だから、記憶を失う前には知り合いだったっつうことだ」

「何?記憶を…?」

「何だ。そんなのも知らなかったのか?…ま、知らないだろうけど」

どういうことだ?つうか、ロニが記憶を失った?と言ってもあいつは今までフィギュアの姿でゲームマシンの中でいたはずじゃなかったのか。

「じゃあ、ハニワの姿の時の?」

「んな訳あるか。姉様は元から人間の姿だった」

「…人間の姿?…まあ、それはともかく、なら何で記憶を失った?」

 すると茄子服の梨の妖精は近くにある俺の自転車に登り、ハンドルの上に座ってから俺の質問に答えた。

「それは…」

 何か言い辛そうな顔をして少し戸惑う。そして言うことを決めたのか俺に話し始めた。

「いずれ分かることだから言ってもいいか…。姉様は元妖魔だったからだ」

「…何?」

 妖魔?ロニが?いったいどういうことだ?

「妖魔になった妖精は時間の妖精とその契約者によって封印される。そして名前と妖精の規則以外の全ての記憶を消去され、再び妖精として生きることになるんだぞ。その一人がロニ姉様だ」

 記憶を消去?

「でも何であいつが妖魔に…?」

 そもそも妖魔って何だ?何で妖魔になるんだ?今日の妖魔の少年のあの悲しそうな顔はいったい何だったんだ?

 梨の妖精は俺の目を見て喋る。

「人間に恋をしたから」

「…人間に…?」

 …恋を?

「元々妖精と人間の間には恋の感情なんか生まれない。少し変な例えかも知れないが…お前が猫や犬に恋をしたりする事は無いだろう?それと似たようなもんだ。元々人間と妖精は別の生き物だから。だから恋を感じない。あ、人間が妖精に恋をする事は多いぞ。人間は妖精のことをただの人間だと勘違いしているからな。だが妖精は違う」

「いや、でも妖精も相手が人間か妖精か区別出来ないんじゃ…」

「本能だよ。いくらかっこいい相手でもその相手が人間じゃ、恋の感情が生まれないんだよ。でもその中で極少数はいる。人間に恋を感じる物好きがよ。そうなると分かるようになる。相手が人間か妖精かを。まあ、どうやって分かるようになるかは俺にも分からない。俺は普通の妖精だから」

 …そしてそれがロニっだったってことか…。

「で、でもそれだけで妖魔になるなんて俺には全然納得いかない」

「はぁ…頭悪い野郎だな…。もちろんそれだけで妖魔になったりはしねぇ。問題はその後のことだ。元々人間と妖精の恋は認められない。それを知って諦める連中は恋をしても妖魔にはならない。でも自分の恋が認められず、好きな人と別れなければならないって事に悲しみを感じる者もいる。大好きな人とつながれない。その感情が大きければ大きいほどその悲しみは深くなるのさ。そしてその悲しみが暴走を呼び起こし、…やがてその妖精は妖魔になる」

「いや、待て…。何で妖精と人間の恋が認められないんだ?」

「もちろん、駄目な訳ではない…だが、別の生き物と恋愛する人間を見たとしたら、お前はどう思うと思う?」

「…それは…」

「同じだよ。俺達妖精にとっては人間に恋をする妖精がそうなわけ。とは言え、人の恋を勝手に駄目だと法律で決めるのはあんまりだろ?だから許されない訳ではない。でも…認められることは…出来ない」

 しばらくの間、お互い黙って何も言わなかった。そしてその沈黙を俺が破った。

「じゃあ、ロニは昔、人間に恋をしたってこと…だな?」

「ああ。そして姉様は時間の妖精になった」

「……?」

 しかし、何で元妖魔だったロニが妖魔を封印する時間の妖精なんかになったのか…。

「時間の妖精は皆元妖魔だった者達だ。もちろん、元妖魔だっただけでなれるもんではない。妖魔だった妖精の中で…好きだった相手の人間がこの世にいない者だけが、それもその人間の死が暴走の理由になった者だけが時間の妖精になるのさ」

「好きだった人の…死?」

 何か…俺の頭にも何かが浮かんだ…。でも次の瞬間梨の妖精が話を続けたせいでその浮かびは消えてしまった。

「ああ。その最大の絶望は恋という感情そのもの自体を消してしまう。人間だけでなく、妖精さえも好きになる可能性が無い妖精。つまり、二度と妖魔になる可能性ゼロの者。時間の妖精にこれ以上ふさわしい者は無いだろう」

「恋の感情を消すって…」

 人間に恋を感じない…。結論はそれが時間の妖精の条件だってことか…。昼間に言った時間の妖精は特別な存在だってのかこれのことか…。妖精の規則と名前だけは記憶に残っているから、自分がどういう者なのかを分かっていたから、だから言いたくなかったのか。

「でも何でフィギュアの姿になった?」

「ああ、それは人によって違う。妖魔が封印されると他の妖精に生まれ変わるって言っただろう?その中では、上級の妖精だった妖魔が低級に生まれ変わることもある。少ないけど。時間の妖精もたまにそんなことがあるけど、その時には契約者と出会うことで人の姿に戻れる。姉様の場合はそれがフィギュアだったってことだけだぜ」

 …でも、恋した相手の死のせいで恋の感情を失ったなんて…。

「じゃ、お前は前のロニを知っているってことか。…でもここにロニがいるって事は何で分かった?」

「ふっ。偶然だったぜ。昼間にお前とロニ姉様が二人でカレーを食べているのを偶然に発見して追いかけて来たんだぜ。」

 …まるでストーカーじゃないか。えらそうに言うな、この茄子。ん?そうだな。まだこいつの名前聞いてなかったな。

「おま…」

 と、聞こうとして口を開けたと同時に俺の部屋のドアが開き、そこから今の話の主人公、ロニがあくびをしながら出てきた。


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