表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/303

羅北の闘諍7

 凛呼とし剣を光らせ構える少女に、アルスは、ようやく開いた口から声が出る。


「そ……ソロ!!」


 戦いに躍り出たというより、突如として現われたソロに、ミーニャも驚きその名を思わず叫ぶ。

 驚き瞳を点にする賢者の少女の横に、小さな足音が歩み寄り止まる。


「やれやれ、何とか間に合った様じゃの」


「シャンジャーニ……!」


 いつもの冷静さを揺るがし言うミーニャに、ブカブカの白法衣に身を包んだ少女は微笑んだ。

 蒼穹の男勇者の目の前に立つ、かつて追い詰め仕損じた少女の姿を目にすると、緋炎の勇者の少女はゆらりと立ち上がり言った。


「貴様とこのような場所で出会うとはな。全く数奇なものよ。だが、貴様の始末は後だ」


 リダイアが口元の赤い雫を拭い微笑()みを浮かべ言うと、ソロは苦笑をし、


「それは助かるよ」



「……シャンジャーニ」


 セアがギロリと眉をピクリと上げ、幼女を見つめる。


「久し振りじゃのぉ、闇の勇者、いや、冥闇(めいあん)の勇者セア。2000年振りじゃわい」


「アンタ、まだのうのうと生きてたんだ。そりゃあ、そっか。そうだよねー。アンタは私達の神に願い、その呪いを被ったんだからさぁ」


 幼女の神経を逆撫でさせるような、小馬鹿にするような口調で黒衣装の少女が言うも、幼女はそれに動ずる様子もなく、苦笑を浮かべた。


「相変わらずの性悪女じゃの。じゃが、お痛が過ぎた様じゃな」


「ハァ?」


 先程の上品な振る舞いは見る影もなく、セアはえげつない笑みを浮かべた。


「アンタ、バカ? アタシら、魔界に住まう者に、こっちの世界のルールなんか知ったこっちゃねェっつーの。聖戦だろうが、何だろうが、アタシらはアタシらなりのルールで動くだけ」


 すると、セアはソロとアルスを見つめ、何かに気が付いたような声を上げた。


「ああ! そっか、そういうことかぁ! アンタ達は、()()()の赤子かぁ!」


「何だと?」


 アルスとソロが怪訝な表情を浮かべると、セアはオルゴンゾラに、


「ゾラ、覚えているかしら。貴方、アルフォリアを襲った時、勇者達を仕留め損ねたって言ってたわよね?」


 熊面の戦士は、一瞬記憶を巡らすと「ハッ。覚えてございます。あれは我の不覚にございました」と返事をした。


「おい、どういうことだ!」


 アルスがしびれを切らすように声を張り上げると、セアはクスクスと笑いながら、


「赤子だった貴方()が覚えていないのは無理もないわ。それに、ここにいるゾラが殺した、蒼穹の賢者の代役に立てられた、そこにいる2人のおバカ賢者さん達が知る由もないだろうしね」


「あなたが、アーリッシュを……!」


 ミーニャが叫ぶと、ゾラは不敵な笑みを浮かべ鼻を鳴らす。

 

「何も知らないようだから教えてあげる。

 前代の聖戦から長らく立った、100年前の動乱の時代。戦が絶えない状況の中、蒼穹の勇者の力は人々を巡り巡り、こっちの世界が落ち着く頃、新興小国アルフォリアの王族に渡ったわ。

 私ですら予想してなかったのだから、あの賢者さんも動揺したでしょうね。アルフォリアの王の元に生まれた2人の子どもに、蒼穹の勇者の力は別々に分かれ宿ったわ。

 だけど、そんなことは私には関係はなかった。赤子のうちに蒼穹の勇者を亡き者にしてしまえば、また一つ、魔界に住む私達に光の世界の愚かな民達が跪く日が近づく。それに、新興国家な上に平和主義のアルフォリアは防御も薄かったから、これ程絶好の機会はないと思ったの」


「やはり、アルフォリアを手に掛けたのは、あなただったのですね」


 ミーニャが目尻に皺を寄せ、睨む様に言うと、セアは堂々と首肯する。


「じゃあ、ソロは……」「アルスはボクの……」


 2人が顔を合わせると、セアは鎌をブンと振るい、


「さぁーてと、真実も知ったことですし、めでたく大団円(ハッピーエンド)といきましょうか。では、皆さん、仲良く――逝っちまいな」




 待ちなさい――


 その声が聞こえると、アルス達は、後ろを振り返る。

 ミーニャと幼女の立つ丘の奥から、その人物は威風堂々と姿を現した。

 肩を越え伸びた、太陽のような輝きを放つ金色の髪。その者の純潔さを表すような白銀のハーフアーマーに、蔓草のような金の模様の走ったサークレット身に付け、その姿は聖なるものに仕える戦乙女のようだった。

 瞳は曇りのない天空のように透き通っており、迷いのないものだ。

 神の使いのように神々しい、その少女に、アルス達は目を奪われる。


「チッ。来やがったか」


 不機嫌そうに舌打ちをするセアに、少女は静かに言った。


「久し振りですね、冥闇の勇者」


「ハッ。ようやく出てきやがったか、聖女様ァ。2000年前と変わらない、憎たらしい顔だわ」


 子どものように言葉を返すと、少女は毅然とした態度を変えずに話す。


「話は、ここにいらっしゃる、シャンジャーニさんとソロさんから伺いました。貴方が世界全体にかけた術のせいで、私は欺かれ、貴方の行為に気が付くことができませんでした。聖戦の日までは、私の治世。これ以上、貴方の所業を野放しにしておくわけにはいきません」


「…………」


 セアは、周囲を見渡すと、軽く舌打ちをした。

 緋炎と蒼穹、それに加え光の勇者とは分が悪い。

 レオーネと共闘したとしても、五分五分だろう。

 

「本当にタイミングの悪い奴だぜ。あともう少しで、緋炎と蒼穹の両方を一網打尽にできたのにさぁ。分かったよ、今日の所は退いてやるよ」


 セアは鎌を消すと、後頭に腕を組んだ。

 その場を去ろうとするセアに、オルゴンゾラも続く。

「あっ」とセアは、そうだそうだ、と言うように声を上げると、


「ただし、猶予はひと月だ。その時までは、魔界の軍(うちのれんちゅう)にも手を出さねェように言っておいてやるよ」


 光の勇者の少女は、眉を少し立て、「待ちなさい、セア」。

 少女の声に、セアは聞く耳持たず、片手で手を振り、無詠唱で魔界へ続く扉を開く。

 紫色の渦を巻く入口が現われ、セアがその入口に入ろうと足を延ばす――




「なんつって!!」




 セアは一気に踵を返すと、巨大な紫色の閃光をアルスとソロに向け、打ち放った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