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黒犬異世界奇譚  作者: 黒い悪魔
眼帯、冒険者になる
22/34

第六話 油断は禁物

 



「はっ!」


 薄く魔力で覆った足をグラドックの頭部めがけて繰り出す。当たった瞬間に魔力を開放し、内部へと放つ。まともに食らったグラドッグは数匹巻き込んで2メートルは吹っ飛ぶ。


「やるなぁ!坊主!戦闘力だけでいったらC級はあるんじゃないか?」


 足を振りぬいた隙を狙って跳びかかるグラドッグだったが、キートの隙を埋めるようにガイエルが重たいハルバートを素早く振り下ろし、頭蓋を叩き割る。リッカは相手がうまく連携できないように二振りの湾刀で戦列をかき乱す。そうして相手が隙を見せた時に復帰したキートが重い一撃を食らわす。


「余裕って言ってただけあるわね!」


 互いが互いの隙を埋めるようにフォローしあう。ガイエルとリッカはまだしも、初めて会ったキートが居るにもかかわらず、非常にスムーズに連携ができていることにガイエルとリッカは驚いていた。


「粗方仕留めたな」

「そうね。もう向かってくる気配は無いわ」

「こんなもんか」


 ここはシンジーク街道から少し離れた森の中。最近、この森の中に巨大な狼の影を見たという噂があり、その調査兼増えているグラドッグの駆除というのが今回ガイエル達が受けた依頼だ。


「それにしても多いわね」

「普段はこんなにいないの?」

「ええ」


 森の中にある少し開けた場所で戦っていた3人。辺りには10体ほどのグラドッグの死体が打ち捨てられている。


「取り敢えず尻尾切るぞ」


 尻尾は討伐証明となるため、3人でせっせと尻尾を狩る。


「ガイエル、俺1つ学んだわ」

「どうした、急に」

「戦闘よりも尻尾きりのほうがキツい」

「ガハハハ!そんな事言う新人はお前ぐらいだろうな!!」

「確かにこういう雑魚くて群れる魔物の証明集めは面倒よね……ッ!!!」


 何かが近づいてくるを感じ、臨戦態勢になる3人。リッカが今までにないくらい厳しい表情をしている。


「拙いわね……。ひょっとしたら例のデカイ狼ってやつかもしれないわ。気配が濃い」

「下がれるか?」

「多分もう狙われてる」


 相手がこちらを凝視しているのが分かるほどの圧力が感じられる。索敵に優れているリッカは特にそれを感じていた。


「っち。坊主だけでも逃がすぞ」

「そうね」

「おい、俺もやれるぞ」

「馬鹿が……たかがグラドッグ程度で図に乗るな小僧」

「来るっ!!」


 相手が動いたことを感じたリッカが叫ぶようにして知らせると、次の瞬間轟音を響かせて木々をへし折りながら現れる巨大な体躯。


「くそ!バウンティウルフか!!」

「流石に私とガイエルじゃ厳しわね」

「坊主、俺らが隙を作るからさっさと逃げろ」

「今更引けるかよっ!」


 3メートルはあろうバウンティウルフがその鋭い爪で3人を裂こうと足が振るわれる。すぐさま散開するが、それを狙ったようにグラドッグが現れる。


「こいつら取り巻きか。めんどくせぇ!!」


 ガイエルが数匹纏めてハルバートで攻撃する。なるべくバウンティウルフに背を見せないように立ちまわるが、他の2人と少し距離があるため連携もできず、グラドッグに混じって上位個体のグラッドウルフも混じっていることもあって苦戦する。リッカもガイエルと似たような状況だが、ハルバートよりも取り回しが良い湾刀を使っているので身軽に動けている。しかし、決定力に掛けるため大勢いるグラドッグやグラッドウルフから逃れることは出来ないでいた。


