新しい家族③
うっかり間違えてあとがきを投稿していました、すみません!!!!
家族三人で馬車に乗り込み、ひまわり畑に向かう。
馬車の外ではハロルドとオーウェンが馬に乗って、私たちの護衛をしてくれていた。
セレナはクライブの隣で窓に貼り付いており、目を輝かせながら外の景色を見つめている。
「そうだ、昨晩グレイ殿から手紙が届いたよ」
クライブは、どこか幸せそうに話していて、私も直感的にいい知らせだったのだろうとわかる。
「グレイ様からですか?」
「ああ。一週間前、ロジェが結婚式を挙げたという内容だった」
「式を、よかった! ロジェ様もオリビアも、きっと幸せでいっぱいだったでしょうね」
私の恋愛相談に親身になってのってくれて『恋は花に似ている気がします』と話してくれた、優しい女の子の照れた笑顔を思い出す。
オリビアの恋の花も開いて、ようやく実を結んだのだ。
「ああ。なんでも、新婦より先にロジェが感極まって大泣きしたらしい」
想像してしまったのか、クライブはこぶしで口元を隠しながらくつくつと笑う。
クライブにとって、北方騎士団はきっと、第二の故郷で、騎士たちは家族のような存在なのだろう。
世界広しといえど、結婚式のお祝いカンパを一国の王にも募れるのはグレイ様くらいのものだ、と私も思い出し笑いをした。
「それにしても……不思議なもんだな、自分が親になるなんて」
クライブが、窓の外を見つめるセレナの髪を撫でながら言う。
「本当に。初めて陛下と一緒に馬車に乗ったときは、地獄かと思ったくらいなのに」
「あれは、悪かった。だが、ティアを他の男に渡さなくてよかったと、心底思うよ。離婚などしていたら、こんな幸せは得られなかった」
クライブは優しく微笑み、そっと私の頬を撫でてくる。
くすぐったくて思わず目をつむりながら笑うと、片手で首の後ろを掴まれて引き寄せられ、唇に柔らかいものが触れた。
慌てて目を開けると、クライブが熱のこもった瞳で私を見つめていて、どくんと心臓が跳ねる。
「ティア、愛している」
馬車の中という逃げ場のない至近距離で甘く囁かれて、慌てて身体を離してうつむく。
愛の言葉は嬉しいけれど、不意打ちは本当に勘弁してほしい。
「そんな遠くに行かれてしまうと、セレナを支えられないし、キスができない。こっちを向いて、顔を上げて」
優しく誘導するように声をかけられて、胸が高鳴る。
未だ自分からキスをしにいけない私にとって、これはなかなかハードルが高い。
「セレナが見てるから……」
もっともらしい理由をつけたけれど、当のセレナは窓の外に夢中で、こっちを見る気配が全くない。
諦めるしか道はなく、うう、と小さく唸って身体を寄せて顔を上げる。
唇を重ねる数秒前に見えた顔は、満足そうに微笑む顔で……。
毎度のようにクライブのいいように振り回されて、それでもそんな日々を愛おしく思う自分に、あきれてしまう。
とろけるような甘いキスを繰り返したあと、私たちは顔を見合わせて照れたように笑い合った。
◇
「着きましたよ〜!」
ハロルドが馬車の扉を開けて、私たちは外へ出る。
目の前には、いつか見たのと同じ、壮大なひまわり畑がどこまでも広がっていた。
「あうー!」
セレナはひまわりに触れたいのか、クライブの腕から必死に身を乗り出して、手を伸ばしている。
「触ってみるか?」
クライブがひまわりに近づいて、セレナは背の高い大輪のひまわりをぺしぺしと叩いて感触を楽しんでいた。
このひまわり畑は、お父様と『いつか一緒に見よう』と約束した場所で、私にとって特別な意味を持つ場所。
そこに、今度は最愛の夫とだけではなく、娘とも一緒に来ることができた。
孫を見せたかったという思いは消えないけれど、お父様はきっと空の上で見守ってくれているはずだ。
しんみりとした気持ちでひまわりを眺めていると「あうあう」と声が聞こえる。
隣を見ると、クライブに抱っこされたセレナが私にひまわりの花を差し出していた。
クライブはセレナの頭を撫でながら、柔らかく目を細めて口を開いた。
「セレナもひまわりが好きらしい。幼いし、まだそんな気持ちがあるのかはわからないが、ティアに好きなものを見せたかったのかもしれないな」
「綺麗なひまわりね。セレナ、ありがとう」
小さなおでこに口づけをすると、セレナはくすぐったそうに笑った。
それから私たちはシートを広げて軽食を食べて、セレナと草花で遊んだ。
