プロローグ
書き直す為、一度削除いたしました
「K2さんおめでとうございます!」
とあるオンラインゲーム。
俺は所属するギルドメンバーにこのゲーム初の偉業を達成した事の祝福を受けていた。
達成した偉業、それはそのゲームのアイテムの全回収だ。
プレイヤー同士がゲーム内マネーで取引をする取引所に流れるアイテム、レアすぎて流すプレイヤーがいなくて流れないアイテム、取引所に流すことが元々出来ないアイテム。
海でしか取れないアイテム、山でしか取れないアイテム、農作業でしか手に入らないアイテム、特定の魔物を特定の時間で倒さないと手に入らないアイテム。
限定アイテムを除いた常設アイテム…その数全五万種。
俺のネームの上にはそれら全てのアイテムをコンプリートした証である称号『全てを求めた者』が燦然と輝いている。
アイテム集めを手伝ってくれた同じギルドのメンバーへ祝福に、共にアイテムを集めてくれたことへの礼をして、俺はゲームのログアウトボタンを押す。
「ふぅぅぅーーーーーー……」
モニター画面から現実へと意識を戻した俺は天井を眺めて深く息を吐く。
二年かかってやっとこのゲームをクリアした。
オンラインゲームの中でも圧倒的なアイテムの種類を誇ると言われているこのゲーム「スカイフロンティアオンライン」。
アイテムを集めて図鑑を埋めていく事が生き甲斐だった俺は二年間、このゲームをやりこんだ。
空の果てから海の底まで探索し尽くし、時に強すぎるボスを最前線組に混ざって倒す。
アイテムのために強くなり、アイテムのために知識を学んだ。
それも今日でおしまい。
もちろんオンラインゲームなので、二年前に始めた俺では手に入れることが出来ない期間限定アイテムや、これからのアップデートで増えるアイテムもあることだろう。
だが、俺がこのゲームを始める時にした目標は「限定アイテムを除いて手に入れられるアイテムをすべて集める」だった。
それが今日この日、叶ったのだ。満足した。
だから「スカイフロンティアオンライン」はもうお終い。ギルドメンバーにお別れを告げて抜けてきたし、挨拶回りもちゃんとした。
もうこのゲームに未練はない。
俺の胸にあるのは達成感とやることがなくなってしまった事で空いてしまった空虚感。
「ふぅ……次のゲーム、何しようか……」
長時間の集中によって疲れた脳みそで考える。
この二年間、一番ハマってやりこんだのは「スカイフロンティアオンライン」ではあるが、別に他のゲームを一切して来なかった訳ではない。
オープンワールドゲームが好きなので、オフラインのオープンワールドゲームならほぼクリアしている。
俺の知る限り、ここ数週間は新作も出ないだろう。
「はぁ……久々に他のゲームにでも手を出してみるかなぁ。ふわぁ……ねみぃ……」
まあ明日ゆっくり考えればいいか。
……。
「オギャーオギャー」
うるさい。
俺が借りてる家は木造だから隣人の声とか聞こえてくるのだが、赤ん坊がいるのは初知りだ。
俺の知る限りこの家は独り身の男しか住んでいなかったはずだが……。
「オギャーオギャー」
というか……この赤子の声めちゃくちゃ近くから聞こえてくるな。
具体的には俺の身体から……。
「貴方……産まれたわ」
「ああ、よくやった!」
俺のすぐ近くからは疲れ切ったような女性の声と、大人の男性の声が聞こえてくる。
俺は掠れた視界の焦点を合わしていく。
俺の目に映ったのは茶色い髪をした男と水色の髪をした女。
彼らの透き通った瞳に映る俺は、どう見ても赤ん坊であった。
ーー。
どうやら俺は異世界に転生したらしい。
魔法あり、ジョブシステムあり、ステータスあり。
魔物もいるし、地球には存在しない物質もある。
まるでゲームみたいな世界観の世界だ。
ジョブも変更可能でジョブレベルを上げていくことでステータスも上がり、高位のジョブになればなるほど上がるステータス値が高い。
うんうんなるほどなるほど。よく聞くゲームシステムだ。
ゲームをしていた人間ならスルッと入ってくる設定だな。
ただ一つだけ疑問がある。
「これ、なんてゲーム?」
こういう異世界転生者のテンプレって直前にやりこんでいたゲームの世界に入り込んだ、とかじゃないのかよ。
スカイフロンティアオンラインはジョブシステムなんてない。キャラクターごとに使える武器とスキルが固定されているし、レベルが上がってもHPとMPしか上がらず、攻撃力や防御力は装備やアクセサリーで更新するシステム。
この世界のシステムとは似ても似つかないものだ。
他のゲームでも全く同じシステムのゲームは記憶にない。
「アレン、ご飯だぞー!」
「はーい」
この世界の父親に呼ばれ、俺は食卓に向かう。
食卓に並んでいたのはそこそこ柔らかい麦パンと具がそこそこ入ってるミートパイ、それと干し肉とドレッシングのかかっていない野菜サラダ。
