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黒犬異世界奇譚  作者: 黒い悪魔
眼帯、冒険者になる
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第五話 柄杓と防具と冒険者

 


「準備はいいようじゃな」

「あぁ」


 珍しく早く起きたキートは、私物を纏めた麻の背負い袋を肩から下げて止まり木の家の玄関にいる。


「じいさん、今までお世話になりました。ここまで育ててくれてありがとう」


 万感の思いを込めた感謝を口にし頭を下げる。アルは驚いた顔をするがすぐに相好を崩す。


「ほう。あのキートが頭を下げるとは……。気色悪いのう」

「んだよ!人が珍しく感謝してるってのに!!」

「ほれ、そうカッカするでない。折角皆が寝ている間に出て行こうとしておるのに起きてしまうぞ?」

「やべっ!そんじゃな、じいさん!気が向いたら帰ってく――」


 みんなに見送られるのは恥ずかしいと、まだ寝ているであろう早朝に止まり木の家を出ようとしていたキート。あまり時間は掛けていられないと急いでその場を離れようとした。


「私達に挨拶もなく勝手に出ていくなバカーーーー!!!」


 そんなキートの願いむなしく、アンリの怒声とともに毎朝キートが叩かれていた柄杓が、今まさに駆け出そうとしていた彼の後頭部に飛んできた。


 アンリの怒声にぎょっとして振り向くと、クルクルと縦回転しながら高速で飛来してくるナニカ(ひしゃく)。それを当たる寸前でなんとか掴む。


「なんで掴むのよ!当たりなさいよ!!」

「バカヤロー!これから冒険者になろうってやつがこんなもん捌けなくて生きてけるか!!」


 そうして柄杓を投げ返そうと、アンリが居る方へと照準を合わせると、そこには止まり木の家の子どもたちが寝間着のまま勢ぞろいしていた。


「お前ら……」


 中には眠そうな顔をしている子もいたが、みんな頑張ってキートの見送りに来たようだった。その光景に思わず涙腺が緩みそうになるキートだが、年上の威厳を保つために我慢する。


「「「キート兄ちゃん、元気でなーーー!!!」」」


 ご近所迷惑になりそうな音量で餞の言葉を投げかける子どもたち。キートはそれに手を上げて答える。今喋れば声が震えそうだったのだ。


 無言で柄杓を投げ返そうとすると、


「それ、持って行っていいわよ。思い出の品」


 昨日泣いたせいか、アンリは落ち着いていた。なんだか俺の方が女々しいな、などと思うキート。


「んじゃ、ありがたく貰っとくわ。みんな、じゃあな!気が向いたら帰ってくるよ!」


 震えそうになる声を押し込め、そう言って今度こそ走り去っていくのだった。




 □ ■ □ ■ □




「取り敢えず、装備を整えなくちゃな」


 止まり木の家から大通りまで出る。通りの端にはいつもの様に露天が並んでいる。通りがこむ時間帯である昼過ぎや夕方に通ることが多いキートなので、人通りがさほど多くない朝の通りの光景はとても新鮮に見えた。

 そんな、キートにとっていつもとは違う表情を見せる大通りを見ながら向かう先は通称冒険者通りハンターズストリートと呼ばれる通りだ。


 デリアンは両岸へと繋がる大通りを中心にして、横に幾らかの通りが走っている。その中でも特に大きい通りが冒険者通りだ。そこにはギルドや武器屋、防具屋など冒険者に関係する商店が建ち並んでいる。


「じいさんが言ってたのはっと……」


 キョロキョロと辺りを見回しながらアルから教えてもらった防具屋を探す。周りには何人もの冒険者が歩いている。その風貌はキートにとっては見慣れたものだった。彼が親方のもとでしていた仕事は主に建物の修理。そして、建物を破壊するのは大抵冒険者だ。酔っ払って喧嘩し、酒場を荒らすなど日常茶飯事とまではいかないものの、多々あることだ。


 しばらく探して歩くと、目的の店を見つける。石造りの中規模の店舗で、扉の上にはケインズ防具店と看板が掲げられている。


「いらっしゃい」


 扉を開けるとチリンチリンと軽やかな音が鳴る。入り口からまっすぐ奥にカウンターがあり、店主のケインズが何やら作業していた。入って右手にはレザーメイルなどの鎧が並んでいる。また、籠手などの防具も置いてある。替わって左側には、グローブやブーツなどの装備品が棚に陳列されている。


「止まり木の家のアル院長から勧められたんだけど」

「おぉ!お前さんがキートか。アルさんから話は聞いている」


 キートがそう言うと、カウンターから出てきたケインズ。身長はキートと同じぐらいで、ドワーフと普人族のハーフだ。


「俺の名前はケインズ。お前さんは魔闘士だってな」

「あぁ。これから冒険者をやっていくんだ」


 冒険者はその戦い方によって区別されることがある。剣士であったり魔術師であったり。それはパーティーを組む際や、向き不向きのあった依頼をこなすことの指標となり、冒険者証にも記載される。基本これらは自己申告なのだが、中にはセシリアのような魔獣使いといったギルドからの承認が必要な物もある。


「”これから”?なんだ、まだ登録してないのか」

「登録してないとなんか都合悪いのか?」

「武器や防具買うときの値段が跳ね上がるぞ」

「冒険者だと安くなんの!?」


 冒険者になるといった割に、あまり冒険者の制度に詳しくないキート。初めて聞く事実に驚いている。


「正確には冒険者以外には高くなる、だな。冒険者が持ってくる素材があっての俺らの仕事だからな。それに防具はまだしも武器なんかが安い値段でなんの制約もない一般人に渡って暴動でも起こされてみろ、大変なことになる」

