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追われるソロ4

 アルスに言われた通り、暗い水路を駆けて行くと、出口のような光が見えて来る。

 水路の水が谷に滝となって流れ落ちていく場所に出ると、長い石造りの大橋が向かいの崖に造られた通路にまで伸びていた。

 周りを見てみると、どうやら水路の流れ落ちる場所はここだけはなく、崖の至る所から滝のように水が流れ落ち、所々に橋の様なものが見えた。

 視点を上にうつせば、この町に入る門へ続く橋が上の陸地を繋いでいる。


「これが小僧の言っておった橋か」


 胸ポケットから小鳥が顔を出し言うと、ソロは頷き、橋の上を駆けだした。

 その時だった。

 一本の剣が大橋を駆ける少女の目の前に音を立て突き刺さると、ソロは足を止めた。

 ソロは、その剣の飛んできた方向へ振り返る。

 崖の上に築かれた城壁の頂上。

 紺色の空の中、その少女はその色とは真逆の色の髪とマントを靡かせ、大橋から自身を見つめる、大罪人を見下ろしていた。

 何メートルという高さもあるその場所から、その少女は宙を飛ぶと、行く手を阻む様に、ソロの前に着地した。


「祖国では逃してしまったが、今度は逃さぬぞ。放浪のソロ」


 赤髪の少女は、地に突き刺さった剣を抜くと、ソロに向き直った。

 ソロは担いでいた荷物を下ろすと、ケープ状のマントを脱ぎ()て、内ポケットから肩に飛び移った小鳥に言った。


「先生、荷物を頼みます」


「気を付けるんじゃぞ」


 ソロが頷くのを見ると、小鳥は飛び立ち、ソロを離れる。

 対面する少女も、マントを脱ぎ棄てる。


「イルヴェンタール帝国騎士団長、リダイアだ」


 リダイアに続き、ソロも銀剣を腰から引き抜き、名乗る。


「冒険者のソロ。気高きイルヴェンタールの騎士に訊ねる。願わくばこの戦い、引きを分けることを望む」


推参(すいさん)だな。(いな)、貴様の首、この場で討ち取らせてもらう」


 リダイアが返すと、ソロは覚悟を決めたように目を瞑り、再び開いた。

 お互いに剣を構えると、谷を駆ける風音だけが響き渡る。

 

 息を呑むような沈黙が橋の上を包むと、目に見えぬ糸が切れるのを合図にしたように、2人は一斉に地を蹴り飛ばした。


 宙を飛ぶ弾丸のように飛んだ2人の剣は、大橋の中央で勢いよく音を立て鍔迫(つばぜ)り合う。

 互いの剣が火花を撒き弾かれると、それを機に斬撃と防御の連続が金属が擦れる音を奏でる。

 2人の間に次々と現れる光の弧と火花。

 ソロが剣撃が押すも、キンッ、キンッと弾くリダイアの剣がそれを押し返し、攻撃を繰り出す。

 横に振られた剣をソロは飛んで避け、剣を赤髪の騎士の顔面に槍のように突き出すも、首を振り避け、リダイアは姿勢を低くし一気に剣を斜めに斬る。

 ソロはそれを防ぐと、その勢いで飛んで後退し、地に着いた足に力を込めると、矢のように飛び出した。

 2人の剣が再び交わると、白い光を放ち、いくつもの弧が描き出される。

 

 息が切れる様子もない。

 軽やかな動きで剣舞するように戦う2人の様に、小鳥も息を呑むしかなかった。


(あの少女、一体何者じゃ……!?)