正直にいうとあんまり美味しくない。でも食べられないほど不味くもないいつも通りの食卓だ。
両親はこんな質素な生活でも明るく、俺にも優しい。
きっと俺にも愛情というものを注いでくれているのだろう。
だが、俺の心はどこかこの世界の雰囲気に乗り切れないでいた。完全にこの世界の人間として、「アレン」になりきれない。
別に地球の生活に戻りたい、とかではない。
しかし、「この世界で生きていくぞ!」という気概も持てない。
心にぽっかり穴が空いたまま十年の月日が経った。
ーーその日、俺の村に商人がやってきた。
街から遠く離れたこの村にとって商人が持ってくる街の品々は潤いだ。
かくいう俺も結構楽しみにしている。
なにしろこの村にはない珍しいアイテムを持ってくるからだ。
「やあアレン君!」
「キースさん、こんにちは。何か珍しい素材はありますか?」
「もちろんだとも! ぜひ見てってくれ!」
そう言って俺に商品を見せてくれる。
「砂アリの蟻酸」「フォレストウルフの毛皮」「オルトロスの牙」「レッドスライムの核」
珍しいかどうかはわからないが、確かに俺が持っていない、ここら辺には出現しない魔物のアイテムばかりだ。
普通の村では絶対買ってくれない為、おそらく俺の為だけにこれらを仕入れてくれているのだろう。
「キースさん」
「はいはい、何だい?」
「とりあえずここにあるもの全部ください」
俺は懐から財布を取り出し、その中から大金貨を取り渡す。キースはそれを受け取り素材をまとめて渡してくれる。
「毎度! いやー相変わらずの気前の良さ! さぞかし女の子にモテるでしょ!」
「ええ、まあまあです」
「またまたぁ。はい、これ! 商品とお釣りね!」
「ありがとうございます」
俺は愛想笑いを浮かべながらアイテムを受け取る。
ゲームのキャラクターにモテてもね。
俺の懐が厚いのは近くの山で魔物を狩ったり、山で手に入れた素材を錬金術でポーションにして売ったりしているからだ。
この世界でもアイテム収集を趣味にしている俺は、自分のコレクションを増やす為に色々なスキルを身につけている。
ポーション作りのための錬金スキルはもちろんのこと、木材などを加工するための加工スキルからアクセサリーを作るための鍛治スキル、「料理」もアイテムだから料理する為の調理スキルも一通り揃えている。
これはこの村に住む村人なら全員知っていることで、俺はこの村きっての天才とまで呼ばれていた。
同年代の女の子からは明らかに好意と呼ばれるものを受けており、キースの言う通りモテているのだろう。
だが、どうしても彼女達がゲームのキャラクターにしか思えず、恋愛という意味で好きになれない。
それはやはり俺がこの世界に対して一歩引いているからだろうな。
買った素材を持って俺は家に帰ろうとした。
そんな時だった。
キースの馬車に本が積み上がっているのが見えた。
「キースさん、あの本って……」
他の村人の対応に忙しくしているキースに声をかける。
「ああ、あの本ね。領主様に売れればと思って持ってきたんだ。欲しいなら売ってあげるよ」
「ありがとうございます。少し見させていただきますね」
俺は荷馬車の本に近づいて行き何冊か本を手に取る。
そして中身をパラパラと眺めていく。
この世界には本がある。本があってしまう。
本もアイテムだ。だから俺の収集対象に入る。
だが……本の収集は本当に大変なのだ。前世のオフラインオープンワールドゲーム「スカ◯リム」を思い出し少し億劫になる。
特定の場所にしか置いてない本があったり、ランダムでしか手に入らないものがあったり。
しかも種類も数も膨大で見つけるのに相当苦労した思い出があった。
この世界にも本があるということは、これも収集対象ということだ。
たまにせこせこ集めてはいるが、案の定ここにあるのはどれも俺が持っていない本だ。
「キースさん、これ、幾らですか?」
「んー? 大体金貨2、3枚だね」
「全部で?」
「ははは冗談きついよ、アレン君! 一冊で、だよ」
「……ですよね」
金貨十枚で大金貨一枚。つまりは5冊で大金貨一枚が飛んでいく。ここには本が50冊以上ある。
つまり大金貨十枚以上。
流石に出せない。
仕方ないので中身を軽く見て、レアそうな本だけ買っていくことにする。
そんな時だった。
一冊の本を手に取る。
『アイテム図鑑』
「おお!」
この世界にもアイテムを集めて図鑑にしている人間がいるとは。
早速購入して参考にしようと本を開いてみる。
「……あれ、ほとんど埋まってないじゃん」
スカスカだ。
紙の厚さは分厚いがその中身はほとんど書かれていない。
たまに書かれていても俺が知っているアイテムの情報のみ。知らないアイテムの情報が欲しいのにこれでは全く使い物にならない。
そう思いながらパラパラめくっていくとあることに気づく。
むしろ俺の知っているアイテムしか載っていない。
偶然……?
