2-17「vs.クレイジータイガー⑤」
餌だと見下していた雑魚からよく分からないモノを仕掛けられた、という事実は予想以上に奴の癇に障ったようだ。
クレイジータイガーはこちらに身体を向き直すと、標的を俺に切り替えて「グルルル」と唸る。
だが、仕掛けたこっちも余裕は一切ない。
ここからが第二ラウンドだ、と意気込んでみたものの俺の作戦『喰われる前に運を悪くしての嫌がらせ』が上手く行くかは全くの未知である。
とは言ったものの、もう作戦は実行し、クレイジータイガーもこっちに標的を定めている。後戻りは効かない。何より、何もしなくても喰われるだけだ。仮に今彼女を見捨てて逃げても、あいつの足なら必ず追いつかれるだろう。結局は、先か後かの違いでしかない。
まぁ、彼女を見捨てて逃げるなんて選択肢は考慮にも入れてないんだけどね。
それは、ともかく。
で、あるなら、例えリスキーな面があろうと最期の最後にスキルを使って悪あがきをするのは、無駄と言う事はないだろう。
クレイジータイガーがこちらへと歩み寄る。彼女と対峙した時と違って一歩一歩ゆっくり踏みしめるように移動するのは、こちらを舐めきっているからだと思われる。
確かに、Cランクだけあって戦闘経験があり、火の魔法も使える彼女に対して、こちらは全力の突きがほぼノーダメージで魔法すら使えない(使い方が分からない)からっきしの素人である。奴が侮るのも、頷ける。もし俺が同じ立場でも、相手を舐めて掛かるだろうし。
兎相手にも全力を出せるのが獅子なら、さしずめこいつは兎だ。それもノロマの象徴たるカメ相手にかけっこで敗れた、赤っ恥の愚か者。
そう思うことで、震えて縮み上がってしまいそうになる我が身を奮い立たせる。
そして。
「来いよ、猫! 追い詰められた獲物の一噛みが如何に手痛いかを教えてやる!」
クレイジータイガー相手に挑発し、成牙を何となくのフォームで構える。
剣の構え方なんて知らない。戦闘のいろはなんて聞いた事すらない。漫画にラノベ、そしてアニメ。それらの描写を参考にしたそれっぽいハリボテの構え。それでも構うものか。こちとら転生して数分の、いろんな意味でずぶの素人。元よりまともに戦っても、戦いにすらならんのだ。
はっきり言おう!
クレイジータイガー相手に、正攻法での勝ち目は俺にはない!
考えるまでもない。曰くCランクですら歯牙にも掛けない相手だぞ? 素人の喧嘩殺法モドキで勝てると思うか?
――無理だ。
でも、正攻法じゃなければ?
それこそ、相手が勝手に自爆に等しいミスして、逆にそのミスをこっちがたまたま突く事が出来たなら? それこそ、偶然に。
通常、そんな偶然は起こらない。当然だ。そんな都合のいい偶然など、もはや偶然ではない。
だけど、そんな都合のいい偶然を俺は起こせる――かも知れない。女神様から貰った固有特殊型『運命天秤』なら、その偶然を必然的に引き出す事ができる、はすだ!
そう、俺は。
圧倒的な強者を相手にした、この絶望的な戦況下において。
運に委ねたラッキーパンチに全てを賭ける!




