ソロと赤の大地6
白い陽の光が国を照らし出す頃に、一団は赤の大地に向けて出発した。
国の中でも腕の立つ衛兵を率い、まだ涼しい朝の砂漠をティアラに連れられ歩いて行くと、白い砂の地面が次第に黄色を帯びて行く。
陽が昇り、地面から目に見えぬ湯気のように熱気が肌に感じられるようになると、サラサラとした砂の原にゴツゴツとした赤岩が現われ始める。
そして、赤い岩石地帯に入り、さらに奥に進んでいくと、アルスはその光景に思わず息を呑んだ。
「何じゃこりゃ……」
一団の道を遮る様に立塞がり、遥か先の地平線まで、どこまでも伸びている、それをミーニャ達も口を開け、吸い込まれるように見つめた。
「うわあ……、っとっと」
壁を見上げると、ソロは後ろに倒れそうになると、シエナがそれを支える。
「ありがとう、シエナさん」
「いえいえ。それにしても、大きな崖ですね……」
シエナが言うと、ダイガも頷く。
「全くだ」
巨大な赤褐色の岩の崖。
薄雲がかかった、その頂きは、ハンマーで砕かれたかのようにギザギザとした大小の輪郭を描いており、
地平線の蜃気楼の先まで、どこまでも伸びていた。
「グーケンさん、これ……」
門の詰め所から、ソロと親しいという理由で此度の儀式に駆り出された兵士の男にソロが訊ねると、男は強く頷き答えた。
「はい! これこそが、大陸神様の神聖地と我等が世界の境界。イニの壁です」
「壁……ですか?」
ソロが訊くと、グーケンは誇らしげに笑み頷いた。
「はい。厚さにして200m程。赤の大地は、人の足では越えられない程に険しいヒエナ山脈に囲まれているのですが、その山脈を越えずして赤の大地に通じる場所が、このイニの壁なのです。とはいえ、この壁を越えられる者は、ベラーノ王家の者とその許しを得た者のみ。私も実際には入ったことはないのです」
ティアラを先頭に、壁の近くまで歩いて行くと、壁と同じ石で造られた神殿の入口のような建物が見えてくる。荘厳な柱に支えられたその間には、巨人が通るような石門が聳えていた。
石段を上がり、門の前まで来ると、一団は足を止めた。
「さぁさぁ、ティアラ様。これこそが神聖なる赤の大地に続く【門】にございます。
ベラーノ王家の血を引く貴方様がここを通過なされた時、新しいベラーノ王が誕生されることでしょう。 ああ、このカルネージ。大慶至極にございます」
オロオロと涙を流すカルネージに、ティアラは向き直り言った。
「カルネージ様、王位継承の儀はこの【門】を通過することのみにありません。赤の大地にある、もう1つの【門】にこそ、真の意味があるのです」
その言葉を聞くと、カルネージはあの大袈裟な驚き方をしてみせた。
「なんと! いやはや、赤の大地にもう1つの【門】があろうとは。このカルネージ、それを見届けねばなりませぬ。最後まで御伴致しましょう」
カルネージがひれ伏すようにお辞儀をすると、大臣がティアラに歩み寄り言った。
「ティアラ様。この大臣、この壁を前にして、ティアラ様がこんなにも逞しく成長なされた事を大変心嬉しく思います。どのような形であれ、私もティアラ様の力になっていきましょうぞ」
今にも泣きだしそうな温和な顔を見ると、ティアラは苦笑を浮かべ、「ありがとう」と返した。
「司教様、大臣。しばし御下がりを。これより、【門】を開きます」
ティアラがキリッとした声で言うと、カルネージと大臣は後ろに下がる。
ティアラは、再び目の前の【門】に向き直ると、その赤い、冷たい岩の壁にそっと触れた。
ティアラが息を吸い込み、静かに何かを詠唱を始めると、辺りは風の音と少女の声のみが響き渡る。
魔法文字の詠唱。
ミーニャとソロは、少女の唱える言葉から、そう思うも、すぐに違うことに気が付いた。
聞いたこともない言語だ。
古代文字、それともベラーノ王家にのみ伝わる開門の術語だろうか。
ティアラが詠唱を続けると、その手先から淡い光がこぼれだす。
そこから風が漏れ出すように、少女の服や髪が靡く。
光が次第に強くなっていくと、2つの扉の接した縦線に光が走り、門の輪郭を駆けた。
それと共に少女の詠唱が終わり、ティアラが静かに目を開くと、岩の門は、引きずるような鈍い音を立て、ゆっくりと開きだす。
【門】が完全に開き切ると、一団の者全てが、その光景に息を呑んだ。
紺碧の空に、その果てへ漂い行く白い雲の塊。【門】の中に風が吸い込まれるように後ろから撫ぜる。
長らく閉ざされていた【門】の先には、どこまでも広がる、赤い大地が広がっていた。




