第二話 ゲームの中に入った事で
「おおぉぉぉぉぉーーーーーー!!」
俺は思わず大声を上げていた。
前言撤回!
これは……この「アイテム図鑑」は……まさに俺が求めていたものだ!
今まで作ってきたものや集めてきたものはメモに書いてある。
だが、どうしても味気なく感じてしまっていた。
こういうの! こういうのが欲しかったのだ!
俺はこの世界に来てこれ以上ないほどに興奮していた。前世で散々行ってきた図鑑を埋めるゲームプレイスタイル。
これを生きがいに生きてきた。
この世界でもそれが出来るようになるとは。
図鑑は一割どころか1%も埋まっていない。俺がスキルを覚えてキースからアイテムを買えるようになってから2年、200種類以上のアイテムを手に入れてきたがまだまだ足りなかったようだ。
全身に血が通い視界が開けていく。
この世界に来てずっとふらふらとおぼつかなかった気持ちが固まっていく。
この図鑑を全て埋める。
それを目標にこのゲームをプレイしよう。
きっと今までこの世界を受け入れられなかったのは、俺に「目標がなかった」からであろう。
目標のない生活は堕落する。
俺が熱を持って出来ること、それは未知を既知へと変えていくこと。
やろう。今からこのゲームを攻略する。
どんなゲームなのかは知らない、だからストーリーもわからない。
だが、そんなことは関係ない。
何故なら俺の目的は「図鑑を完璧に埋めること」なのだから。
「アレン、なにか大きな声出したかい?」
「母さん! 何でもないよ! ちょっと面白い素材に興奮しただけだから!」
「そうかい? 程々にね」
「はーい!」
俺は元気に返事をする。
両親は俺のやることにあまり関わってこない。
家の大きな収入源だというのもあるが、それ以前から俺が変なものを集めてくることに大らかだった。
きっとゲームキャラだからだろうな。
それはそれとして。
俺は早速新しいアイテムを探しに探索しに行こうとする。
「ちょっとまた出掛けてくるねー!」
「あ、アレン待ちなさい! ミアちゃん達が遊びに来てるわよ」
「え、あー適当に断っとくよ。じゃあ」
今は彼女達と遊んでいる暇はない。早くこの図鑑をもっと埋めなければ。
そう思って家を出ようとすると、誰かに襟首を掴まれる。
「ちょっと待ちなさい!」
「えっ! 何、母さん! 苦しいよー」
「適当に断っとくよ、じゃないでしょ! せっかく女の子の方から誘いに来てくれたのに断るなんてバチが当たるよ!」
「いつも遊んであげてるじゃん。今日くらいいいでしょ。やりたいことあるんだよー」
俺がアイテムを集めてきても何も言わないのに、こういう時はしつこく怒ってくる。
いわゆる村人とのコミュニケーションはとっておけ、というゲーム的配慮なのだろうか。
けどなー、今はやりたいことがあるだよなー。
しかし、間近でみる母さんの目はすごく怒っていて怖い。
「分かった。分かったよ! しょうがないなー」
「あんたねー。よその村の男にそんなこと聞かれたら殴られるよ! 恵まれた環境にもっと感謝なさい!」
「はーい……」
そんなこと言われてもね。
俺はため息を吐きながら外に出る。
すると、俺の家の前には女の子が三人立っていた。
「あ、アレンだ! やっほー!」
「アレン君、こんにちは!」
「アレンー、こんにちー」
「ヨーナ、ミア、レミー、こんにちは。今日は何をしにここに?」
「アレンと遊びたくてきたの!」
それはそうか。当たり前の質問をしてしまった。
「じゃあ遊ぼうか。何する?」
「今日はヒポノ山の秘密基地に行きたいなー」
「オーケー、行こうか」
「わーい!」
「いこー」
「じゃあアレン! いつものお願い!」
「ああ」
ヒポノ山の秘密基地はここから歩いて二時間ほどの距離にある。
往復だとおよそ四時間。
当然そんな歩いていられないので、魔法を使って飛んでいくことになる。
「フライ」
俺がそう唱えると俺も含めた四人の体がふわりと浮き上がり宙へと舞う。
「ふわー!」
「すごーい!」
「アレン、すごー」
宙に浮いた三人が思い思いに喜んでいる。
「やっぱりアレンはすごいねー! こんな魔法見たことないよー!」
「う、うん。アレン君、すごい」
「アレン、グッジョブ」
こんな魔法見たことない。
それはそうだろう。
この世界はゲーム。それ故に、使う魔法は「定型魔法」しかない。つまり、ほぼ全てのゲームの魔法と同じく、魔法とは魔力を使って呪文を放つただそれだけのもの。
ファイヤーボールやウォーターボールは真っ直ぐにしか飛ばないし、サイクロンなどの範囲魔法は発動中に魔法を動かせない。
MP……いわゆる魔力を込めれば威力や範囲は上がるが、違いはそれだけ。
魔法を使えるものが同じだけ魔力を込めれば同じ魔法が放たれる。まさに「定型魔法」だ。
しかし、ゲームの世界に転生し、魔法に触れていくうちに、俺はこの世界の魔法には「指向性」があることに気付いた。
自分の体から離れた魔力を操作出来れば、魔法をもっと自由に出来る。
そう考えた俺は魔法を覚えて三年、体外に放出した魔力を操作する方法を模索し続けた。
その結果、俺は魔法を望む形に変形させ、望む場所に発生させることに成功した。
これはすごいことだ。
この世界の魔法使いは「手元」に「球型」のファイヤーボールを「真っ直ぐ」にしか放てないが、俺は魔力を操れる範囲なら「どこから」でも「好きな形」のファイヤーボールを「縦横無尽」に放てる。
こんな事はゲームのコントローラーやキーボードでは絶対に再現できない。
そしてこの世界の住人、NPC達でこれが出来る人間は俺の知る限りいない。
いわゆるゲームの世界に入った事による齟齬というやつなのだろう。
彼女達のいう通り、「フライ」などという魔法はこの世界に存在しない俺のオリジナル魔法。
このお陰で片道二時間かかる秘密基地まで10分とかからないのだ。




