追われるソロ3
騎士や噂を嗅ぎ付けた住人達の目につかないように気を付けながら、アルスとソロはしばらく入り組んだ小路の迷路を動くと、レリーフのついたマンホールを開け、地下水路へ降りた。
煉瓦でトンネル状に造られた水路は、天上からつるされたランプの中の炎に照らされ、それ以外は夜のように暗い。
両端に足場がトンネルに連れて伸びており、中央には何とも言えない臭いを発する下水が流れている。
その臭いにソロと、その内ポケットから顔をのぞかせた小鳥は思わず鼻を塞いだ。
アルスは筒状の簡易ランプを取り出すと、周りを照らし、人の気配がないことを確認する。
「よし、誰もいねェみたいだな。こっちだ」
アルスは腕時計状の方位磁石を確認し、ソロにそう言うと、少女はアルスに続き歩き出した。
二人の歩く音以外には、ぽたぽたと水滴の落ちる音だけが水路内に響いている。
しばらくその細い水路を二人で歩いて行くと、他の水路の集まる、大きな水路に出た。
アルスとソロはさび付いた鉄梯子を降りる。
「この水路を辿って行けば、あの谷の対岸に繋がる橋があるはずだ。そいつを渡っちまえば見事にこの町とおさらばさ」
「ありがとう、アルス」
ソロが微笑みそう言うと、久々の少女の笑顔を見たせいか、アルスは少し照れ臭そうに言った。
「何、良いって事よ。次会う時は、絶対お前を越えるくらいの強い奴になってやるからな」
アルスの言葉に、ソロはクスッと笑うと、頷き、
「うん、応援してる」
アルスが微笑み返した時だった。
アルスは後ろからした気配に、振り返ると同時に叫んだ。
「誰だ!」
アルス達から数十歩離れた位置。
数名の人影が見えた。
それがイルヴェンタールの騎士達だと分かると、アルスはソロをかばうように言った。
「この水路をまっすぐ走れ! 後の事は任せろ」
「けど……」とソロは言葉を遮ると、間をあけてすぐに言い直した。
「うん、分かった」
ソロがそう言うのを見ると、アルスは微笑み言った。
「また会おうぜ。今度はゆっくり語り合える場でな。行け!」
ソロは頷くと、アルスを背に振り返ること無く駆けて行った。
ソロが駆けて行くのを見ると、アルスは目の前の男たちに向き直る。
騎士は5人おり、その後ろにバカでかいのが1人。
その巨漢の騎士が騎士達の前に立つと、眼前に立つ男に向かって言った。
「そこを退いてもらうか。勇者殿」
巨漢が無表情のまま、傲慢に言うと、アルスはそれを吐き捨てるように返した。
「嫌だね。しかしながら、覚えていてもらえるとは光栄だぜ、イルヴェンタールの副団長」
「我らが王からは、我が国の救世主である其方は手厚く接しよ、との命を受けている。あの少女は我が王に仇なした大罪人だ。もう一度問おう。勇者殿、そこを退いてもらおうか」
アルスは腰に携えた、金色の剣を鞘から抜くと、巨漢に向け構え言った。
「なら、その恩人の言う事を聞いてもらおうか。あいつは今は一人でいるが、俺の大事な仲間の一人なんでな。そう簡単に見捨てるような真似はできないんでね」
「そうか、ならば仕方ない。王からは勇者殿に手を出すな、と命を受けているが、王には。勇者殿は水路にて大罪人に惨殺されたとでも報告をすることにしよう」
巨漢が腕を上げ合図をすると、騎士達が剣を抜き、一斉にアルスに向かって駆け出した。
向かってくる騎士達に応戦するようにアルスは腰を低くし、弾かれるように走り出す。
両者が衝突すると同時に、いくつもの剣の弧が描き出される。
最初の2人は剣を振り落とされる前に、斬撃を受け、駆け出した勢いのままに前のめりに不自然に落ちいく。
次に右から振り落とされた斬撃に、アルスは剣で退くと、鍔ぜりあった騎士の剣を沿うようにそのまま大きな緩やかな弧を描き出す。
体を軸に、半円の軌跡ができると同時に、左右二人の騎士の胴体から血潮が吹き出す。
その勢いのまま、アルスは残りの半円を描き切ると同時に剣を振り上げ、最後の一人に向かって振り下ろした。
巨漢からはその光景が一瞬の事に見えた。
騎士達とアルスがぶつかったと同時に、アルスはそのまま騎士達を通り越したと思った瞬間に、騎士達が血の華を咲かせ一斉に倒れる。
アルスは、剣を一振りし、血を落とすと、挑発するように巨漢に向かって言った。
「さて、アンタはどうする?」
すると、巨漢は無表情のままに感情のない声で、腰につけた巨大な剣を抜き、腕に付けた分厚い盾を構え返した。
「フン、知れたことを。イルヴェンタールの英雄、このオルディウスを前に勇者殿、ご覚悟を召されよ」
オルディウスはそう言うと、剣を構え、勇者に向かって走り出す。
それに対抗するように、アルスも剣を構え駆け出し、二つの剣が軋む音が水路内に響き渡った。




