第81話 ついさっきもこんな事があったような
歴史は繰り返される
「おかえりなさい、ルイン君」
「ただいまソフィ。アルがどこにいるか知ってる?」
領主館から宿に戻った俺は、笑顔で迎えてくれたソフィにアルの所在を訊ねた。
「アルさんというか、"アルゴスアイズ"の人達もみんな食堂にいるわよ。ルイン君が帰ってくるのを待ってたみたい」
「おっ、アルが集めてくれたのか。なんて気が利く男なんだ」
「ふふ。直接言ってあげたら、きっと喜ぶわよ」
「考えとくよ」
「もう」
なんてやりとりをしてたら、当のアルが食堂の方からやってきた。
「ルイン、おかえり。帰ってんならイチャついてないで早く来いよ。みんな待ってるぞ」
──ボフッ!
「いっ、いちゃついてません! おかえりなさいしてただけですっ!」
「わ、悪かったって。ごめんごめん」
「もうっ!」
一瞬で頭から湯気を噴き出したソフィが猛抗議する。……アルのやつ、前もこんな事あったし、わざとやってるんじゃないだろうな。
「アルはホントそういうとこ、どうにかしような」
「え、そこまで言うほどのもんじゃないだろ?」
だめだこの男。デリカシーの無さをまるで自覚していない。それなら、俺が言うべきことはただひとつ。
「お前がそう思うんならそうなんだろう。お前ん中ではな」
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「それで? パーティーの今後について、勝手に決めてきた我らがリーダー」
「はい……」
「何か申し開きはあるかしら?」
食堂に行くと、待ってましたとばかりにカトレアに詰められた。
これは本気で怒っているわけじゃなくて、今後のために嗜めておこうって感じだね。なら俺も素直にいこう。
「セシリアの護衛を任せられる人物が、うちのメンバー以外に思いつかなかったんだよ。"フェザーテイル"や"レイブン"は、俺に同行するのがほぼ確だったし」
「……続けて」
腕を組んで先を促すカトレア。そういうとこを見てローグは君を『姐さん』と呼んだんだぞ。呼んだ瞬間【魔弾】の餌食になってたけど。
「まぁ、ぶっちゃけると他の冒険者をそこまで信用してない。いや、こう言うと語弊があるね。そこまで付き合いがない人間に"大事な友人"を任せたくない」
おそらく、ヴォルクスの冒険者は良い人ばかりなのだろう。だが、『だろう』ではダメなのだ。
心の底から信じられる人じゃないと、俺が帝国で行動している時に、ふと思い出して気になってしまう。それは普通に嫌だ。依頼遂行中にムズムズしたくない。
となると必然、信頼して後を任せられるのはカトレア達しかいない。俺が誰よりも信頼している、世界一美人で頼れる、完璧なお姉さんであるところのカトレアしかいないのだ。
「ということなのだ」
「なのだ、じゃないわよ。途中からの唐突なおべっかにイラッとしたわ。最後まで頑張って真面目にしなさいよ」
「さーせん」
謝りながらも、俺は誠実さを伝えるために真面目な顔を作る。そして、どこまでも澄み渡った曇りなき眼でカトレアを見つめる。
「……(じーっ)」
「……」
どうだ! 『女神の使徒』の聖なる眼差しだぜ! これで、俺の真摯で真っ直ぐな思いは伝わったはず。
「その禍々しさを隠し切れてない邪悪な瞳をやめなさい」
「ひどくない!?」
なにひとつ伝わってなかった! もうおしまいだよ、このパーティー。
「オレは今ので納得したぞ。なにがあっても聖女を守ると誓おう」
音楽性の違いによる解散の危機に直面した我がパーティー。そこを土俵際で繋ぎ止めたのはやはりこの男、アニキことビルだった。
「ボクもだぞ!」
「オイラもルインが帰ってくるまで聖女を守るぜ! いい奴だったしな!」
エルルとローグも続く。するとカトレアは「はぁ……」とため息をひとつ吐き、こう言った。
「今回はここまでにしてあげるわ。相談しに来れる状況でもなかったようだしね。……でも、今後は気をつけなさいよ」
「うん、分かってる」
これで、こっちはまとまった。問題は……。
「ルイン君、またこの街を離れちゃうんだね……」
めちゃくちゃ寂しそうな顔をするソフィだ。この表情をされると俺は弱い。
(あれ? ついさっきもこんな状況があったような気が……)
ともあれ、クソ雑魚ナメクジになってしまった俺は、すぐさまフォローを入れる。
「なるべく早く戻ってこれるように頑張るよ。ヴォルクスに戻ってきたら、すぐにこの宿に帰ってくるよ」
「……約束だよ?」
「うん、必ず」
そう言うと、少しだけ悪戯っぽい笑顔を浮かべるソフィ。……なんだろうか。
「じゃあもし約束を破ったら、私のお願いを1つ聞いてもらってもいいかな?」
なんだ、そんなことか。
「もちろんいいよ。約束する」
「えへへ」
上機嫌にはにかんだソフィは、軽い足取りでこの場を離れていった。
「さて、待たせてごめんね。打ち合わせしようか」
ソフィを見送った俺が"フェザーテイル"の方に向き直ると、3人揃って「やっちまったなお前」とでも言いたげな表情をしていた。
(……あるぇー? ついさっきもこんな状況があったような気が……)
激しいデジャヴを感じつつ、出発へ向けた打ち合わせを始めるのだった。
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「おかーさん、おかーさん!」
「ん? どうしたんだい、ソフィ」
上機嫌な娘に呼ばれたターシャは、優しい表情でソフィに訊ねる。
「ルイン君が帝国から帰ってきたら、私のお願いをなんでも聞いてくれるんだって!」
ソフィの中で、事実は大分歪曲されていた。
「……ほんとかい?」
「うん!」
あのルインがそんなこと言うか? と不審に思ったターシャだったが、嬉しそうな娘の姿を見て「事実がどうであれ、なにがなんでもお願いを聞いてもらおうじゃないか」と思い直す。
「なにをお願いしよっかな〜」
「ゆっくり考えるんだねぇ」
「そうする! えへへ」
帝国から帰ってきたルインに、いったいなにが待ち受けているのか。
その運命を知る者は、どこにもいない。
帝国からルインが帰ってきた時にどうなってしまうのか気になる方は、
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