焼きもち
「コダイの死を無駄にしないためにも歯車を完成させるぞ!」
「誰が死ぬか、マスターのアホ」
「必ず治してやるから安心して死んでいろ」
「オーケー。くくく」
「信頼しているんですねえ」
「当然だ」
狐の魔王は跳ねた。僕に飛びかかる。ごろごろ転がって僕らの歯車を口にくわえた。
「これが無ければ私たちを倒せないのだな。トンボ」
「あ」
簡単に取られた。鈍ったかな。ヒヨコが僕を殴った。
「何やっているんですか。ふしだらですう」
「コダイにお灸をすえてやるのに必死でつい」
「ついじゃないですよう。何をやっているんですかあ!」
「だってこいつが、僕以外の奴を乗せるんだ!」
「焼きもちですかあ」
「僕のスナック置き場に魔王を乗せるなんてあんまりだ」
「ゴミを乗せるマスターなんて嫌いだ! 魔王だって勇者だって乗せてやる!」
「もう動けないくせに、ふはははは。ざまあ見ろ! コダイ」
「何、仲間割れしているんですかあ」
ヒヨコはもう一度、僕につっこみをいれた。かかとが刺さった。良い足だ。
「痛い」
「痛くても構いません。歯車を取りかえすんですう」
「歯車か。本当に取りかえせるんだろうか。手持ちの歯車は昔の歯車だけだ」
「取りかえさないと死んじゃいますよお」
「ちっ」
僕は歯車をセットした。ツインダガーを構える。
ツインダガーとはナイフよりは長い中途半端な剣である。中途半端な僕にふさわしい。
「これで倒せというのか。ネココ」
コダイの隣に倒れている猫の王が呻いた。
「君にはそれがちょうどいいはずだ」
「どういう意味だ」
「君が英雄になった時に持っていた剣だ」
「意味が解らない」
「トンボ。狐のしっぽには要注意だ」
「わかった」
僕が狐の魔王に向かって跳ぶと、その軌道をそらすものがあった。梟の魔王だ。
その爪が僕らに迫る。
「梟の魔王」
一筋縄ではいかないようだ。
僕はヒヨコと左右に分かれた。
ヒヨコはウオーターガンを撃つ。木の板でさえ切断できるその水流は魔王相手にはただの水鉄砲でしかない。
「こんなものか」
梟の魔王は飛沫を散らしながらどんどん近づいてくる。
そしてヒヨコを容赦なく追いつめる。ヒヨコは爪に捕まれて引きずられて、もう駄目だ。僕は梟の魔王の背中を狙った。卑怯者なのだ。人の隙をつくのがうまいとも言ってもいい。
「回し切り!」
回転しながら突っ込む僕の頬に突き刺さるのは狐のしっぽ。全身がしびれる。動けない。
「やはり何らかの麻痺攻撃」
病の種類はわからないが、舌先までしぶれる。梟の魔王の爪が僕に届いた。
それでも僕は死なない。
トンボの魔王ガストールの力が僕を死なせなかった。
「痛いな」
「魔王と同じ力か。厄介だな、トンボ」
狐の魔王が目をむく。
「ただの人間なら死んでいる」
「不本意なんだけどな」
本当に不本意だ。だけどこの力があれば普通の人間より魔王の力に耐えられる。
僕は歯車を構えた。しびれる体を前に走らせる。
「狐の魔王」
僕の歯車から光の柱が伸びた。
狐の魔王は尻尾を走らせる。強い。あっという間に身動きが取れなくなった。
全身の自由を奪われた。
「くそ」
のびた尻尾でがんじがらめだ。このまま全身の骨を折られれば僕もただでは済まないだろう。
だから、僕は狐のしっぽにかみついた。砕けろ。
「トンボ、そんな攻撃、怖くはない。いひゃひゃひゃひゃ」
狐は狂い始めている。
「だろうな」
僕はその隙に狐が奪い取った歯車に手を伸ばした。触れる。
「怖いのはこっちだろう。光を吹け」
大気が揺らめく。
狐の魔王は衝撃によろめいた。僕は魔王がくわえていた歯車を取りかえす。
「ヒヨコ。生き残るぞ。全力で!」
「でも。諦めているんでしょう? トンボの師匠も。私と一緒でえ」
そうだな。最悪の気分だ。
「諦めているさ。僕はもう生き残らないことを諦めたんだ」
「どうして」
「スネイクにどやされた。それに昔の仲間が好きだったからかもしれない。あいつらは僕にとって最高の仲間だった。その仲間が死んでまで僕を生かしてくれた。だからここに立っている」
「昔の仲間」
「この話はここまでだ」
「気になりますう。師匠のこと気になりますう」
「どうして」
「どうしてだっていいでしょう?」
「本当にどうしてなんだ?」
「師匠は、鈍いですう。私の気持ちも知らないでえ。私の尊敬する気持ちも知らないでえ。私の敬愛する気持ちも知らないでえ。私があなたの事をどう思っているのかも知らないでえ」
「どう鈍いんだ? そんなことはどうでもいいか。ヒヨコ。改造しろ」
「はいぃ」
ヒヨコは歯車を持って逃げだす。そこに立ちはだかるのは梟の魔王。
間違いなく強い。
その背後に耳を掻く者がいた。猫の魔王だ。
「僕を放っておいていいと思っているのかい? 全身痺れているがサンドバックくらいにはなるつもりだ」




