アルスとダイガ4
城壁の近くまで来ると、力強い男たちの声と魔物の奇怪な声が交じり合い、剣や爆発音の狂奏曲を奏でてた。
閉じられた鉄門の前に、ダイガを先頭に戦士団が整列する。
背負った戦斧を抜くダイガの傍には、月の無い闇の中でも太陽のように淡く輝く聖剣を抜いたアルスと、賢者の杖を構えるミーニャの姿があった。
シエナは後方で運ばれてくる兵士たちの救援に充たる。
門の外からの粉塵が砂漠の砂のように舞って来ると、鼻をつく臭いがアルス達を撫ぜた。
「アルス、俺と先兵部隊が先陣を切る。敵が開けたら残党の処理を任せる」
ダイガがそう言うと、アルスは「ああ、任せてくれ。こっちには暴走魔法使いもいるからな」。
それを聞くと、ミーニャは強張らせた表情でアルスに微笑んだ。
「その暴走魔法使いって、一体どなたのことですか……?」
アルスは咳払いで誤魔化すと、ダイガも「ガッハッハ」とあの豪快の笑声を上げ、「よし、行くぞ!!」と戦斧を前に掲げた。
鉄の巨大な扉が上に上げられると、ダイガの張り上がった果敢な声に続き、次々と戦士たちが門に吸い込まれるかのように駆けて行く。
勇ましい男達が砂煙を立て出て行くと、アルスとミーニャもその後に続く。
石造りの門の天井が奥行きを持ち、漆黒の空へと変わると、地上には白兵戦と化した荒れ地がどこまでも広がっていた。
ダイガは雄々しい獣のような声を上げ、大きな刃のついた戦斧を振るい、敵を物ともせずに次々と破って行く。
城壁の上には大砲が設置されており、そこから闇夜に放たれる花火のような火球が遠くの竜兵軍に落とされ、雷のような轟音と地響きが彼方此方からしていた。
アルスも剣を構えると、トカゲの様な顔つきの武装した竜兵達を前に剣舞する。
竜兵の皮膚が露わになった首や上胴体と下半身の間部分を斬り裂き、斬撃の閃光と一瞬遅れて次々と血の華が咲き乱れる。
アルスの凄まじいその剣劇の中、竜兵達が散っていくその姿に、ダイガも「俺も負けちゃいれねェな」と鼓舞され、一層力を込めて斧を回す。
ミーニャも両手持ちの杖を、地面に突き刺すと、呪文の詠唱を始める。
「瞬く星々よ。我が前に立塞がる数多の敵を祓い賜え――」
ミーニャを中心に黒い地面に白い魔法陣が現われると、ミーニャは杖を天に勢いよく振り翳す。
白銀の閃光が、奥にいる竜兵達の天に突き抜け、夜の闇に溶けるように消えると、幾千もの流星のような光が魔物たちに降り注いだ。
その光景に前線で剣を交えていた兵士や竜兵も、一瞬目を奪われる。
流石は偉大なる賢知陣の賢者といったところであろうか。
今までに見た事もない高位魔法だった。
王城の頂上から見えた、その魔法流星の光に思わずハルトも唾を呑み込む。
新たに加わった新敵に、竜兵達は昼間のように再びたじろぎ始める。
攻防を繰り返し、予想以上に容易にも城の前まで勢力を広げることができた。
しかし、いざ城を前にして、明らかに強化されたその戦力の違いに、竜兵達が怯むことは必然のことであった。
竜兵達が恐れ戦く中、空気を切り裂くような高い咆哮が響き渡る。
爬虫類の振動した声は、戦いの手を止めたアルス達にも、その持ち主が竜であることはすぐに分かった。
聞いた事のない威圧の籠った声に、ダイガも戦斧を止める。
竜兵達が船に分けられた波のように左右に開くと、その中央から黒い体とそれよりも深い色の鎧に身を包んだ竜人が歩んできた。
黒翼を持ち、双剣を携え現われたそれは、竜兵達の将、シュヴァルツだった。
「人間風情にしては、よく我等を前にして此処まで耐ゆることができた」
唐紅の瞳が鋭くダイガとアルスを見ると、ダイガはその竜に訊ねた。
「今一度問おう。貴公が魔軍勢の長、シュヴァルツか?」
「如何にも。”盾”の名を冠するアスピス王国の王よ。今ここでその王権を我等に譲渡し、降伏願おうか」
「否! この場でお前の首、討ち取らせてもらおう!」
ダイガは戦斧を構えると、勢いよくシュヴァルツに突撃する。
「愚かな」
シュヴァルツは、ズラリと並んだ牙を見せると、巨大な火球を作り上げ、それを眼前に迫る戦士に向けて放った。
ダイガは間一髪で戦斧を盾にそれを防ぐも、その勢いに弾き飛ばされ、地に叩きつけられる。
「ダイガ! ……てめェ」
キッとした顔でアルスがシュヴァルツを見ると、異変に気付いたミーニャが駆けつけた。
「ダイガさん! ……貴方は」
ミーニャがシュヴァルツを見ると、シュヴァルツは白い聖法衣に身を包んだその姿と、少女から放たれる魔力に、言った。
「その姿と只ならぬ魔力。貴様、賢知陣か?」
「ご明察ですね、悪しき竜の将。これ以上この地を脅かすならば、賢知陣の一角を持ってしても、貴方を食い止めます」
ミーニャがそう言うと、シュヴァルツはアルスとミーニャを交互に見つめ、嘲笑を浮かべた。
「そうか、そういう事であったか。今宵の我は運が良い。手下達から新敵が参戦したと聞いていたが、それが賢知陣と勇者とあらば、手下たちが煩うのも無理はない。貴様らを討ち取れば、我等が王もお喜びになられる事であろう」
「あいつ、何で俺が勇者って事を……!」
アルスが言うと、ミーニャはシュヴァルツを見つめたままアルスに言った。
「恐らく聖戦の事について彼らが魔王と呼ぶ者から聞いているのでしょう。アルス、この敵は今までの様にはいきません。気を抜かないでください」
「ああ、当たり前だ。村でいた時の大熊モンスターと同じ、絶対に戦っちゃいけない感がバリバリ出てやがる」
シュヴァルツは双剣を抜き、宣戦の名乗りを上げた。
「我が名は黒竜軍の将シュヴァルツ! 愚かなる光の世界の勇者よ、覚悟せよ!」




