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ソロと赤の大地1

 水平線の彼方まで広がる、空と同じ色の海を渡ると、赤銅のような色の土肌をした大地で覆われた大陸に辿りつく。

 途中2回、町を経由し、歩いて行くと、柔らかい土の地面は、足場の悪いサラサラとした砂の地面へと変わった。

 烈日のような太陽の光が照り付ける中、現地の町で購入した砂漠用の衣装に着替え、耐暖魔法をかけても、その暑さを完全に凌ぐことはできず、額からは滝のように汗が流れ落ちる。

 あまりの暑さのせいか、露出衣装を好まないミーニャやシエナでさえも、酒場の踊り子のようなヘソ出しの服を着用していた。


「あっつぅ……」


 赤褐色の砂漠の中、アルスが声を漏らすと、ミーニャは「もう!」と不満そうな声を上げた。


「考えないようにしてたのに! 暑いのは皆一緒なんですから、我慢して下さい」


「へーへー」といつも以上に適当な呆れ返事を返すと、「こんな砂漠まで来て怒声を上げる事はないだろう」と小さな声でアルスは愚痴を溢す。


「何か言いました?」


「い、いえ何も!」


 そのやり取りに、思わずソロは苦笑し、隣を歩くシエナに、


「2人は相変わらずだね」


「ええ。しかし、あれだけ元気であれば、この先も大丈夫そうですわね」


「だな、ガッハッハ」


 ダイガも豪快な笑い声を上げた。

 そんな調子で、ソロ達は南の大陸を突き進み、上陸から3日目にして、中央に広がる”巨人たちの砂場(ドラ・エクトル)”という大砂漠へ足を踏み入れた。

 神話に出て来る、雲までの背を持つ巨人たちが戯れるような巨大な砂場。その通り名に相応しい、広大な砂漠は、体力の消耗に拍車をかけた。

 何よりも恐れていたのは、巨人たちの砂場(ドラ・エクトル)の直前の隊商宿で話を聞いた、砂嵐だった。

 巨人の砂場(ドラ・エクトル)は、世界一の大砂漠である一方、死の砂漠とも言われる程劣悪な環境にあった。赤の大地へ続く【門】を管理している小国ベラーノまでにある中継地は2か所だけであり、その間に、道に迷ったり、砂嵐に巻き込まれたりなどで行方不明となる商人たちが後を絶たなかった。その為、ベラーノ王国専属の隊商以外は、足を踏み入れることはほとんどないという。

 ソロが以前この砂漠を訪れた時、砂嵐に遭い、死にかけたことがあった。

 その時は、付き添っていた幼女に助けられ、たまたま通りかかったベラーノ隊商に保護されることで、命拾いをした。

 今回も、風のほぼない時に巨人の砂場(ドラ・エクトル)に入ったが、天候はいつ変わるか分からない。

 この地帯だけ風がなかったとしても、別の地帯に風が発生していれば、それに砂塵が舞い上げられ、巨大な砂嵐が風に運ばれ襲ってくるなんていうこともある。

 しかし、幸運なことに、2つの中継地を越え、ベラーノ王国に到着するまでに、死の嵐に遭遇することはなかった。

 ソロ達の目指す”赤の大地”は、土と同じ色をした山々に囲まれた中にあった。

 その山脈の奥にはバシレウス火山と云われる活火山があり、南の大陸では大陸神の眠る聖地とされていた。そのバシレウス火山のある、赤の大地を護る役目を与えられたのが、初代のベラーノ国の王であり、それがベラーノ王国の発祥と云われている。

 以前、砂嵐で死にかけたソロは、自身を助けたベラーノ王国の抱えていた問題を解決し、以来、ベラーノ王とは友好な関係にあった。その為、ベラーノ王に事情を話せば、きっと力を貸してくれるに違いない。

 オアシスの元に発展した国の入門をくぐると、アルス達はその雰囲気に首を傾げた。ソロの話では「明るくて活気のある国」と聞いていたが、その面影はなく、気味の悪い程の静けさに包まれていた。

 見る人々の衣装、そして建物から垂れる旗。その全てが白と黒の二色を基調としたものであることに気が付くと、1人の兵士がアルス達の元に駆け寄って来た。


「ああ、やっぱり! ソロさんじゃないですか!」


 その顔に、ソロが一瞬キョトンとすると、兵士の若い男は、自身を指差し、


「お忘れですか? グーケンです。以前、砂漠のオオトカゲ退治の時、護衛でお供した」


「ああ!」


 ソロは記憶の彼方から、その顔を思い出すと、声を上げた。


「いやあ、お久し振りです。まさか、また貴方にお会いする事ができるなんて!」


 グーケンが再会を喜ぶと、ミーニャはソロに「ソロさん、このお方は?」と訊ねる。


「あ、ごめんっ。えーと、こちらは、グーケンさん。ベラーノ王国の衛兵で、前この国に来た時にお世話になったんだ」


 ソロに紹介されると、グーケンは朗らかな表情で、「グーケンと申します。今はこの門の詰め所で働いております」


「初めまして、私はミーニャです」「俺はアルス、宜しくな」「ダイガだ」「シエナと申します。どうぞ宜しくお願いします」


 それぞれが挨拶をすると、グーケンはアルスに驚いた声を上げた。


「えっ、あのアルスさんですか?!」


「あの?」


 アルスが首を傾げると、グーケンは、蒼い髪に確信を持ち、嬉々とした表情でアルスの手を取った。


「勇者のアルスさんですよね! いやあ、何という幸運でしょう。一度お会いしたかったんです!」


「は、はぁ……」


 アルスも少し照れ交じりの困惑した表情で頭をかきながら、挨拶を返す。


「ところで、グーケンさん。一体何があったんですか?」


 ソロが町を見渡しながら訊くと、グーケンの顔を曇らせ、俯き気味に応えた。


「実は、カルダ王が亡くなられたのです」


 グーケンの口から、その名前が出て来ると、「え」とソロは口を開けた。

 白いふわふわとした髭を生やした、優しい顔つきの老王が、ソロの脳裏に浮かんだ。

 突然の訃報に驚くソロに、グーケンは静かに事情を話した。


「カルダ様は、一昨年から病を患われまして。先月まではお元気だったのですが、容体が急変して、一週間程前に息を引き取られたのです」


「…………」


 その言葉に、ソロ達は沈黙すると、ソロは「そうだったんですか……」と声を漏らした。

 悲愴を浮かべるソロ達に、グーケンは顔を上げると、


「ソロさんが来られたとあらば、きっとカルダ様初め、国の者もお喜びになられるでしょう。

 私に着いて来て下さい。城の方まで案内いたします」


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