第82話 女神の使徒はなんでもは知らない
知ってることだけ
朝特有の霧が立ち込めているヴォルクスの大通り。
街の中心部から北門に向かって、ゆっくりと歩を進める一団がおったそうな。もちろん、俺と"フェザーテイル"のことだが。
「早すぎない? こんな早朝にする必要あったの?」
まだ眠い目をゴシゴシしながら、アルに問う。
「今日中に砦まで行きたいからだろ。あのマルクスとかいう使者が、どれだけ俺たちに着いて来れるのか分からんしな」
「でも、そこそこレベルは高そうだったわ!」
「ふむ、たしか20には届いてなかったはずじゃが」
おや?
「ガルフはマルクスの事、知ってるの?」
「う、うむ。昔少しのぅ……」
すかさず俺が聞いたら、若干気まずそうに目を泳がせながら答えてくれた。あまり言いたくなさそうだな。深掘りするのはやめておこう。アルとテレーゼをチラッと見ると、2人も同意見みたいだね。
「お、着いたな」
アルの声で前方に目を向けると、マルクス以外は全員揃っているようだった。
「ようヒエイ。待たせちまったか?」
「俺たちも今来たところだよ」
……むさい男二人が、デートの待ち合わせみたいなやりとりすんなや。どこにも需要ない……いや、案外あるかもしれないな。いけない、深淵に飲み込まれる。深く考えるのはよそう。
俺は残る"レイブン"メンバーに挨拶をすることにした。
「ダルトンとエリックもおはよう。よろしくね」
「ああ」
「うむ」
「「「……」」」
会話終了。
スタンピードの顔合わせの時も一言も喋らなかったし、この二人は基本無口なんだろう。ちなみにダルトンはモノクル眼鏡の魔術師で、エリックはゴツい大男で大剣使いだ。
「ルイン」
唐突に、別の場所から声をかけられる。味方だと半端なく心強いなコイツ。マリ◯でスター手に入れた時くらい頼もしいわ。
「おはよう、フリード」
「おはよう。あの使者はまだ来ないのか?」
俺に聞かれましても。
「いや、知らんけど」
「なぜだ? 君は女神の使徒なのだろう?」
「お前は女神の使徒をなんだと思ってるんだ」
え、預言者的なサムシングだと思ってる? もしかして一般の方々からは、そんな風に思われてるの? 世間一般の女神の使徒に対するイメージ改革が必要かもしれない。
「悪いね〜。ちっとばかし遅れちゃったかい?」
脳内で戦略を練っていると、聞き覚えのある声がいきなり聞こえてきた。
「まだ集合時間にはなってないよ。……ところでマルクス。王都の人は女神の使徒にどんなイメージを持ってる?」
「なんだい? どしたの急に……。う〜ん、そうだなぁ。女神に選ばれた特別な人間かねぇ」
ふ、普通の答えが返ってきた……。
「ルイっちが何を聞きたいのか分からないけど、別に崇めたりとかそういうのはないよん」
「そうなの?」
「そりゃそうでしょ。だって、いくら女神様に指名されたからって、特に何もしてない人間を尊敬できるかい?」
「無理っすわ」
なんという正論パンチだ。俺の知ってる異世界(ラノベ産)だと、無条件で崇められたりしてるのに、この世界はそういうところシビアらしい。
「ただ、それでもリーン教とエルディ教にとっては、やっぱり女神の使徒は重要な存在だからさ。……身の回りには気をつけなね」
「りょ」
なんだろう。今の言葉からは"マルクスの素顔"みたいなものが、ほんの少しだけ垣間見えた気がした。
なお、今の話に出てきたエルディ教とは、聖エルディライト法国が国教と定めている宗教である。
「もういいか?」
話がひと段落したとみて、フリードが声をかけてきた。俺とマルクスが頷くと、集まった一同を見渡してから続ける。
「とりあえず今日中に砦まで行きたい。両殿下が心配だ」
第2皇子ハインツと第1皇女マリーのことだ。このフリードの言い方に、ちょっと引っかかるものがあったので直接聞いてみる。
「砦の兵士たちは信用できないの?」
「軍は今二つに割れていてね。僕に着いてきてくれた"革命派"と、皇帝に心酔しているミューラー中将についた"皇帝派"だ」
2つに割れただけ状況はまだマシか。もし全軍が向こうについていたら、その時点で詰んでる
「砦には革命派しかいないわけね。スパイは?」
「いないと信じたいが、正直分からない。だからなるべく早く戻りたいんだ」
険しい顔で言うフリードに、アルが声を掛ける。
「ならもう行こうぜ。いつまでも門の前にいるのもなんだし。マルクス、お前はどのくらい走れる?」
「君らが全力じゃないなら、多分問題ないよん。こう見えて俺、『俊足のマルちゃん』て呼ばれてるんだぜ〜。おたくらが考えてるよりは、全然走れると思ってくれぃ」
自信を覗かせる俊足のマルちゃん。それを見て満足そうに頷くフリードだ。
……言っちゃなんだが、今のどこに満足できる要素があったんだお前。
「では行こうか」
やっと出発だ。
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一般道の自動車くらいのスピードで草原をひた走る俺たち一行。
「今回はシーズ村に寄れなくて残念ね!」
本人の宣言通り、余裕で冒険者のスピードについてくるマルクスを尻目に、テレーゼが話しかけてきた。
「状況が状況だからね。帝国から帰ってきたら時間を作って里帰りしに行くよ」
「ふふっ、そうね! そうしてあげたら、きっとセラさん喜ぶわよ!」
この前の帰郷時に「久々の【点火】だわ!」と、テンションが爆上がりだった母さんの顔を思い出す。
無駄にカッコいい火打ち石には、もう戻れなくなってしまった母のために、魔道具を買っていってあげよう。こういう時に親孝行しておかねば。
懐かしの我が村を思っていたからだろうか。ふと思い出したことがある。
「あ……。そういえば、もうすぐ兄さんの誕生日じゃん」
あのどこまでも優しい兄を、盛大に祝ってあげねばなるまい。
近く、村に帰る理由がまたひとつ出来たね。
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