 今までソロと互角にやり合った剣士は見たことがない。

 互角近くまで追い込んだ者は数人いたが、拮抗どころか下手をすればソロが敗北してしまう戦いはこれが初めてだった。 


 攻防の嵐が再び終わると、後退したリダイアは、着地すると共にそのまま一直線にソロに駆け出す。

 着地に一瞬の静止をしたソロは、目の前に現れたリダイアが剣で横を斬ると、上半身を後ろに逸らした。

 銀色の弧が胸元をすれすれに通ると、その姿勢のまま、バク転の要領で後退する。

 

 2,3と体を回転させ後退するソロをリダイアが剣を構え追うと、今度はリダイアが攻撃を繰り出す前に、ソロが剣に力を込め大きく斬る。

 大きな弧に弾かれたように、リダイアが剣でそれを防ぎ後退すると、ソロは()かさず銀剣に魔力を込める。


「やああっ!!」という叫び声と共に、ソロが剣を振ると、光の弧が放たれる。

 直線に走る光の弧を、リダイアは剣を縦に構え直撃と共に二つに斬ると同時に、再びソロに向かって駆け出す。

 リダイアは「フンッ」と声を上げ剣を大きく振るうと、交わる剣から伝わった、その大きな力に、ソロは思わず「ぐっ」と声を漏らした。

 交わった剣を、防いだ残力(ざんりょく)で弾くと、リダイアは大きく宙を飛び後退する。


 リダイアは着地すると、向かい合うソロを()、不敵に微笑んだ。


「私を相手にここまで戦えたのは貴様が初めてだ。流石は世界に名を(とどろ)かせるだけはあるな」


「ボクも驚いたよ。君みたいな女性は初めてだ。君は本当に人間なのかい?」


 純粋な疑問だった。

 瞬き一つ許されない状況を強いた戦い振り。それは、今まで見て来た強者と言われる人間の動きを遥かに凌駕していた。

 それに加え、ソロが息を少し切らす一方で赤髪の少女は息切れ一つ見せず、涼しい顔をしている。

 ソロが訊くと、リダイアは、滑稽だと言うかのように一笑し、返した。


「心外だな。私は人としての生を受け、それを歩み()く、(よど)みなき人間だ。しかしながら失望したものだ。最強と謳われた貴様が、この私すらを圧倒することができぬとは」


「そうだね、良い勉強になったよ。ボクももっと強くならなきゃだ、な!!」


 ソロがそれを言うと同時に、互いの目はキッと見開くと、共にそれぞれの地面が蹴りだされる。

 駆けながらリダイアの剣が血のように紅い禍々しい光を放ち始めるのを見ると、ソロはそのまま大きく宙に跳んだ。

 ソロはそのまま大きく光の弧を放つと、その弧は、リダイアの剣から赤い弧が放たれた直後にそれに激突し、リダイアの目前で爆発が起こる。

 リダイアは大きく飛ばされるも、空中で態勢を立て直し、着地する。

 土煙の中から影が現われたと思った直後、すぐに少女が剣を突き出すように飛び出してくると、リダイアは剣を振り、その攻撃を弾いた。

 再び拮抗戦に入り、いくつもの光の閃光が火花を立て現われる。

 ソロが剣を横に振った時だった。

 リダイアはそれを姿勢を低くし避けると、剣を勢いよく突き出した。

 ソロの肩から管が破けた様に血潮が吹き出す。

 力を振り絞ってソロは足をリダイアの胸元につけると、壁を蹴るようにリダイアを蹴り飛ばし、大きく後退した。

 リダイアもその蹴りの勢いに吹き飛ばされる。

 熱い鉄を注がれたような激痛が肩に伝わると、ソロは思わず声を漏らし、態勢を崩した。


「ソロっ!!!」


 奥から聞こえたその声に、ソロは振り向くと、小鳥の表情に、彼女が考えている事を理解したような表情を浮かべた。


「勝負あったな、放浪の!」


 リダイアが最後の攻撃の構えをし、駆け出すと、眼前の少女が見せた笑みに、ハッとした。

 ソロは剣を両手で握り振り上げると、声を上げ、勢いよく橋に突き立てた。

 その突き刺さった場所からリダイアに向かうように一気に稲妻の様なひび割れが走ると、足のついた地面は見えない力がスッと抜けた様に不安定になる。

 そして瞬く間に、橋はガラガラと音と煙を立て崩れ落ちていった。


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