アルスと小さな冒険者4
「うーん、切り替えをもう少し早くしたほうが良いかな」
ソロはそう言うと、剣を持った腕に手を添え、それを動かした。
「あー、なるほど。腕をこう構えれば、次の攻撃もブランクなしでいける訳か」
アルスが頷き言うと、ソロは「じゃあ、もう1回」と一声かけた。
ソロが仲間になってからというもの、アルスはソロから剣術や武術を教わるようになっていた。
そしてこの日の夜も、2人は武器を持ちシエナ達に一声かけると、町の外へ出かけた。
ソロの強さはアルス達を圧倒的に凌ぎ、どんな強敵でさえも簡単に打ち負かすほどの実力だった。
そんなこともあり、巨竜退治の出会いから数カ月が経つと、一風の如くソロの噂はアルスに連なり世界中に広まっていった。
『最強の冒険者』。
勇者アルスと並び、いつしかソロは人々からそう呼ばれるようになった。
中には「勇者以上に強い」という声も聞くこともあったが、アルスはソロの名声に嫉妬するどころか、心から彼女を尊敬し、仲間として信頼していた。
ソロの指導のもと、この日も夜の特訓を終えると、しばらく夜の平原を散歩してまわった。
「うわぁ」
少し丘のようになった場所を上がると、ソロはその空に息を呑んだ。
紺色の混ざった暗幕に散りばめられた白銀の粒のように星が輝き、よく見える。
町の明かりから離れた場所である事に加え、雲一つないその空は、まるで異世界の景色のようだった。
アルスは鞘に納めた剣を、首を凭れさせるように持ちながら、ソロの見上げている星空を見上げた。
「おお! こりゃあ、見事だ」
アルスもソロと同じような声を上げると、ソロは強く頷いた。
「ボク、こんな綺麗な空見たのは初めてだよ!」
燥ぐような無邪気なその笑顔は、普段の中性的な表情とは異なり、可愛らしい少女の顔だった。
町一番の大男でさえも恐れるような怪物相手に怯むことなく立ち向かう、その勇武は、時に彼女を男性か、と思わせるほどであったが、こんな顔を見るとやはり少女であると感じさせられる。
アルスはその草の地面に胡坐をかくと、ソロもその隣にちょこんと座った。
「ねぇ、アルス」
ソロが口を開くと、アルスはその方を向いた。
ソロは星空を眺めながら、しかしその声はしっかりとアルスに向け、言った。
「笑われるかもしれないけれど、ボクね、仲間って今までできたことがなかったんだ。クエストで何度か組むことはあったんだけど、それっきりの関係で終わるばかりでね。覚えてる? アルス達と出会った時、何で1人で旅をしてるか、ってアルスが訊いてきた時のことを」
ソロに訊かれると、記憶の回路からその時の場面が浮かんでくると、アルスは「ああ」と頷いた。
「あの時は、1人が気楽だったから、なんて答えちゃったけど、あれは嘘なんだ。本当は凄く寂しかった。その上、人と関わることって昔からあんまり慣れてなかったから、消極的でさ。だから、アルスからお城で”仲間に入らないか”って言われた時、凄く嬉しかったんだよ」
ソロがそう言うと、アルスは少し照れ臭そうに笑みを浮かべ、
「バカ野郎。俺の方こそ、お前に会えて本当に良かったよ。強くて、勇敢で、んでもって、優しい。まさに、俺の理想そのものだ」
アルスがそう言うと、ソロは少し嬉し可笑しそうに声を漏らした。
「な、何だよ」とアルスが言うと、ソロは「ごめんごめん」と返す。
「ねぇ、アルス。これからもよろしくね」
ソロがそう言い、片手を伸ばすと、アルスは「当ったり前だ」とその柔らかい手を強く握った。
それからアルスとソロは、魔界の襲撃を受ける町や国を次々と救って行った。
戦場を駆け、息の合ったその戦い振りは、まるで2人が前世から共に戦い抜いてきた同士を思わせるものであり、これに勝る者はいないとまで言われる程であった。
再びこの世に舞い降りた、新たな勇者は、ソロと共に語られるようになり、2人は人々からも仲間からも称賛を受けた。
そして、ソロが仲間になってから1年が経った頃。
魔界の軍勢一角である、宰相デモクレアの居城を突き詰めると、アルス達はデモクレアに攻撃を仕掛けた。
