冬祭りの妖精と人間
「よし!まず俺がお手本見せてやる」
バッティングセンターに到着した俺はそう言って打席に入ってバットを持ってそのバットを1回握ってコインを入れた。そして…
ブン―パン!
ブオッ―パン!
ブオオッ―パン!
「…こ、こうしちゃいけないってことを見せたかっただけだ」
「……」
ああ…、そんな目で見るな。分かっている。一つも打てなかった俺が情けないってことぐらいは…。だからそんな生ぬるい眼差しはあまりにも過酷すぎる…。
「ふっ」
ロニは俺をサラッと見て打席に入った。って、今笑ったな…。よし。俺も笑ってやる!お前が一つでも打てると思うのか?
「こんなのはね、タイミングを合わせて当てるだけでいいのよ。コンタクトヒッティング!」
偉そうに言うな。そう簡単にいけたら俺だって全打席ホームラン、もしくはサイクリングヒットだったはずだ。
カーン!
「でぇ?」
カーンッ!
「だぁ?」
本当に打てた。何でだ⁉しかもあんな短いスカート履いているのに何で見えないんだ?って!俺は山田みたいな変態じゃない!すまん山田!うっかりお前を変態のバイブルだと思ってしまった!
「ふっふーん。どう?」
全てのボールを一つも残らず全部打った10割打者の彼女は堂々と笑いながら俺を見た。
「ちっ…」
その後ロニはバッティングがかなり気に入ったのかバッティングセンターに誰もいなくな
るまでずっと何回もお打ってからやっと出て来た。
「あ――。面白かった」
「てか、バットは持って来るなよ…ん?」
俺は話を止めてロニが持っているバットの違和感に気づいた。頭の部分に氷がついている。…これはまさか…?
「近くにいるよ。」
「ん?」
ロニが言った。やはり、これは。
「そうか…。気配が感じれるのか?」
例の子供。そう、妖魔が現れたということだ。
「うん。どこにいるかは分からないけど」
ロニはそう言ってバットを握ったまま俺を見た。ん?バット…?うわっ!何だかこいつの目、光っている!何だか笑っている!
「おい!待て!何でバットを持って俺を見る⁉って、何で上げる⁉やめろ!時間を止める前に俺が死ぬ!俺自身の時間が止まる!」
「冗談よ」
ロニはバットを下げてのんきな声で言った。
「こんな状況でそんな怖い冗談はやめろ!ただでさえその時間を止める作業は怖いんだから!」
でもロニは俺の話を聞かなかった。彼女はこの辺で転がっているボールを拾って、それを握った手で俺の後頭部を強打したのだ。
「とぅはっ!」
ああー気が遠くなる…。
そして、時間が止まった。
「って―、痛いじゃないか⁉」
「仕方ないでしょう。そうしなくちゃ時間は止まらないもん」
いったい誰だ?こんなとんでもない時間の止め方考えた奴は。
止まっている時間の中。その空間は動いていた時の時間とはあんまり変わったことが無い。灰色ぽっくなったり空が曇ったりすることもない。普段と同じで太陽の光は眩しく、世界の色はそれぞれの色を持っていたままだ。ただ今まで吹いていた風の動きは止まっている。そして今まで動いていた人達の動きも停止していた。
その中でたっだ一人、見覚えがある少年だけが悲しそうな目でどこかを凝視して少しずつその視線の方向へ歩いていた。あいつだ。今回もまだ気づいてない。時間が止めたことを。
「さぁ!行きなさい!そして捕まえなさい!」
ロニが視線は俺に、人差指はその少年に向けて命令した。
「だから何で⁉」
「もう!早くしないとまた逃げちゃうよ!」
だったら自分でしろ!…とか言う暇も無く、俺はロニに背中を押されて少年のいる道路まで出てしまった。少年はまだ俺の存在に気づいてないらしく、視線を動かせないまま、ずっと前へ進んでいた。つまり油断している。今がチャンスってことだな。
俺はそう考えて一度ロニを振り向いた。ロニはバッティングセンターから一歩も出てないまま、俺を催促している。…少年よりあいつを捕まえて警察にでも渡したい気持だが、多分渡したところで警察が拒否するだろうからやめとく。
視線を少年、氷の妖魔に固定した俺はばれないよう注意して少しずつ彼に近づいた。そしてやっとあと一歩で手が届けるくらいまで近づいた瞬間。
「…誰?」
いきなり少年がこちを振り向いた。うわ…びっくりした―!
「あ…よ、よう…」
何がようーだっ!この馬鹿!
