スライムとソロ3
日が完全に昇り、森を覆う緑の天蓋のあちこちから、光が差し込んできた頃、ソロは突然よろめき、その場で倒れた。
まるでサウナにいるかのように身体が熱く、イガイガとした頭痛が頭に響き渡る。
先生が何か言っている声が聞こえたが、その声は段々と遠くなり、意識は闇に沈む様に落ちて行った。
「風邪じゃな」
荷物を枕に毛布をかけ、全力で走り終えた時のような荒い息を吐くソロの額に翼を当て、小鳥が言った。
「恐らく昨日の雨じゃろう。全く世話の焼ける奴じゃ」
スライムも心配そうな顔つきで、臥せている少女を見つめていた。
「何とかしたいのは山々じゃが、わしが小鳥の姿でいる昼の間は、風邪薬を作るどころか道具もまともに扱えん。日が暮れるまで待つしかないのぉ」
太陽が真上を通り過ぎ、昼になって、小鳥が食事を勧めるも、ソロは一口しか受け付けず、体温も上がる一方だった。
こういった森の中で病に伏せ、死していった旅人も何度か見たことがある。
弱っていくソロを見るに耐えられなくなってしまったのか、心配そうにソロを見ていたスライムの姿はいつの間にか消えてしまっていた。
小鳥は一人になってからも、ソロの傍でただ座すようにじっと見守っていた。
日が暮れ始め、木漏れ日の光が茜色を帯び始めると、小鳥は幼女の姿に変身する。
さてと、と腰を上げ、森の中に薬の材料となる薬草を探しに行こうとした時だった。
「お主……!」
茂みから泥や軽傷でボロボロになった、あの緑色の生物が、ひょいと姿を現したのだ。
スライムが体内から何か草の様なものを数種類出すと、幼女は驚きつつも喜んだ表情を浮かべた。
スライムが集めてきたそれらは、風邪薬を調合するのに必要な薬草だった。
「お主が取って来てくれたのか。ありがとうのぉ」
幼女が優しくスライムを撫でると、スライムは、きゅうと嬉しそうな声を上げた。
「よし、後はわしに任せ。すぐに良く効く良薬を作るでな」
幼女は荷物の中から陶製の乳鉢と棒を探し出すと、薬草を鉢の中に入れ、ゴリゴリと混ぜ合わせた。
そして、草々がよく混ざると、水筒の水を鉢に注ぎ、出来上がった薬をソロにゆっくり飲ませた。
「これで一先ず大丈夫じゃろう。後は布でも濡らして頭につけるかのぉ」
幼女がそう言うと、スライムは、きゅっきゅっと鳴き、幼女に提案した。
幼女は、それは良案じゃ、と頷くと、言われた通り水筒の水で、スライムの体を簡単に洗い、ソロの額に乗せた。
普段のソロであれば、怒り狂う事間違いなしだろう。
しかし、スライムの適度なひんやりとした体温は、心地よく、熱冷ましに効果的なものだった。
夜になって、熱も大分下がると、ソロの体調はかなり回復した。
しばらく眠りについていたが、目を覚ますと、額に乗っていたスライムに優しく声をかけた。
「もう大丈夫、ありがとう」
スライムがひょいと、頭から離れ、ソロが体を起こすと、焚火をしていた幼女はソロを見て言った。
「もう大丈夫か?」
「はい。心配かけてすいませんでした」
幼女が微笑み返すのを見ると、ソロはスライムに向き直った。
「君も本当にありがとう。付きっきりで看病してくれてたんだね」
ソロはそっとスライムを撫でた。
トラウマから少し抵抗はあったが、その感謝の気持ちはスライムにもしっかりと伝わっていた。
小さな生物は照れるような嬉しい様な笑みを浮かべて鳴いた。
その夜は3人で楽しく食事を取り、全快した翌朝、出発の前にソロはスライムに言った。
「ボク、スライムのこと、誤解してたよ。冷たい態度をとっちゃって、本当にごめんね」
ソロが謝ると、スライムは体を横に振った。
「本当に、ここに残るのかい? ボクと一緒に来ても良いんだよ?」
ソロが膝を曲げ姿勢を低くしてスライムに訊ねると、スライムは体を再び横に振り、きゅっきゅっと鳴いた。
「お誘いは本当に嬉しいですが、この地域を離れるわけにはいきません。ここはわたしの故郷ですから、と言っておる」
小鳥が通訳するように言うと、ソロは少し残念そうな顔をしたが、スライムに微笑み返した。
「分かった。短い間だったけど、本当にありがとう。元気でね」
ソロがそう言うと、スライムは一番元気な声で鳴いた。
スライムが、お元気で、と言っていたのは、通訳なしでもソロに伝わった。
ソロは最後にスライムを撫でると、立ち上がり、森を後にした。
途中後ろを振り返ると、ソロは、飛び跳ね見送るスライムに手を振り、次の町へ向けて出発していった。