 一方のキートだが、真っ先に飛びかかってきた1匹をハイキックで迎撃すると、グラドッグを無視してバウンティウルフに走りだす。


「2人とも、コイツは俺が惹きつけるから雑魚は任せた!!」

「おい!無茶すんな馬鹿っ!!!」


 ガイエルから静止の声が掛かるが聞こえないふりをしてバウンティウルフの足目掛けて蹴りを放つ。が、そう簡単に当たるはずもなく、バウンティウルフが素早く下がったことで攻撃は不発に終わる。


 あまり広いとは言えない場所で戦うのもやりにくいので、なんとかもう少し開けた場所に移動したいキート。ここは森の浅い位置にある。そこでキートはバウンティウルフを何とかふっ飛ばし草原に引きずり出そうと考える。


「2人とも、ちょっとでかいの行くぞ!!」


 順調に取り巻きの数を減らしている2人に注意する。すでに右の拳には魔力を溜め込んでいる。今出せる魔力の大半を右手にだけ収束させていく。


(直撃はしなくてもいい。掠るだけでも!!)


 バウンティウルフは魔力の収束に気付いたのか、身を低くして警戒してる。キートは両足に魔力を集め、瞬時に開放する。足元が爆発し、その反動を利用してかなりの速さでバウンティウルフに接近する。バウンティウルフも反応し避けようとするが、僅かにキートのほうが早く、右の拳が前脚に掠る。

 すると、キートの拳が文字通り爆ぜる。収束された魔力が一気に開放され、バウンティウルフが木々を巻き込みながら森の外へと弾き出される。一方のキートはなんとか踏ん張って反動で吹き飛ばないようにする。地面には、反動を耐えたキートの足によって抉られた2本の線ができている。


(上手くいった……)


 しかし、なんとかここから引き離すことができたのだが、そのせいでキートは気を緩めてしまった。

 そのため、後ろから自らに飛びかかってくるグラドッグへの反応が一瞬遅れてしまった。反撃は諦め、なんとか避けようとするが、グラドッグ渾身の体当たりを腹部にモロに食らってしまう。防具のお陰で直接的な負傷は避けられたものの、不安定な格好で攻撃されてしまったために思い切り転んでしまった。不幸にも右側から地面に投げ出されることになり、先程の攻撃の反動が残っている右腕では碌な受け身も取れず、そのまま木に頭をぶつけてしまった。


(あぁ、ヤバい……意識が遠のく。こりゃ……死ん……だ……か)


 急速にキートの意識は没んていくのだった。




 □ ■ □ ■ □




「ここは……?」


 キートが目が覚めるとそこには見慣れない天井が広がっていた。


「そういえば!!」


 意識が途切れる前のことを思い出したキートはすぐさま体を起こす。ベッドに寝かせられていたようで、尻の下に布団の感触がする。服は脱がされ、腹部に包帯が巻かれている。微かに薬草の匂いが漂っている。


 部屋は小じんまりとしていて、ベッドとテーブル、2脚の椅子だけでも大分スペースをとっている。部屋の隅には幾つかの武器や防具が置かれていて、キートの防具と服もそこにあった。


