アルスと聖剣1
山々に囲まれた、どこにでもある、平穏で長閑な村で、アルスは育った。
深海のように青い色の髪を持ち、無邪気な笑みを浮かべた、まるで好奇心の塊のような少年は、時が経つにつれ、人一倍に勇敢な好青年へと成長を遂げた。
15の歳になった時、村にやって来たのは、賢者を名乗る一人の少女だった。
黄昏時の陽が放つような鮮やかな色の長髪。白いローブに身を包み、先端に赤い宝玉を付けた長い杖を持っている。
顔立ちはまだ少し幼さが残っているも、凛としており、彼女の真面目な性格を表していた。
少女に気が付き、アルスとその育ての親である村長が畑仕事の手を止めると、2人は見惚れるように、その少女に見入った。
天から遣わされた聖人。
清らかな雰囲気を放つその少女を一言で表すならば、それだ。
少女は、アルス達の一歩手前まで歩み寄ると、丁寧にお辞儀をし、挨拶をした。
「初めまして。私は賢者ミーニャという者です。此度、青の勇者様である、アルスさんのお迎えに馳せ参じました。どうか私の話を聞いて頂けないでしょうか?」
驚きつつも、賢者を名乗るその少女を、アルスは村長と共に家に案内することにした。
席についてもらい、アルスがお茶を差し出すと、ミーニャは微笑んでお礼を言った。
「村で採れた茶葉を使ったものです。お口に合うと良いのですが」
茶を一口含むと、ミーニャはパァっと顔を晴れさせる。
「凄く美味しいです。ありがとうございます」
そう言うミーニャに、アルスは微笑み返すと、自分も席についた。
本題に最初に切り口を入れたのは、灰色がかった髭を持つ、村長だった。
「ミーニャさん。うちのアルスが、青の勇者と言うお話ですが……」
村長の言葉に、ミーニャは両手を膝の上に乗せ、真剣な表情へと変わる。
「はい。驚かれるのも無理はありません。単刀直入に申し上げます。今ここに居られるアルスさんは、正統なる、青の勇者様の継承者です」
村長とアルスが信じられないという顔つきで、互いの顔を見ると、ミーニャは手の甲に記された紋様のようなものを見せた。
「この手に刻まれた印は、ただの魔法印ではありません。アルスさん、すいませんが私のこの刻印の上に、アルスさんの手をかざして頂けないでしょうか」
狐につままれているようなモヤモヤとした気持ちで、アルスは言わるままに手をミーニャの刻印の上にかざした。
すると、ミーニャの刻印は淡い蒼い光を放ち、輝き始める。
「私の手に刻まれた刻印は、真に勇者の力を持つ人にしか反応しないもの。そして私達、賢知陣の役割は、この世界の護り手を担う、勇者達を正しき道へ導くことです」
蒼い光が空気に溶けるように消えると、村長は動揺した声で、訊き返すように言った。
「では、本当にうちの息子のアルスが、伝承にあった勇者様であると……?」
澄み切った瞳で、ミーニャは力強く頷いた。
「待て待て待て」
何か話そうとするミーニャの口を遮ったのは、青髪の青年だった。
「俺は生まれも育ちもこの村で、ここにいる親父の息子だ。もしアンタの言うように俺が勇者ってんなら、親父が勇者の力を受け継いでいないとおかしいだろ?」
「そうですね。アルスさんの言う通り、勇者の力を受け継ぐには、その家系に勇者様が存在することが必要です。そして、勇者の力が発現する人間は、2000年に一度」
ミーニャは立ち上がると、
「皆さんに、お見せしたいものがあります。明日の朝、日が昇る頃に、村の門前にてお待ちしております」




