アルスとダイガ5
シュヴァルツが長身の双剣を抜くと、アルスは剣を構え地を蹴り飛ばす。
対岸から透明の糸に引かれるようにシュヴァルツも黒い尾を地面に叩きつけ駆け出すと、アルスの聖剣とシュヴァルツの双剣がキンッと音を立てた。
その音を合図に、三日月の斬撃が2人の間に火花を散らしながら幾つも描かれる。
両手に持った剣でアルスの剣を巧みに防ぎ、カウンターの要領でシュヴァルツが押すと、アルスは2つの剣から繰り出される斬撃を聖剣を縦に構え防ぐ。
双剣の嵐の中、アルスもそれを交わし剣で防ぎ、隙をついて剣を十字に斬る。
アルスがシュヴァルツの攻撃を剣で防ぎ、後方へ大きく跳んだ時、ミーニャはシュヴァルツ目がけて呪文を唱える。
巨大な太陽のような火の玉が一瞬でミーニャの構えた杖の前に現われると、それは勢いよく黒い竜兵目がけて放たれた。
それが直撃すると、火球弾は大きく左右に開き爆発する。
その光景にミーニャは一瞬目を見開いた。
シュヴァルツは爆炎を背後に、威風堂々と立っている。
シュヴァルツが剣でそれを斬り裂き、半球となった火球が左右後方の地で爆発したのだ。
「シュヴァルツ様!」
竜兵が声をかけると、シュヴァルツは手を横に付き伸ばし、
「この戦いに手出しはするな。お前達はそこの女賢者を片付けろ」
シュヴァルツが竜兵達に命じると、立ち上がったダイガも戦士達に大きく声をかける。
「ミーニャ殿に手出しをさせるな! 竜兵共を打ち倒せ!」
戦士たちが威勢の良い声で返事をすると、ダイガも戦斧を構え、再び息を吹き返し始めた竜兵達に斧を振るいまかす。
アルスは剣を再度構えると、声を上げシュヴァルツに向かって突撃した。
駆けた足に力をかけ、地面を跳んで弾丸のように放たれたアルスの剣撃をシュヴァルツは2つの剣をバツの字にし防ぐも、その勢いに足が後ろに擦れる。
「ヌ、オッ!!」
声と共にアルスを押し返すも、アルスは地面に上手く着地し、その弾みで剣を突き出しシュヴァルツに攻撃を仕掛ける。
シュヴァルツはそれを横に避けると、隙のできた青髪の小僧に剣を振り下ろす。
アルスは剣でそれを防ぎ、身体を逸らせ交わすも、腕にシュヴァルツの剣が掠れた。
アルスがシュヴァルツから離れた瞬間に、ミーニャが呪文を詠唱し、火球弾を連射すると、シュヴァルツは大きく息を吸い込み、火炎の息でそれを一掃する。
その隙を狙ったアルスが跳んでくると、剣を避け、その胴体にシュヴァルツは一閃の如く脚を食らわした。
アルスは鈍い音に思い切りに飛ばされると、無防備に地面に2,3回と叩きつけられる。
「アルスさん!!」
ミーニャが叫ぶと、シュヴァルツはミーニャに剣を向け構える。
「小娘。まずは貴様からだ」
その言葉にミーニャは黒竜の将に向き直り、杖を構えると、すぐ様に呪文を詠唱する。
ミーニャから放たれる火の玉を巧みに交わし、シュヴァルツは接近すると、黒い尾を鞭のように撓らせ、ミーニャに思い切りにぶつけた。
ミーニャが腹を抑え、音の出ない苦痛の声を漏らすと、シュヴァルツはミーニャに近づき首を鷲掴みに持ち上げた。
「珍妙なものだな。あの時はゾラ様とであったが、こうして賢知陣を殺める機会に2度と御目にかかるとは」
その言葉にミーニャは苦しみの中、シュヴァルツを見下ろした。
賢知陣を殺めるのは2度目……
だとすれば、こいつが本来のアルスを護るべきであった賢者を……