魔王直轄の手下であるデモクレアは悪名高く、討伐は不可能とまで言われていたが、アルス達は怯むことなく、山羊と爬虫類を足したような、魔術師姿の強敵に立ち向かった。
苦戦を強いられ、長期戦になることも覚悟をしていたが、それは杞憂に終わった。
アルスが一太刀を加えるどこから、その剣がデモクレアに届く前に、仲間の小さな剣士がデモクレアを圧倒し、その首を討ち取ったのだった。
デモクレアをも容易く倒したその少女に喫驚するも、アルス達は歓喜の声を響かせ、ソロを囲んだ。
デモクレアを討伐したその夜。デモクレアの手下に支配されていた町へ戻ると、町長とその住人たちに迎えられ、町は一気に祝宴ムードに包まれた。
「あっはっは! ソロ、やっぱおめェ、凄ェよ!! 宰相を一撃で倒しちまうなんて!! お前を仲間にして本当に良かったぜ!! ソロ、ほら、お前も飲めよ!」
酒に酔ったアルスがソロの背中を叩きながら言うと、ソロは「もう。アルスは16だから飲めるけど、ボクはまだ飲めないよ」と少し呆れたような声を返す。
「本当に、ソロさんは頼りになりますわぁ。これからも宜しくお願い致します」
両手でしっとりと酒を飲むシエナがそう言うと、ダイガも、うんうんと力強く頷いた。
「よっしゃ! 今日は祝宴だぁ! バンバン飲むぞー!!」
アルスがそう言い大声を張ると、一同から酒杯が一斉に大音声と上がった。
そして、その翌朝。
白い朝日が、机の上で寝込んだアルスの顔を強く照らすと、アルスは目を覚ました。
昨夜は飲み過ぎたせいか、少し頭がガンガンする。
寝ぼけ眼で周りを見渡すと、シエナやダイガ、町長達も、宴の跡を残したままに、鼾をかきながら深い眠りについていた。
いつもなら、うるさく起きるように急かすミーニャの声も、今日は聞こえない。
ミーニャも眠ってしまったのだろう。
こんな機会はめったにない、もう一寝するか。
そう再び眠りにつこうと顔を伏せた時だった。
手元に手紙の様なものが置かれていることに気が付くと、アルスは顔を起こし、その手紙を開いた。
“ソロ”という差し出し名が記された、直筆のその手紙の内容を読むと、アルスは目を飛び出すように丸くさせ、椅子音を立てて立ち上がった。
手紙を片手に握りしめ、アルスは町中を駆けた。
町長の家、宿、クエスト案内所、見張り台。
どこを探しても、ソロの姿がない。
アルスは息を切らし、城壁で囲まれた町の入口まで来ると、慌てた声で詰所の兵士に訊ねた。
「あ、あのっ! ソロがここを通りませんでしたか?! 淡い、俺と同じ色の髪をした女の子です!」
アルスが訊くと、門番の男は、最初は黙するも、やはりこればかりは、という顔になり、アルスに話した。
「アルスさん、すいません。ソロさんからは絶対に言うなと言われたのですが、ソロさんは夜明け前にこの町を旅立たれました。アルスさん達には、昼になるまでお伝えしないようにと申されまして――あ、アルスさん!」
アルスは門番の言葉を聞くと、すぐに町の外の平原に駆け出した。
途中足を挫きそうになるも、駆け、星空を見たあの小高い丘までアルスは走った。
しかし、その丘から見渡す景色は、大きな白い雲が遠くの青空に立ち昇った、どこまでも広がる緑の世界だけだった。
御読み頂きありがとうございました!
これで「アルス篇」は一応完結になります。
今夜「ミーニャ篇」も更新しますので、そちらもぜひよろしくお願い致します。
「ソロ篇」をまだ御読みになっていらっしゃらない場合は、引き続きソロ篇をお楽しみください。
「アルス篇」と「ソロ篇」を御読みになられた方は、「ミーニャ篇」も読んで頂けると、より一層物語をお楽しみに頂けますので、ぜひお願いします!
明日(遅れた場合は明後日)より、「光陰交差篇」に入ります。
ソロ篇やアルス篇に登場した人物に加え、新たな人物を交え、物語が進んでいきます。
今後も何卒、「放浪のソロ -小さな最強の冒険者-」を宜しくお願い致します!