仕事を残してきているし、セレナもウトウトし始めたため『また来年も来よう』と三人で約束したあと、私たちは馬車に乗り込む。
「綺麗でしたね」
抱きつくセレナの背中をトントンと優しく叩きながら言う。
「ああ。セレナも喜んでいたし、こういう外出もいいものだな」
クライブがセレナの頭を何度も撫でると、セレナはだんだんまぶたが落ちてきて、安らかな寝息を立て始めた。
「以前、俺はティアにひまわりの花を贈ったことがあったな」
クライブは愛おしそうにセレナの頭を撫で続けながら言い、私は「はい」とうなずいた。
「あの頃は、ティアが想う男と結婚させようと思っていたし、いずれ離婚をするつもりだったから、贈り物をするのを避けていたんだ」
クライブの言葉に、確かにそうだったと思い返す。
結婚してからずっと、私は夫から一度も贈り物をもらったことがなかったのだ。
「だが、あまりにティアが愛しくて……。俺のことを少しでも想ってくれたらと、欲が出てしまってな。いずれ枯れて捨てることになる花ならば、と思い、ひまわりの花を渡したんだ」
クライブはセレナを見つめながら世間話をするかのように言うけれど、あの時の想いを聞かせてもらえて、私の胸はとくんと動いた。
「それなのに、まさかティアがあのようにしおりにして残してくれているとは、思いもよらなかった」
顔を上げて嬉しそうに微笑むクライブに、きゅっと胸が甘く締めつけられる。
私たちはきっと、ひまわり畑に来た頃から両思いだったはずなのに、ずっと片思いをしていたのだ。
「ティア。当時は花の意味も知らずに渡したが、今度はこの花を、誓いを込めて贈らせてくれ」
クライブは小箱から小さなひまわりを取り出し、私と眠るセレナの髪に挿し入れた。
「あ、ええと……その……」
照れと喜びとで、私は目を丸くするばかりで言葉が続いていかない。
もしかしたら、顔も赤くなっているかもしれない。
クライブは私をじっと見つめるばかりで、何も言ってくれなくて、ますます恥ずかしさが増していく。
「うにゅう……」
突然セレナがむにゃむにゃと寝言を言うのを見て、私たちは顔を見合わせた。
「可愛い」
クライブが心から愛おしそうに呟く。
「はい、本当に……」
きゅっとセレナを抱きしめると、クライブはくすりと笑った。
「セレナもそうだが、いま俺が言ったのは、ティア。俺の最愛の妻のことだ」
肩を抱き寄せられて、私はそのままクライブにもたれかかった。
子どもが生まれてもなお、そんなふうに思ってもらえるのは、嬉しい。だけど、なんだか照れくさくって仕方がない。
ありがとうございますというのも変な気がしてしまい、返事もできないまま、こくりとうなずく。
そして、私も隠していたそれをクライブの手のひらにちょこんと載せた。
「これは……?」
不思議そうな声を出すクライブに、私はぎこちなく言葉を紡ぐ。
「ひまわりの、花です。私の気持ちもクライブと同じで……いままでもこれからもずっと、あなただけを見つめています」
慣れない愛の告白がたどたどしすきて、笑われるかなと思いきや、顔を上げたときに見えたクライブの顔は穏やかで幸せに満ち溢れたような微笑みで……。
互いに引き寄せられるように触れるだけのやさしいキスを交わすと、私たちの下で眠るセレナが幸せな夢を見ているのか、寝言を言いながらふにゃりと笑う。
クライブと私は顔を寄せて、セレナを起こさないように微笑み合ったのだった。
二人の子どもが生まれたあとの番外編、いかがでしたでしょうか。
この一年半後くらいにセレナの弟が生まれ、ティアの毎日はますます幸せに溢れたものになっていきます。
セレナはおてんばな姫様になり、セレナを守れるように強くなろうと、マリノの息子アンセルは北方騎士団に入ります。
やがて、大きくなった二人は再会し、恋に落ちる……んじゃないかなぁなんて思っています。
イグニット家に幸あれ☆
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(より甘くて説得力のある内容に変わっているので、もちろん全巻でも!)
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▼近衛騎士オーウェンがヒーローのお話を連載中
『おとぎ話とは違うのです!〜騎士様、キスで呪いは解けません〜』
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執着強めの騎士が、修道女見習いを溺愛するお話。




