第7話 スノーボア対策会議
この大陸には大きく分けて大国が4つあり、ルミウム王国もその1つである。
大陸は地球の南米大陸のような形をしており、南側おおよそ3分の1ほどがルミウム王国の領土となっている。なお、国土は4大国の中で一番広い。
そしてこの国は、トランプのダイヤのような形といえば分かりやすいだろうか。少し歪な菱形をしているのだが、下側の2辺は海に面していて、上側の2辺は他国と接している。
まず、北東側の隣国が宗教国家『聖エルディライト法国』である。
Cランク冒険者パーティー”フェザーテイル”から聞いた話だと、ラノベなんかでよくあるお近づきになりたくないタイプの国みたいだね。まぁ、ひとまずここでは置いておく。
次に、北西側。山脈によって分断され、決まったルートを使わなければ往来が極めて困難な国。それが『アルセイン帝国』だ。
一年のほとんどが厳しい寒さという、なかなか暮らしにくそうな国らしい。だからだろう。長年、豊かなルミウム王国の土地を狙っている。
俺が住んでいるこのシーズ村は、ルミウム王国側の山脈の麓から森を挟んだ場所にある。つまり、山脈という障害物がなければ、帝国は割とご近所さんなのだ。
なぜ急に、こんな話をしたのかって?
それは”フェザーテイル”が持ち帰ってきた情報が理由だ。
「スノーボア。寒冷地に生息する、ボアが過酷な環境に適応して進化したBランクの魔物じゃな」
森から帰還した”フェザーテイル”の3人が村長に報告したところ、事態を重く見た村長が村の主要メンバー(といっても、そんなもの特に決まっていないので手の空いている男衆ほぼ全員)を広場に集めて会議を開いた。
その第一声が、先のガルフの言葉である。
ちなみに俺も、ちゃっかりその中に加わっている。
変に「潜入しよう!」とか思わないで、逆に堂々と当たり前のように会議の場に入って来れば、意外とみんな『あ、参加者なんだな』と錯覚してくれる。子供なのに。
世の中ってそういうもんだよね。
「本来この国にいないはずの魔物だ。帝国から流れてきたって考えるのが自然だが」
話は”フェザーテイル”を中心に進んでいく。
「山脈を越えてきたっていうのは、考えられないわよね。流石にBランクのスノーボアでもあの雪山越えは無理よ」
「だな。どっかに抜け穴でもできたのかもしれねぇな。もしそうだとしたら、帝国の野心家どもにバレたら面倒なことになるぞ」
確実に良からぬことを考えるだろうね。
「帝国人にはバレていないことを祈るしかないのぅ。この件が終わったら、冒険者ギルドに報告はしておこう。それより今は、スノーボアをどうするかじゃ」
だよなぁ。優先順位はどう考えてもそっちが先だ。
「それで? 君たちで討伐は可能なのかね?」
村長が不安そうな顔で3人に尋ねた。
「正直ちと厳しいな。単純に手が足りない。通常のボス個体だったら問題なくお供もろとも始末できるが、スノーボアが相手となるとそっちだけで手一杯になっちまう」
「むぅ……」
「俺たちはCランク。ヤツはBランクだ。Bランク狩りは何度か経験あるが、倒すことは出来ても手間取るのは間違いない」
Cランク冒険者がBランクの魔物を何度も討伐しているという事実も、なかなかおかしいのだが。そのことをツッコめる人間はここにはいない。
「それともうひとつ、この前畑が襲われた日から考えると、いつまたハラペコボアに襲撃されてもおかしくないわよ」
「なっ!」
村人たちの間で動揺が広がっていく。
いや、「なっ!」じゃねーよ。ボアをどうしようって話してるんだから当たり前でしょうが。あ、父さんも動揺してら。
「聞いてくれ。こっちから巣を攻めて、俺たちがスノーボアを倒せたとしても、まず取り巻きには逃げられるだろう。悪いが、同時に殲滅できるような余裕はない」
巣は森にあるので、ガルフの範囲魔法での殲滅が難しいのだ。特に火魔法は絶対に使えない。
「散り散りにバラけられるこの状況が一番まずい。近隣の村にまで被害が広がって、いよいよ収拾がつかなくなる。なら取れる手段は」
「迎え撃つ、か」
村長が覚悟を決めたような、キリッ!とした表情でアルの言葉を引き継ぐ。
……切り替え早い。早くない?
