ミーニャ篇 喩えこれが神に背くことになろうとも
*この物語は「アルスと小さな冒険者4」を御読み頂くと、よりお楽しみいただけます。
デモクレアとの戦いを終え、町へ戻ると、大きな歓喜の声に町は包まれた。
祝宴ムードの中、夕陽が空に落ち星影が地上を照らし始めると、ミーニャは1人、宿のテラスに出ていた。
その顔つきは険しく、目は鋭い。
デモクレアとの戦いで、ミーニャは確信した。
ソロの持つ、今までに感じていた奇妙な力の正体。
デモクレアを斬首する瞬間、剣の帯びたあの強い光こそが、何よりの証拠だ。
そう考えると、あの小鳥の正体も自ずと見当がついた。
あのような膨大な魔力を有している者は、この世界に限りがある――そして、その多くは、自分たちのような賢者達だ。
なぜ昼夜と姿を変える必要があるのかという疑問が残ったが、あの小鳥がある人物だと仮定すれば、全ての辻褄があう。
あれは彼女自身が姿を変えているのではなく、日が昇れば強制的にあの姿になってしまっているのだ。
「しかし、もしそうだとすれば――」
ミーニャの顔は険しさが消え、青ざめたような表情へと変わる。
もしあの力の正体が、自分の考えていることの通りであれば、それはきっと望まぬ結末を迎えてしまうだろう。
今まで頑張って来たアルスの夢が、絶たれてしまうかもしれない。
事が起こってしまえば、もはや取り返しのつかなくなる事態だ。
アルスの落胆した姿が頭に浮かぶと、ミーニャは自身を抱きしめるように、腕を交差させ、ギュッとローブを掴んだ。
息は荒れ、心臓の鼓動が耳にまで響いている。
避けねば。
何としてもそれだけは避けねばならない。
アルスさんは今までだって人一倍に頑張って来た。
なのに、そんな結末は、あんまりじゃない……
その時だった。
視界が急に眩しくなったと思うと、どこからか声が聞こえて来た。
"ミーニャ"
聞えて来たその声は、運命の動き出したあの時に聞こえたものと同じ、神々しいものだった。
「ルミナ様……!」
ミーニャは跪くと、声は語り掛けるように話し始めた。
"英邁なる賢者ミーニャよ。時は来ました。貴方の知った真実を、アルスに話すのです"
その言葉を聞くと、ミーニャは目を見開き、
「し、しかしそうすればアルスは――」
"ミーニャ。分かたれた2つの力は1つに戻ってこそ、真なる力になります。今こそ、2つの力は1つになる時が来たのです"
絶望した。
聞こえた神託は、自身が予想していた事が見事に命中してしまっていたことを示していた。
ミーニャはその表情のままに、呆然とした様子で、その声を聞いていた。
"ミーニャ。アルスに真実を話し、ソロと会わせなさい。全ては青の勇者に光があらんことを――"
その声が消えると共に、月光が薄まると、ミーニャはしばらく俯いたまま、口を黙した。
その口はギュッと結び、握った拳からは爪の圧力で血が滲み出ていた。
――させない。
例えこれが、神の導きに背くことになろうとも、そんな結末など絶対に迎えさせない。
ミーニャは、覚悟を決めたような、獣の様な目つきになると、祝宴会場である町長の家へと向かって行った。