それにしてはあまりにも出来過ぎだ。それなら、もしかして……。
「アレン君、その本がいいのかい?」
「え、ええ。この本が欲しいです」
「どれどれ……、ああそれかい? 中身まっさらで何も書かれてないけどそれで本当にいいのかい?」
「中身がまっさら……? いや……そ、そうです!白紙の紙が欲しいなって思ってたところでして」
どうやらキースにはこの本の中身が見えないらしい。それに気付き慌てて俺は誤魔化す。
キースは俺の表情から何か訝しんだが、すぐに笑顔になる。
「それなら銀貨一枚でいいよ。単なる白紙の束だからね」
「そうですか。ではお言葉に甘えさせていただきます」
俺は財布から銀貨一枚を取り出してキースに渡す。
結局俺はその一冊のみを購入し、急いで家に戻った。
「おかえり、アレン。またよく分からないものを買い込んだのかい?」
「まあねー」
両親も俺がこの村にはないアイテムを買ってくることは当然知っている。だが、俺がポーション作りなどで手に入れたお金を家に入れることで農民の中ではかなり裕福な生活をしているので何も言ってこない。
俺は自室へと篭り早速アイテム図鑑を広げる。
そして、じっくりと時間をかけて中身を精査する。
読むこと一時間。
「……やっぱりだ。俺の知っているアイテムしか載ってない」
俺の記憶にあるものでここに載ってないものはおそらくない。
このアイテム図鑑、これは所有者が手に入れたことがあるアイテムを自動で追記してくれるのか。
いや、そういえばキースはこの本を白紙だと言っていた。
街を周り、様々なアイテムに触れてきたキースがこの本の中身が白紙なわけがない。
可能性として考えられるのは、この本はプレイヤー|にしか中身が見えないということ。
俺はプレイヤーなのだろうか。
この世界に生まれ変わって8年、いまだに俺はこのゲームが何なのか知らない。
今の所イベントのイの字も発生していない。
もしかしていわゆるスローライフ系の農業ゲームとかなのだろうか。
それにしては美少女ヒロインやイケメン男子みたいなのが出てこない。
村の女の子達はゲームの中だけあって可愛い。
しかし、騎士の娘だとかネクロマンサーだとか隣街でも有名だとか、そういういかにもヒロインっぽい女の子はいない。
男も同様だ。
普通の農民の子ども。村の駐在の兵の子どももいるが、実は剣聖だとかこの領地では負けなしの剣の天才、などという子どもはいない。
突出すべき点のない完全に普通の農村。ゲームのストーリーにすら出てこないようなモブ農村である。
そして俺はその農村の農民の一人。
まあ別にいいか。
そんなことよりもこの図鑑だ。
再度ペラペラと紙をめくってみる。
空欄ばかり。たまにアイテム名が記載されたページも出てくるが、その中身は文字だけ。
興奮して買ってみたものの、これを図鑑と表現するのはさすがに違うだろ。
などと落胆したのも束の間。
なんとはなしに指で文字に触れる。
すると、俺の目に、指で触れた名前のアイテムの情報が出てきた。




