羅北の闘諍8
紫白の光が瞬く間に辺りに走り、直線上に大地が稲妻のような音を立て砕ける。
虚を突いた攻撃に、ミーニャと光の勇者は言葉を失う。
鉤爪で硬い黒土を削った巨大な跡が見えてくると、セアは、ほくそ笑んだ。
"死の光"と呼ばれる、強力な邪神の呪いで成された魔法の光線だ。当たればおろか、掠れば、その体から魂はすぐに朽ち果てるだろう。
しかし、ぼんやりとした光景の中から黒い影がゆらゆらと浮かんでくると、その笑みはすぐに消え、不快そうに舌を打つ。
アルスとソロの眼前には、一人の幼女が立塞がっていた。
防御結界を咄嗟に張ったのだろう。
決壊したものの、ソロとアルスは傷一つ負うことなく、幼女も頬や手にかすり傷を残す程度であった。
ギロリと幼女はセアを睨んだ。
その瞳はギラギラと強い光を帯び、それはまるで、この子らには手出しはさせぬぞ、と言っているようだった。
呆れたような顔で、セアは息をつくと、
「呆れたものね。分かったわよ。取り敢えず、今度ばかりは本当に退かせてもらうわ。けど、さっき言った通り、1カ月後には、私達は必ずこの世界を闇に墜としてみせる。史上最悪の大災厄の時代が訪れるその日を、せいぜい楽しみにすることね」
セアは、その言葉を残すと、開かれたゲートの中へ、オルゴンゾラと共に消えて行った。
セアの姿が完全に消えると、ソロとアルスはすぐに幼女の身を案じた。
「先生!」
心配して駆け寄ったソロに、幼女は、
「案ずるな。わしはこの通り無事じゃ。それより、お主らに怪我はなかったか?」
アルスとソロは互いに頷くと、幼女は「良かった」と微笑んだ。
「シャンジャーニ!」
ミーニャと光の勇者の少女が急いで足を駆けて来る。
「無事じゃ、心配する事はない」
その言葉を聞いて、ミーニャは安堵したように微笑んだ。
敵対していたとはいえ、心から身を案じていたのだろう。
その目にはうるうると涙が浮かんでいた。
「シャンジャーニさん、御免なさい。セアの狡猾さを知っていたはずの私が、油断をしてしまったばかりに」
光の勇者の少女が言うと、とんでもない、と言うように幼女は苦笑を浮かべる。
「なぁに、お主に現状を知らせることができただけでも儲けもんじゃよ。その様子じゃ、お人好しの生真面目な性格は変わっていないらしいのぉ、シエル」
幼女がそう言うと、シエルと呼ばれた少女は同じように苦笑を返す。
「お前が、光の勇者なのか……?」
アルスが訊ねると、シエルは立ち上がり、強く頷いた。
「挨拶が遅れました。私は、光導の勇者、シエル・ラピュセルという者です」
シエルは胸に手を当て名乗ると、
「皆さん、冥闇の勇者セアが宣戦布告をした今、一刻の猶予もありません。一先ずはこの地を離れ、来たるべき大災厄の時代に向け、対策を」
シエルが言うと、アルス達は力強く頷き、返事をした。
「リダイア」
アルスが、この場を去ろうとする緋色髪の少女を呼ぶと、リダイアは横目で振り返り、
「貴様らと共闘するのは、この場限りだ。これ以上は手を組むつもりはない」
「あなたも闇の勇者の恐ろしさは目の当たりにしたはず。なのに、なぜ――!」
ミーニャが最後まで言い切る前に、リダイアは静かな声で返す。
「魔界の脅威が迫っているとあらば、尚更だ。私は魔界から飛来する魔の手から、祖国を護らなければならない。これは私が決めたことだ。貴様らの手を借りずとも、私は私のやり方で魔界の脅威を退け、私の理想とする世界へ導いてみせる」
リダイアはそれ以上は言わず口を噤むと、静かにその場を去って行った。
「行きましょう、アルスさん。フォレシアさんやウィルさん達も心配です」
ミーニャが声をかけると、アルスは皆の顔を見て、互いに頷くと、立ち上がった。
「行きましょう、先生」
ソロが幼女に手を差し伸べると、幼女は「そうじゃな」とその小さな手を掴む。
そして、腰を上げた瞬間。
幼女はクラリと揺れると、眠りに落ちつように、その場に音もなく静かに倒れた。
読んで下さりありがとうございます!
今話で【光陰交差篇】完結になります! ここまで執筆が続けられたのは、読んで下さった皆さんの他なりません>< 本当に何と感謝申し上げれば良いのか(涙)
次章【大災厄編】は4/18より更新になります。
物語もいよいよ後半に入りますが、これからも本編を宜しくお願いします!