その村長の姿を見て、村の男共も次々に覚悟を決めていく。
今更だが、ボア(というか魔物全般)は本来『雑食』だ。この前の襲撃で、人的被害が出なかったのは奇跡と言っていい。
次に畑を荒らされたら、村の備蓄も残りわずかとなるだろう。となると、たとえ魔物に殺されなかったとしても村自体が破綻する。
もう街から新たな応援を呼ぶ時間的余裕はない。ついでに金銭的余裕もない。
実は、この村は今まさに滅びの危機に瀕しているのだ。あまりそんな雰囲気を感じないが、状況は最悪に近い。
彼らが割とあっさり覚悟完了したのも、そういう事情があるからかもしれない。多分、きっと。メイビー。
「すまないが、多少でも戦える者は手を貸してくれないか。ボスはこっちでなんとかするが、通常のボアを狩る人手が欲しい。もちろん、可能な限り危険はないようにする」
「「そういうことなら……」」
男衆の参加が決まった。話の流れでこうなることがなんとなく分かっていたからか、すぐに了承したな。
「次の襲撃でカタをつけよう。……まずは村を囲う柵の強化が必要だな。頼めるか? ガルフ」
「やるしかあるまいて」
「頑張ってね! あたしは他の作業に回るわね!」
その後も話し合いは続き、考え得る限りの対策を講じる。
解散する頃には、もう夜明けは近かった。
そして日が昇って早々、休む間もなく作業へ取り掛かる。
ガルフが土魔法で元からある柵に沿って壁を作り、村の男たちが固めて補強。
弓を使える者や、剣や槍の心得がある者は久々に手に持った得物の感触を確かめた。
あとはもう村の迎撃体制が整うまでは、襲撃がないことを祈るしかない。
……果たして祈りは天に届き、2日後にはスノーボア率いる群れを迎え撃つ用意が整ったのだった。
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秘密基地での特訓を終え、疲労からヨロヨロしながら帰宅していると、偶然通りがかったテレーゼに声をかけられた。
「あら? ルインじゃない! 何してるの? ……って、なんでそんなフラフラなの?」
「万が一ボアが何体も村に入り込んできて乱戦になって、どうしても逃げられずに正面からやり合わなくちゃならないような事態になっても、生き残れるようにギリギリまで訓練をば」
最悪のケースは常に考えておかないと。慢心だけはしてはならない(戒め)
「な、なんか妙に具体的ね……。でも絶対にない、とは言い切れないのが申し訳ないわね……」
しゅん……。耳をぺたんとさせるテレーゼ。
「あ、そうだわ!」
と思いきや、おもむろに顔を上げて勢いよく近づいてきた。
「ルインは得物持ってなかったわよね? なら、これをあげるわ!」
そう言って腰に提げている短剣のうち1本を、鞘ごと外して渡してきた。
「いいんですか!? 武器どうしようか悩んでいたので、助かります!」
これはマジで嬉しい。最悪、訓練用に作った木剣でボアとやり合わなくちゃいけないのかと思ってたからな。
木の棒で魔物に挑むとか、ドラ◯エ以外でやったらただの自殺なんよな。
「ふふっ! もしもの時は、これで家族を守るのよ?」
「もちろんです。本当にありがとうございます!」
前世ではどちらかというと猫派だったけど、今この瞬間犬派になりました。
「じゃあまた明日ね! おやすみー!」
「おやすみなさい」
テレーゼは尻尾をパタパタさせながら元気に去っていった。うーん、癒される。話してみると、案外可愛い人なんだよな。
ウィル兄さんに次ぐ癒し枠かもしれない。
村はピリピリしてるけど、今夜はいい夢が見れそうだ。