少年は俺の顔を見て素早く後ろにさがった。あぁ…、また遠くなったな…。
その時、少年が口を開けた。
「何で?何で僕を捕まえようとするの?僕は何も悪い事してないよ!」
「ん?あ、いや―その…とりあえず落ち着いてな」
俺は一歩少年のほうに足を動かした。すると突然また回りが凍りだした。
「うわーっ!」
「来るな!来るなと言っただろう!」
少年は今でも泣きそうな顔で叫んだ。
「人を好きになるのが何が悪いんだ!」
そうだ。妖魔。つまり人間が好きになって、暴走している存在。すなわち彼はただ恋をしただけだ。ただ、その気持があまりにも大きいだけだ。だから悲しんでいるのだ。そもそも、妖精って言う奴らが人間との恋を認めてあげれば済む事じゃないか?俺の立場から見ると悪いのはこの少年ではなく、人の恋を許してあげない他の妖精達だ。…でもこのままじゃ人間も困る。とりあえず捕まえて封印した方が…。
そう思った俺は少年を説得し始めた。
「いや…。それが悪いとか言ってるんじゃなくてな…。そ、そう!俺もそう思っている!人が好きになるのが何が悪いんだ!な?だから怖がるなよ。な?」
一瞬、氷が減ってきた。話が通じたのか…?
「逃げなくてもいいからな」
俺の説得が効いたか、少年は俺が近づいても逃げようとしない。
そして俺は少年の手を捕まえた。よし!この後はどうすればいいんだ?
俺はロニを見た。同時にロニがこちに向かって走り出した。これで終わるのか…?
そう思った時、いきなりロニの足が凍り付いてしまった。
「あっ!」
路にはそのまま地面に転んでしまう。
「ロ、ロニ!」
あわてている俺を見て、少年は言った。
「僕を騙した!兄ちゃんの言葉、少しは信じてたのに!」
信じてた?いや、別に俺は嘘なんてついたことないに。でも少年は俺を睨めていた。確かちょっと良心の呵責は感じるな。そして少年は今まで来た方向、つまり見ていた方向の反対の方向へ走り出した。俺は少年を追うかロニのところに行くかを少し迷ったが…やはりロニのほうが心配だから追うのはあきらめた。
「おい、ロニ。大丈夫か?すごい激しく転んだみたいだけど」
俺はそう言いながらまだ倒れているロニに手を出した。ロニは平気だと言って俺の手を掴んだ。
「バカ!あたしはどうでもよかったのに。おかげで逃がしてしまったじゃん」
「…俺が悪いのか?なあ、俺が悪い?」
「もう、いい」
ロニを起こした俺は彼女の膝のかなり大きな傷を見てしまった。うわっ!痛そう!
「おい、早く手当てをしたほうが…」
「こんなの大丈夫。すぐ直るから」
「いや、すぐって。どう見ても一週間は行くだろう」
「時間が動き出したら傷は消えるから」
ロニは立ち上がって時間が止まる前に俺たちがいたバッティングセンターへ戻る。
「…え?」
俺はそんな彼女を支えながら反問する。
「そういう仕込みなの。あたしもよくは分からないけど」
「そ、そう?」
「そうなの。でも初めてだね」
と、ロニが俺に顔を向ける。近い!顔近い!
「ん?な、何が?」
「あんたに名前を呼ばれた事」
そ、そうだったっけ?そういえば…そうだったな…。いや、それはどうでもいい。
「心配してくれたのはちょっと嬉しいよ。ありがとう」
何か上からの目線だなこいつ。それに顔近いって!
「って、今はそれを言うところじゃないと思うんだが?」
「ふふ…。また照れている…」
「誰が!てか、名前呼んだだけで照れるもんか!」
するとロニはつまらない顔をした。
「ちっ。アニメではこうすると顔が赤くなったりして3倍くらい早くなったりとかするのに…」
「どんなアニメだ」
「それより早くバッティングセンターへ戻りましょう。また時間が動く前に」
話の切り替えが早い。人の話無視するのも見事だし。
「で、結局逃がしたけど…」
「そうね。あんたがだらしないから逃がしてしまったけど…また現れるよ」
「悪かったな。だらしなくて」
「分かったらいい」
あー殴りたい!こいつが女の妖精じゃなかったらもう何度も殴ったかも知れない!…いや、イメージだけ。イメージだけだから。本当に殴ったりはしないんだそ。俺は優しいジェントルマンだからな。
そして時間はまた動き出し、本当にロニの傷は完全に消えたのであった。




