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そして奴が来る←背の低い旦那様は魔王相手に喧嘩を売ることに決めた  作者: 新藤 愛巳
第二章 トンボとコダイ
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スナックを食べる天才

「この遺跡はグラムガリバーを作るために作られたんだ。ピラミッドに入ると人は時間の感覚が狂うらしいよ。それにこの中にはチームの仲間によってワクチンが隠してあるらしい。ディスペンサーはこの中を探査しているんだ」


 コダイは昔に作られた探査装置と言うことか。

 スネイク程の頭のいい奴なら今の話をすべて理解できるのだろう。

 しかし、美亜は説明相手をあえてスネイクではなくこの僕にした。

 そこには何か理由があるのだろう。物わかりの悪い僕を選んだ理由が。


「あんたがコダイの造り手か」


 思わずディスペンサー四十七のことをいつものようにコダイと呼んでからしまったと思った。

 未来人が時間を飛び越え過去にやってきた話は古代人にはきつすぎる。

 だから話さないように、そうスネイクに口止めされたばかりだのに。

 僕と言う奴は口が軽いのか、うかつ者なのか。


「コダイか。ディスペンサーよりいい名前だ」


 美亜はディスペンサーたちを集めた。


「ディスペンサー、今日から君たちはコダイって名前にするからね」


「なんで、なんで?」


 コダイたちはマニュピュレーターを掲げ、一斉に首をかしげる。

 今のコダイはひねくれているが昔のグラムガリバーたちは随分と素直なようだ。

 時が人を痛める。僕の治療を担当していた先生はそう言っていた。

 歪んだ想念と思想で痛む。そうならないために、人と人のつながりが大切だと言われた。

 僕はその中で何も学べなかった。

 そう言えば、逆に気になったことがある。


「なんで、コダイはディスペンサーって名前だったんだ?」


「ワクチンを適量取り出す者って意味だよ。ワクチンのある場所を探索する機械なんだよ。便利だろう?」


 ノアの魔王がウイルスだったとは駆逐艦のみんなも知らない事じゃないだろうか。

なら未来で馴鹿の魔王があんなに増えたのはやはりウイルスたるゆえんだろうか。

 だとしたら、人類の生存が危ぶまれる。駆逐艦草薙はあのままだと全滅する。

 誰も敵わない。大量のトナカイに襲われれば一斉に終わる。

 そう言えば紀元前はのちの時代の人が、西暦を始めた時に決めたと言っていたな。確か、キリストが生まれた年が西暦一年。正確な暦を出すなら、キリストが生まれたのは紀元前四世紀らしいが。スネイクが前に そんな話を前にしていた。あいつは無駄知識が豊富な奴だ。

 そう言えば、古代人がウイルスの話をするのは可笑しくないか。

 脳内ゾンビが何か言っていた気もするが。先輩の話は話半分に聞くことにしているのだ。

 まともに聞けば足元から攫われそうだ。

 そうやって僕の心は先輩のもたらすハードで大量の情報から身を守っているのかもしれない。心を守っているのかもしれない。

 貝のように。笑える。


「あんたがウイルスの話をするのは、理にかなってない気がする」


 美亜は美しく振り返る。


「ワクチンを増やすためには二千年以上の時間が必要でね。この時代に決めたんだ」


 意味は解らない。もっと大事なことがある。


「君は呑み込みが悪いでしょう。人の話を半分も聞いていない。それに疑問を持つこともない。受け身で流されているからだよ」


「まあそうだ」


「だからよかった。君のような人の方が、頼りになる。信頼できる。理詰めの人は行動を起こせないからね」


「なんでだよ」


「未来の事とか世界の事とか余計なことを考えないからさ」


「そうだな。僕の頭の中は現在、お前の足首の事でいっぱいだ」


 美亜は苦笑した。


「ねえ。スネイクちゃん可愛いね。恋人かなんか?」


「別にあんな奴」


 あんな奴。恋人ではない。かといって友達ではない。なんと呼べばいいのだ。


「相棒かな」


「その相棒が君の後ろで心底、怒っているよ」


 僕は恐る恐る振り返った。


「旦那様。その女の足首で頭が一杯ってどうしてしまったの。私は焼きます」


「焼くってお前……」


「焼きます。焼いてしまうわ。許しません」


 スネイクは二丁拳銃を構えた。焼きもちならいいが、そっちの焼くだというのか。火の歯車が回る。ガシャン。


「ちょっと待て。僕らはこれからの話をだな」


「これから何をどうするつもりなの?」


 え?


「これから、何をどうするつもりなの? 婚姻、婚礼? それとも真夜中のバトル? 返答次第では蹴ち回すわよ!」


「スネイクさん?」


「旦那様をしばいて私は強く生きるわ」


「悲しめよ! 僕らは脱出の話をしていただけだ」


「脱出」


 スネイクは息を切らした。


「なんだ、旦那様、まともな思考ができたのね」


「当然だ。スネイクの馬鹿者。僕は天才だぞ」


「スナックを食べる天才ね」


 僕はふんぞり返りながら、あれと思う。


「お前いつからそこにいた?」


「途中からです」


「どのくらい前からだ」


「足首のところからです! ディスペンサーちゃんたちがこっちに走ってきてからです」


 美亜が胸をなでおろす。


「じゃあみんなで脱出しよう」


 僕は不思議に思う。そう言えば、未来の遺跡ではコダイ四十七たちの仲間がここで壊れていたな。

 なぜそうなったのだろう?

 僕等は過去を変えられるのだろうか。

 僕らは遺跡を後にした。嫌な予感など何も当たらなくて拍子抜けするほど簡単に地上に出た。地上には魔王がいなかった。それほど簡単に地上に出られたのに、美亜は赤いカードを取り出して、落ち込んだ声を出した。


「やっぱり、帰れない」


 その意味がよくわからない僕は別に何とも思わなかった。何も思わないことは異常かもしれない。彼女が帰れないと苦しんでいるのに。僕はどうでもいいのだ。

 僕の感情は薄い。

 彼女はトカゲの魔王かもしれない。だから彼女が帰れなくって僕はほっとしているんだろうか。コダイの造り主なのに。美亜は良い奴なのに。

 僕らを助けてくれようとしているのに。僕って奴は最悪だ。

 それとも全てが罠なのだろうか。泥棒皆泥棒ではないが、こんな気分の時は疑いたくもなる。相手は燕尾服を着ていないものの魔王の姿をしているのだから、どこまで信じていいのか。信用していいのか。


「ダメよ、旦那様。この人はすごくいい人よ。もっと心を開いてそれに……」


 スネイクは意味深な言葉を呟いた。


「私たち、巻き込んだのかしら?」


 スネイクにその意味を尋ねるが、彼女は何も答えなかった。

 僕は何もわからないなりに思った。僕らも帰れないんだから同じだとそう思った。

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