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追われるソロ1

*このお話は「戦場のソロ」「仲間とソロ」を先にお読み頂けると、よりお楽しみいただけます。

 大きな港湾(こうわん)都市を訪れていた時のことだった。

 海に現われる巨大ウツボのモンスターの討伐依頼を受け、退治した翌朝。

 宿泊した宿で快眠から目を覚ますと、窓の外から何やら騒がしい声が聞こえて来た。

 その声に窓の外を見ると、何か事件でもあったのか、人々が中央広場のある方向へ向かって次々と走って行く。

 ソロは、何だろうと、小鳥の姿になって(いびき)をかいて寝ている、連れを起こし、荷物をまとめると、宿を後にした。



 人々の行く方向に行くと、そこはやはり騎士の像が建てられた噴水のある、中央広場だった。

 しかし、人混みに溢れるその広場に入ることもなく、ソロは足を止め、すぐに建物の影に隠れた。

 それは、噴水の前に立つ、見覚えのある人物の姿を見てしまったからだ。

 そーっと顔を覗かせ、慎重に広場を見る。

 群衆に囲まれていたのは、並べられた飾り人形のように綺麗に立っている騎士達だ。

 甲冑鎧に身を包み、前後を衣服のような赤いマントで覆っていた。

 銀に光る剣を両手で持ち、目の前に立て構え、整然と並んでいる中央に、大人の2倍の身長はあるだろう、岩のような巨漢が感情のない表情で腕組をしていた。

 しかし、一番にソロの目についたのは、彼らの胸元の布地に黒く描かれた紋様だった。

 剣を(くちばし)で加え、翼を広げる大鷲の紋様。

 そして、その紋様が()()()を示すことを後押しするように、並んだ騎士たちの前に、その見覚えのある少女が歩いて現われた。

 歳は16,7程だろうか。背は高い。

 肩まで伸びる鮮やかな赤い髪に、翡翠(ひすい)のような瞳。宝石のように綺麗であるが、同時にどこか石のように冷たい目だ。

 その輪郭と顔立ちは整っており、可愛いというよりは美人という言葉が相応(ふさわ)しく、どこか精悍(せいかん)な印象も受ける。

 背のみのマントのついた、胸元を覆う銀色の鎧に、髪よりも濃い赤色をした膝まで伸びるスカートといった、他の騎士達よりも遥かに軽装な装備だが、その立ち振る舞いは、威厳に溢れ、目に見えぬ威圧が彼女の実力を物語っていた。

 その少女は騎士たちの中央に立つと、その印象のままの声で言った。


「我らはここより遥か西の大地を治める、帝国イルヴェンタールの騎士なり。我が崇高な王に(あだ)なした大罪人、放浪のソロを追ってこの地に()せ参じた。近日、この町にその少女が訪れたとの報を受けている。海のように淡い色の短い髪をした少女だ。心当たりのある者は、直ちにその情報を提供せよ!」


 建物の陰からソロは見ながら、小声で言った。


「なんて奴らだ。まさかこんな海を越えてまで追って来るなんて……!」


 そのまま姿をくらませ、あの国のある大陸から真逆の方角に位置する大陸まで海を越え渡れば大丈夫だろう、と高をくくっていたのが間違いだった。

 そんな位置にある、この大陸まで来たということは、イルヴェンタール国は世界中に捜査を張り巡らしているという事を意味する。

 あの王は本気で世界の果てまで自分を追いつめるつもりだ。


「あの姉ちゃんもしつこいのぉ。こんな場所までよく来たもんじゃわい」


 頭の上に止まっていた小鳥がそう言うと、ソロはその鳥に言った。


「先生、何呑気(のんき)そうに言ってるんですか。ここで捕まれば先生も打ち首間違いなしですよ」


「わしは可愛い小鳥じゃからの、もし捕まれば首が飛ぶのはお主のものだけじゃわい」


「いいえ、きっとあいつらは容赦しません。焼き鳥にされて終わりです」


「なぬ?! それは困るのぉ……」


 ソロは再び騎士達に視線を向けた。


「それにあいつら、万全の準備で来てる。対魔法使い用の完全装備(フルアーマー)だ。この前みたいに魔法で封じ込めることはできませんよ」


「お主の剣で追い払えば良いではないか?」


 小鳥がそう言うと、ソロは首を横に振った。


「ここじゃ無関係な人が多すぎます。それに、きっと奴らもボクを討伐しに来たからは相当の手練(てだ)れを連れて来てるでしょう。ボクも人間ですからね、戦闘のプロフェッショナルのあの数相手は、流石に負けます。それに――」


 気になるのは、あの少女だ。

 イルヴェンタールを去る際、封術の魔法を使ったのは正直なところ、あの少女との交戦を避けるためだった。

 あの少女は只者(ただもの)ではない。

 今まで魔物以外にも数々の猛者を相手にして来たが、その猛者達とは比にならない程の、ヤバい匂いが彼女からはする。

 あの子とは戦ってはならない、そう野生の勘が警告していた。

 どうしたものかと思考を巡らせていた、その時だった。

 ギロッとした彼女の目と目が合った。

 普通の騎士ならば、あの人混みに加え、この距離感であれば気付くことは、まずない。

 スパイに関わった時の技術で、気配を消し、細心の注意をして見ていた。

 しかし、彼女は見逃さなかった。


「見つけたぞ!!」


 彼女はすぐに声を上げると、その腕で陰に隠れたソロを指差した。

 彼女の指示と共に、騎士たちが人の海をかき分け動き始めると、ソロは全力で駆けだした。


「あの子の目、人間じゃないっ!!」


 町の中を駆ける中、後ろを振り返ると、先程の騎士達が勢いよく追いかけて来る。

 重そうな見た目からは想像のつかない程身軽な速さだ。

 路地に入り、複雑に入り組んだ道で騎士達を撒こうとするも、騎士達はまるでソロの足跡でも分かるかのようにどこまでも追って来る。

 今回ばかりは流石にもうマズイかもしれない。

 そう思い、大通り近くの道に出る建物の角を曲がった時だった。


「よぉ、お急ぎのようだな」


 目の前に現れたその人物に、ソロは思わず急ブレーキをかけた。

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