「うっ」


 立ち上がろうとして左の脇腹に鈍い痛みがはしり、少しうめき声を上げたところで部屋のドアが開かれる。中に入ってきたのは水とパンを手に持ったガイエルだった。


「ガイエル……」

「気が付いたか坊主。全く無茶しやがって」


 まだ立ち上がらない方がいい、と言われベッドに腰掛けるキート。パンと水を渡され、流しこむように腹へと収める。朝、昼と何も食べていなくひどく腹が減っていたのだ。


「ここは?」

「俺の宿舎だよ。頭打って気絶したお前を抱えて連れてきた。お荷物抱えながらグラドッグから逃げるの大変だったんだぞ」


 キーとの前にイスを持ってくるとそこにドカリと座り、頭を下げた。


「ガイエル!?」

「済まなかった。まだ新人だろうお前を俺の身勝手で危険に晒しちまった」


 自分より見るからに年上の男に頭を下げられる経験など無かったキートはどうしていいのか戸惑ってしまう。


「おい、頭を上げてくれよガイエル。それに俺は新人なんかじゃないからな」


 なんとか少し重たい雰囲気を少しでも軽くしようとおどけて言うキート。ガイエルはその内容を聞いて訝しんでいる。


「そうなのか?防具は傷一つなかったどう見ても新人だったんだが。キートなんていう魔闘士は聞いたこと無いぞ?」

「そりゃそうだよ。だって冒険者登録すらしてないし」

「はぁ!?」


 ガイエルは驚き目を見張る。あんぐりと口も開いていて少し椅子から体がずり落ちている。


「いや、あのとき門のところで冒険者証の確認があるからその時に分かるだろうと思って無駄な抵抗辞めてたらあっさり素通りしちゃったし、このまま付いていくのも面白いかなぁなんて思って。どうせ後から登録して依頼こなすんだから順番逆になっても別にいいやって思ったしさ」

「はぁ……」


 その言葉を聞いて頭を抱え深々とため息をつくガイエル。冒険者でなければかなり高額になるはずの防具の出処を尋ねると、ケインズとのやり取りを聞かされ納得したように頷く。


「有名な『止まり木の家』の出身か。それならあの戦闘力も頷けるわな。それにしたってあのバウンティウルフをぶっ飛ばすなんてよくやるよ。まぁ、そのおかげでこうしてお前と話ができるんだけどな」


 そう言って僅かに苦笑を浮かべると、節くれだった大きな手でキートの頭を撫で小さな声でありがとうと感謝の言葉を呟く。


「おい!ガキ扱いすんなよ。もう成人したんだよ!」

「ふん。俺からしてみればまだまだガキもいいところだよ、坊主」


 その手を払いのけるが、先ほどとは打って変わってニヤニヤとしているガイエル。恥ずかしがっているキートが面白いのだろう。ひとしきり気味の悪い笑みを浮かべると、ふと思い出したようにキートにとって重大な事を発言する。


「そういえば坊主はまだ登録してないんだよな?ギルドに行かなくていいのか?もうすぐ閉まっちまうぞ」

「ヤバッ!忘れてた!!」


 慌ててベッドから出てくる。脇腹の痛みを忘れて急いで服を着ると部屋を飛び出そうとする。しかし、ガイエルに肩を捕まえられる。


「何!?急いでんだけど!!」

「金は持ったのか?登録するには登録料が銅判貨5枚いるぞ」


 すぐにズボンに付けられた小銭入れの中を検める。そこには銅貨数枚しか入っていなかった。


「いや、でもバッグになら大きいお金入れた財布が……ってあぁ!!!」

「どうした」

「財布の入った背負い袋、ケインズさんとこに忘れてきた……」

「間の抜けたやつだな、お前は……。ほら、受け取れ」


 ギルドの受付に間に合わないかもしれないという焦燥感や、大金のは入ったバッグを店に忘れてくる自分のアホさ加減への自己嫌悪やらで呆然としていたキートに数枚の硬貨を投げるガイエル。キートは慌ててそれをキャッチし、手の中のそれを見つめる。


「これって……」

「今回俺とリッカが受けてた調査依頼の報酬の取り分だ。お前のな」

「え?」

「ま、それは一部だ。今いっぱい持ってもしゃあないだろうしな。帰ってきたら残りを渡すぞ。今回は危ないところを助けてもらったからな、少しは色つけといてやるよ。ほら、さっさと行かないと本当にギルド閉まっちまうぞ」

「恩に着るよ、ガイエル!」

「何、正当な報酬だ」


 一度ガイエルに頭を下げるとすぐさま部屋を出ていくキート。


「ギルドは宿舎出たら左にいけばあるからなー!」

「分かった!」


 宿舎内をかけていくキートに声をかけてやる。




 明日行けばよかったんじゃ……。そう気づいたのはとっくにキートが宿舎から出ていった後だった。









次でキート偏は終了です。

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