第9話 アル&テレーゼ VS スノーボア
最初に動き出したのは、意外にもテレーゼだった。
「……シッ!」
バックステップで素早く後ろに下がりながら、目にも止まらぬ速さで矢をつがえて放つ。
「ブルゥ!」
ほとんど同時に二本の矢がスノーボアを襲うが、空中に突如現れた『氷の盾』によってあっさりと弾かれる。
『自分に刃向かう愚かな人間に制裁を』と、スノーボアがテレーゼに意識を向けた隙をつき、側面に回っていたアルが仕掛けた。
「ふんっ!」
地面と水平に振り抜かれる剣。だがその軌道上に、またもや『氷の盾』が出現する。
「甘ぇよ!」
『氷の盾』を一刀両断し、その勢いのまま胴体を撫で斬りに。純白の身体から赤い血が派手に散った。
「グルァァァ!!」
身体を傷つけられて激怒したスノーボアから、今までの比じゃない冷気が噴き出す。
「っ! 何をする気だ!?」
「アル、いったん下がって!」
遠目から危険を感じ取ったテレーゼからの離脱指示。
「わかってる!」
後ろに跳ぶため、足にぐっと力を入れた刹那。
距離を取ろうとするアルと、スノーボアの目が合った。
……ゾクッ!
強烈な悪寒に襲われ、動作を中断。
そのまま全力で横に転がった。
「【ペネトレイトアロー】!」
そこへテレーゼからの援護射撃が届くが、放たれた強烈なスキルの矢はスノーボアに一瞥されると、1mほど手前で氷漬けになり地面へと落下した。
その間に体勢を立て直したアルは、テレーゼのところまで下がる。
「さっき、あいつからヤバい気配がした。何しようとしてたか分かるか?」
冷や汗を流しながら訊ねるが、彼女もその問いに対する答えを持ち合わせていない。
「分からないわ。……ただ」
「ただ?」
「あたりに漂っている冷気が、『アルの周りに集まっていた』気がするわ」
こちらの様子を伺いながら足を踏み鳴らす相手に、意識を向けつつ自分の所感を告げる。
結局、スノーボアがしようとしたことは分からずじまいだ。
「長期戦は危険な気がするな。妙なことをされる前に、一気に仕留めたほうがいいと思うんだが。どうだ?」
「同感ね。それが出来ればの話だけど」
「だな。……はぁ。ガルフの魔法が恋しいぜ」
こういう時に魔法職がいると、取れる選択肢が一気に増えるのだが。
向こうは向こうでボア狩りに勤しんでいるのだ。わがままは言えない。
「ぼやいても仕方ないわ。……来るわよ!」
様子見は終わったのか、スノーボアの雰囲気が変わった。
「ブルルルル……ッ!」
パキ……パキ…
辺り一面の冷気が凝縮し、空中にいくつもの氷の礫が現れる。大きさは拳大。数は……およそ10。
「あるかもとは思ってたけど、やっぱ遠距離持ちかよ!」
「アレ飛ばされると避難所が危険よ!」
「チッ! 面倒なことしやがって」
2人は今、避難所を背にして戦っているのだが、これにはちゃんと理由がある。
スノーボアと避難所の間に射線が通ってしまうと、アルとテレーゼを無視して人間がたくさんいる避難所の方に突っ込んで行ってしまう危険があるのだ。
わずかでもその可能性がある以上、ここを空ける訳にはいかない。
よって、取れる選択肢は。
「可能な限り打ち落としてくれ! その後突っ込む!」
「さすがに全部は無理よ? 撃ち漏らしはなんとかしてね!」
「おう!」
氷の礫が放たれる直前。テレーゼがスキルを発動した。
「【アローレイン】」
上空に放たれた矢が眩く輝きながら幾重にも分裂し、雨のように降り注ぐ。
ほぼ同時に放たれた礫のほとんどがそれらによって砕かれていった。
撃ち漏らしは………3つ。
ワンテンポ遅らせて突撃したアルがそれらを迎え撃つ。
「ひとつ!」
いつかボアをスキルで切り捨てた時のような、上段からの斬り下ろし。
「ふたつ!」
そのまま返す剣で2個目の礫を斬り上げ破壊。
「ラスト!」
その体勢から、さらに横の薙ぎ払いに繋げて最後の礫を処理。
続けて、オマケとばかりに間合いに踏み込み、スノーボアの首を目掛けてスキルを発動しようとした瞬間。
……スノーボアが体を横にずらした。
死角だった場所から現れたのは……たった今、叩き割ったばかりの氷の礫と同じものだ。
「ッ!?」
体で隠されていた礫は2つ。それが同時に射出された。
「うおぉぉぉぉっ!!!」
迎撃は……間に合わないッ!
ひとつはアルの胴体を掠めて猛スピードで後方へ。
もうひとつ、顔面めがけて迫りくる死の弾丸はギリギリ首を傾けてかわした。
さらに、体勢を崩したアルを頭突きで吹き飛ばすスノーボア。
鋭い牙は剣でガードしたものの、また距離を離されてしまった。
一方でスキルの反動によりすぐに動けず、2つの礫の行方を目で追うことしかできなかったテレーゼは、派手に壁が粉砕される避難所の姿を見た。
一連の破壊行為によって巻き上がった砂煙が晴れると、恐怖の表情を浮かべ体を寄せ合う村人たちが、避難所の外からでもはっきりと確認できる。……できてしまう。
それを目ざとく見つけたスノーボアの目は怪しく光り、鼻息も荒くなっている。
あきらかに大量の餌を前に興奮している様子だ。
「最悪だ」
絶望的な状況の中、アルの呟きが妙に耳に残った気がした。
次回、やっと主人公の出番が……




