ミーニャ篇 空に想う
*この物語は「アルスとミーニャ」を御読みになった後にお読み頂けると、よりお楽しみいただけます。
その夜、宿に戻り食事を済ませると、アルスは催眠術にでもかかった様にベッドの上で大の字になり、鼾をかいていた。
ミーニャは、呆れ顔で苦笑を浮かべると、そっと毛布をアルスにかけた。
部屋の明かりを落とした窓からは、神託を受けた時のように、丸い月から柔らかい光が柱となって差し込んでいた。
ミーニャは、窓際の椅子に腰を下ろすと、その空を見上げた。
月を囲む様に、数多の星々は強弱様々な光を放ち、天上から地上を見守っている。
アルスに出会う時も、そして今も、心のどこかでミーニャは不安を感じていた。
自分にこの少年をしっかりと勇者たる器に導くことができるのか。
自身は本当に勇者を導くに相応しいものなのか。
(ソフィア先生に聞いたら、何と答えて頂けるのだろう……)
ふと頭に浮かんだ、幼い時の恩師の微笑む顔にミーニャは訊ねた。
無邪気でヤンチャな少年と過ごす昼間とは一変し、夜になるととても心細く感じる。
星空を見上げれば、恩師の顔と共に、幼き日の学び舎での生活に思いを馳せた。
あの時と同じ空。
そう思うだけで、少し心を掻きむしるものが落ち着いた。
「貴方は真面目すぎるのです。もう少し肩の力をお抜きなさい」
記憶の蔓に引き寄せられたように恩師の言っていた言葉が聞こえると、ミーニャは静かに目を閉じ、肩を下ろした。
「ぐがあ~」
その大きな鼾に、ミーニャは思わず肩をビクッと震わせると、大きな口を開け眠るアルスに、思わず「もう」と、笑いの声を漏らした。
アルスの悩みの無さそうな、その顔とその元気な寝声は、ミーニャの今までのモヤモヤを一瞬にして吹き飛ばした。
「先生、私頑張ってみます」
ミーニャは、今夜一番穏やかな気持ちになると、天上の月を見上げ、心の中でそう呟いた。