意識が薄れて行く中、シュヴァルツが嘲笑したのが見えた。
ドサッ。
「ゲホッ、ゴホッ……!」
ミーニャは地面に体がつくと、反射的に喉元に両手を当てる。
締め付けられた感覚が残る中、意識が呼び戻されたように戻ると、ミーニャはシュヴァルツを見上げた。
「ぬ……が……」
シュヴァルツも何が起こったのか分からないの様な表情を浮かべ、自分の体を見下ろしている。
黒い鎧を突き破り、金色の剣が鮮血を帯び、黒竜の体から突き出ていた。
アルスだった。
額から血を流し、息は乱れているが、シュヴァルツの心臓部分を背後から見事に突き刺していた。
アルスが剣を抜くと、シュヴァルツはその場に力が抜けた様に崩れ落ちる。
「あ、アルスさん!」
跪くように膝をついたアルスにミーニャが声をかけると、アルスは微笑んで見せた。
「心配はいらねェ。人一倍身体だけは丈夫にできてんのは、一緒に旅をしているお前も知っているだろう」
ミーニャはアルスの言葉に微笑む――
その時だった。
アルスの背後にぬわっと大きな影が立ち上がる。
「馬鹿め!!! 竜の心の臓は2つとあるのだ!! 勇者の導き手となる賢知陣よ、今この場で生き絶えるが良い!!!」
シュヴァルツは片手に持った剣を両手で持つと、短剣で殺める如く、それを思い切りにミーニャに向けて振り下ろした。
ズボッ。
肉を突き破り、その剣が吸った血が剣先から垂れるのを、ミーニャは丸くした瞳で見つめた。
シュヴァルツの剣は、ミーニャを庇うように出されたアルスの腕を突き抜けて動きを止め、シュヴァルツの体には、アルスのもう一方の腕が掴んでいた聖剣が、先程の傷の反対の位置に突き刺さっていた。
アルスの腕からポタポタと血が垂れると、アルスはグラついたシュヴァルツの耳元で言った。
「悪いな……、こっちも女の子一人を護るくらい上等な盾を持ってんだ。諦めて地獄に帰りやがれ……」
アルスがグッと剣を突き出すと、シュヴァルツは「仕損じたか……」と言葉を残し、消滅した。
支えのなくなった聖剣の重さに、アルスは力を抜かし倒れると、ミーニャはアルスの上半身を抱え、必死にその名を呼びかけた。
「アルスさん、アルスさん!!」
涙が飛ぶように垂れると、アルスは聖剣を離した腕でミーニャの頬に触れた。
「ったく、大袈裟なんだよ……。せっかく勝ったのに泣かれたんじゃ、台無しじゃねェか……。スパルタ賢者様に鍛えられた勇者様だぜ、これくらいで死ぬかよ」
アルスが笑みを浮かべ言うと、ミーニャは今まで見せた事のないような大粒の涙を流し、目元を赤らめ、安心したように微笑んで言った。
「本当に……バカなんですから……」
大将が敗れた光景を目の当たりにすると、竜兵達は「しゅ、シュヴァルツ様がやられた!!」「皆の者! 撤退だ! 我等が王にご報告だ!!」と次々と声を上げ、夜の闇の中に逃げ去って行った。
その大勝利に、アスピス王国の兵士たちは大きな歓喜の声を上げると、ダイガは急いでアルスの元に近寄った。
「アルス! 大丈夫か! しっかりしろ!」
ダイガがアルスの負傷していない腕を担ぐと、アルスは「大丈夫、それより敵は?」
「アルス達のお蔭で大勝利だ。尻尾を巻いて逃げ去っていきおったわ」
「そうか」
アルスが嬉しそうにそう言うと、アルスはダイガとミーニャに支えられ、勝利の声が沸き上がる中、シエナのいる救護場所に運ばれていった。