「なるほど。んじゃ、今から登録してきたほうがいいのか」

「いや、今の時間帯はきっと、依頼を受けに来た奴らで賑わってるだろう。多少時間の掛かる新規登録はあまり好まれない時間帯だな。冒険者になって早々睨まれるのもアレだろ」


 往々にして新人冒険者とは狙われがちだ。チンピラ崩れも多い冒険者、そういったトラブルも起きてしまうのは仕方ない。


「いつぐらいならいい?」

「そうだな。昼過ぎか、終業時間ギリギリのどちらかだな」

「分かった。昼過ぎに登録してまた来るよ」


 内心無駄な移動になるなーなどと思うものの、余計な出費は避けたいキート。ケインズの下を去ろうとすると、ケインズが声をかける。


「アルさんの紹介だ。特別に冒険者価格で売ってやるよ」

「いいのか?」

「本当はダメだが、まぁ細かいことは気にするな。こっちに来い、お前さんに丁度いい防具を見繕ってやる」


 そうして、キートは防具を手に入れたのだった。




 □ ■ □ ■ □




「うーん昼間で中途半端な時間だ……」


 ケインズの店を出た後、昼間で時間を潰そうと大通りをぶらぶらと歩いている。立ち並ぶ露天を冷やかそうにもあまり興味のあるものはない。一度ギルドにも顔を出したのだが、依頼を受ける冒険者でいっぱいだった。


「どうすっかな~」


 そうやって歩いていると、いつの間にか西門にたどり着く。何人かの冒険者が門を通って外へ出て行っている。


「あの人らの依頼はなんなんだろ」


 それを興味深そうに見ていると、後ろから人がやってきたので道を開ける。


「お?坊主新米だな!依頼は受けたのか?」


 キートが声の方を向くと、2メートルはあろう髭面の大男が人の良さそうな笑顔を浮かべていた。背中には大きなハルバートを背負っていて、身に着けている防具は所々傷付き、歴戦の冒険者といった風格を醸し出している。


「いや、まだだけど……」

「そうなのか。見たところ武器は持っていないようだがどうした?」

「俺、魔闘士だから」

「ほぉ!こりゃ珍しいな!魔闘士なら1人は厳しかろう!」

「ちょっと、ガイエル。また?」


 そう言ってガイエルの後ろからひょっこりと出てきたのは湾刀を2振り腰に下げた髪の短い女性。浅黒い肌に日焼けた金髪をしている。


「別にいいじゃないか、リッカ。俺の性格はわかってるだろう」

「しゃあないわねぇ……。貴方名前は?」

「キート。アンタは?」

「私はリッカ。リッカ姉さんと呼びなさい、キー坊。そこのデカイのはガイエル。新人見るとすぐこれよ」

「ハッハッハ!気にするな。そら坊主、いざ冒険へ!!」

「ちょ、ちょっと!!」


 問答無用で担がれ、そのまま門まで行く。無駄な抵抗はやめたようだ。どうせ冒険者証ライセンスを提示できないのだから、門の外まで連れて行かれることは無いだろうと思ったのだ。基本的に街の外に出る際は通行証か冒険者証といった証明書の類がないと外にはいけない。


「なんだ、ガイエル。またひよっこ拉致ったのか」

「拉致とは何だ!素質ある若者を育てようとだなぁ」

「はいはい。お前の相手は面倒くさいから、さっさと通れ。リッカも大変だな」

「まったく……。てかアンタ門兵なんだから冒険者証の確認ぐらいきちんとしなさいよ。職務怠慢はいけないわよ」

「そうしたいんだがほら、ガイエルの野郎が既に行ってしまってな」

「あんの馬鹿!!!」


 門兵がガイエル達の顔見知りらしく顔パスで通ってしまった。


「ちょ、ガイエルのおっさん!」

「誰がおっさんか!!!」


 大音量に思わず顔をしかめるキートその間にもどんどんデリアンは離れていく。


「ガイエル、いい加減下ろしてあげたら?」

「そうだな」


 デリアンと岸を繋ぐ橋の中程で降ろされるキート。


「今回俺たちが受けた依頼は最近増えてきたグラドッグの駆除だ」

「本来ならD級でもいいんだけど、上位個体が居るかもしれないってことでその調査も含まれているから私達C級が受けたのよ」

「C級だったのか……」


 C級は冒険者としてはベテランの域だ。キートは冒険者では無いことを説明するのを止めて、ガイエルについていくことにした。ベテランと呼ばれる冒険者の仕事ぶりを見てみたかったのだ。


「まぁ、ひよっこのお前でも魔闘士ってんならやれるだろ。討伐系の依頼は?」

「受けたこと無いけど、グラドッグぐらいなら余裕」

「あら、案外頼もしいじゃない」


 実際にはキートはグラドッグと戦ったことはない。以前アルに自分はどれくらい戦えるのかと聞いた時に、デリアン周辺の魔物ぐらいなら余裕だと言っていたことを思い出したのだ。


 そうして冒険者になる前に初めての魔物討伐をすることになったキートだった。



後少しでキートくんの話は終わりです。年内には新章始めたいなぁ……。

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