ソロと赤の大地2
グーケンに案内され、立ち並ぶ平屋でできた町を歩いて行くと、大きなオアシスが眼前に広がった。
水は青く太陽の光を反射した白い網目模様が波打ち、その周囲は涼し気なヤシやふさふさとした木々に覆われていた。
湖の中央には島のように陸地が浮かんでおり、そこにある、大きな玉葱屋根をした白い外壁の城は、同じ形状の屋根を持つ、幅の広い塔状の建物に囲まれていた。
城までのびる白い煉瓦の橋を渡り、アラベスク模様の蒼い絨毯を進んでいくと、王の間に辿りつく。
大きな扉が門兵たちの開かれると、ソロ達はそこから聞こえて来た第一声に思わず肩を竦めた。
「だから嫌って言っているでしょう! 何度も同じことを言わせないでよ!」
少女の怒声が飛ぶと、大臣は、困った顔で少女に言う。
「し、しかし、ティアラ様――」
「しかしもカカシもない! 誰が何と言おうと私は、ぜーーーったいに王位なんて継ぎませんからね!」
少女は腕を組み、プイッと顔を逸らすと、ようやく玉座の間の入口に立つアルス達に気が付いた。
生地の薄いローブ状の衣装で身を包み、金でできたベルトをしっかりと巻いている。二の腕と手首には、それぞれ幅の違う金の輪をはめており、軽いくせのかかったオレンジ色の長髪には、鳥のような翼を持ったコブラをあしらったティアラを身に付けていた。
まだ幼さの残る顔がこちらを向くと、アルス達は軽く頭を下げた。
「おぉ!! ソロさんではないですか!」
大臣が懐かしい顔に声を上げると、急いでその少女に駆け寄った。
「お久し振りです、大臣」
ソロは笑顔で挨拶をすると、グーケンと再会した時と同じように、大臣にアルス達を紹介する。
アルス達に「ようこそお越しくださいました」と大臣は歓迎の言葉を言うと、奥にいた少女は、
「では、私は部屋に戻りますから!」
「ああ、ティアラ様!」
大臣が呼び留めようとするも、ティアラと呼ばれた少女は奥の幕の扉を出て行く際に、いーっだ、と目尻に目いっぱい皺を寄せ、白い歯を見せると、その場を去って行った。
少女が去って行くと、大臣はアルス達に申し訳なさそうに向き直り、
「すいません、皆さん」
「もしや、あの方は」
ミーニャが言うと、大臣は頷き、少し困った様に頭を掻いた。
「ええ、我が国の姫君であり、カルダ様のご息女にございます」
「お姫様?」
ソロが驚いたように言うと、大臣はソロに向き直る。
「そういえば、ソロさんも初めてでしたね。以前ソロさんがこの国を訪れた時は、遠方の国へ姫様は花嫁修業に出られていた頃でしたから」
「元気な姫さんだ」
ダイガが言うと、大臣は苦笑を浮かべ、頷く。
「ティアラ様は、昔からあのようにお転婆な方ですが、根はとても優しいお方なのです。お体があまり丈夫でなかった王妃を幼い頃に亡くされてからは、カルダ様とそのご子息であるカーヤ様と共に過ごされておりました。しかし、カーヤ様はソロさんの退治された、あのオオトカゲによって命を奪われ、唯一の肉親であったカルダ様を先月に亡くされてしまったのですから、無理もありません。どうか、姫様の無礼を御許し下さい」
大臣が深く頭を下げると、ミーニャ達は「とんでもありません」と慌てて大臣の頭を上げさせた。
「ところで、ソロさん達は、どのような御用でわざわざこのような地に? 宜しければお聞かせください」
大臣が訊ねると、ミーニャは事情を大臣に説明した。
ミーニャとアルス、ソロが代わる代わる話のバトンを受け取り説明をすると、大臣は、ふむふむと頷く。
「話は分かりました。勇者のアルスさんとソロさんに頼まれたとあらば、喜んで力をお貸したいのですが、赤の大地へ続く聖門、イニの壁は、王族の者にしか開ける事ができないのです」
「そうなんですね」
「ってことは、その聖門を開けられるのは、さっきの姫さんだけになるのか」
ソロとアルスが言うと、大臣は、
「私の方から姫様に頼んでみようと思います。今日は長旅でお疲れでしょうから、皆さんはどうか一晩、この城でお休みになられてください。部屋の方も直ちに用意させましょう」
「ありがとう、大臣」
ソロに続きアルス達が礼を言うと、大臣は「いえいえ」と微笑んだ。




