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アルスと深緑の勇者3

「この里は、遥か昔の先祖の代に築かれた里でな。見栄えるものはないが、里の者たちで協力し合い、平穏に過ごしている」


 フォレシアに連れられ、説明をされると、丸屋根の建物や塔のような大木の枝に鳥小屋のようにあるエルフ達の住処を見渡しながらアルスは「ふーん……」と少し間延びた声を鳴らした。

 エルフというものは、本の世界の中でしか聞いたことがなかったアルスにとって、この里のあらゆるものが新鮮で、興味を掻き立てた。

 枝々の茂った緑の天蓋からは、午後の陽の光が洩れて温かく里を照らしている。

 その雰囲気は、人のいる町のような喧騒と切り離され、どこか別の世界にいるような、そんな気持ちにさせる。

 フォレシアは一通り里の中を案内すると、急に向き直り、頭を下げた。


「改めて謝罪したい。お主の事を先んじて攻めてしまったこと、本当に済まなかった」


「良いって。俺ももう気にしてないから」


 アルスが気遣うように言うと、フォレシアは顔を上げ少し微笑み、傍にあった、草の生えた丸太に腰をかけた。


「気付いているかもしれないが、この里は結界が張られ、俗世からは不可視になっている」


 アルスはフォレシアの横に座り、それを聞くと、()()()()を思い出した。


「人よりも長く生きるためか、昔からエルフ(わたしたち)は人から狙われてな。おじいさまの代よりも昔から、私達はこのような人の近寄らない場でしか住むことができなかったらしい。其方を襲ってしまったのも、数日前にこの森に我等を捕まえに来た輩がいた為なんだ」


 フォレシアはハッとして、どこか遠くを見ていた目をアルスに向けると、


「気を害してしまったら悪い。私自身も、人に善き者がいることは知っている。だがどうにも気ばかりが急いてしまうのだ。危うく罪なき者を射止めてしまうところであった」


「いや、なんか俺達の方こそ悪い……。人間を代表して謝るよ」


「其方が謝る必要はない。其方に罪はないのだから」


 2人は互いに笑い声を漏らすと、フォレシアはアルスに言った。


「其方の目指すべき世界、良き世界だった」


「フォレシアさんは――」


「フォレシアで良い」


 フォレシアがそう言うと、アルスは言い直した。


「フォレシアは、どんな世界を目指しているんだ?」


 アルスに訊かれるとフォレシアはゆっくりと腰を上げた。


「私は、エルフや自然に住まう者達が安心して暮らせる世界にしたいと考えている。人々の誤解を解き、この里の者、世界に細々と暮らしている同胞が、自然の中で平穏に暮らせる世界。それが私の夢だ」


 フォレシアは優しく両手を後ろに組むと、振り返り、


「しかし、其方の理想とする世界を聞いて少し考えが改まった。私は里の者や同胞の事ばかりを考えていたが、其方の考えは種族という境も越えていた」


 フォレシアが言うと、アルスは苦笑し、


「自分で言うのも何なんだが、実は具体的にどうするかはまだあんまり決まってないんだ」


「私も同じだ。しかし、エルダ様も仰っていたように、それはこれから探して見つけていけば良いだけのこと。今日は其方に会えて良かった」


「アルスで大丈夫だ」


 アルスがそう言うと、フォレシアは優しく微笑み、アルスの手を取って言った。


「アルス。私の願いを一つ訊いてもらえるだろうか?」


 アルスが、何だろう、と首を傾げると、フォレシアは穏やかな口調のままに言った。


「エルダ様も仰っていたが、聖戦は戦う事ばかりではないと聞いた。かつての聖戦では、志を共に戦った勇者様も居られたそうだ。アルス、どうか私の友になってくれないだろうか」


 少し不安を帯びフォレシアがそう言うと、アルスは、強く首を縦に振り、


「あぁ、宜しくな! フォレシア」


 アルスがそう言うと、フォレシアは嬉しそうに目元をやわらげると、少し可笑しそうに、


「人間の友は、アルスが初めてだ」


「俺もエルフの友達は初めてだ」


 と、2人は思わず吹き出し、愉快に温笑(おんしょう)した。


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