第33話 それぞれの日常 ※他者視点
※他者視点のお話です。
ーヴォルクス冒険者ギルド・ギルド長室ー
「ふむ。伯爵の目は確かだった、か」
執務机に向かいながら、ギルド長ルーカスは独りごちる。
思い返すのは、昇級試験中のルインの行動の数々。
頭の回転が速く、判断も早い。行動も迅速かつ的確。敵の攻撃が想定以上だった際の咄嗟の対処も見事だった。
「あれはこのまま成長すれば、トップの連中にも手が届く逸材だわな」
そう結論づける。
伯爵は彼をどうするつもりだろうか。噂ではセレナ様がご執心という話だし、手元には置いておきたいだろうな。
とそこまで考えて、ふと突拍子もない考えが浮かんでしまった。
「まさか、な」
徐々に功績を積み上げさせて、貴族にでもするつもりなのか。
……セレナ様との婚姻が可能な身分まで、ガーランド伯爵自ら引き上げるつもりなのでは。
「ふぅ、流石に飛躍しすぎか。俺も疲れているのかもしれんな」
……この冒険者ギルド・ヴォルクス支部長ルーカスの考えは、一部当たっていたりするのだった。
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ー宿屋『渡り鳥の止まり木』 ガルフの部屋ー
「あの子すごいわね。あんなスキル、聞いたことないわよ」
「ほっほっほ! さすが儂の孫じゃろうて」
「あなたの孫は私でしょうが!」
カトレアとガルフ、孫と祖父の会話は続く。
「最初に会った時から異常じゃったぞ。遠くからこちらを観察しながら片手間に魔力循環しておったし」
「はい? たしか最初に"フェザーテイル"がルインと会ったのって7年前よね?」
「うむ」
「はぁっ!? あの子5歳で魔力循環なんかしてたわけ!?」
初めて耳にする衝撃の情報に、カトレアがつい大声を出してしまった。
隣の部屋でお昼寝していたテレーゼが、この声にびっくりして飛び起き、キョロキョロ辺りを見渡した後、また横になり夢の世界へ旅立った。
「後は森で魔物を間引いておる時に、驚くほど遠くから観察しておったな」
「……まさか、あのスキルを?」
「うむ。本人曰く、アルの【スラッシュ】を習得する予定だったらしいのじゃが、覚えたのはボアの【突進】だったそうじゃ」
「プッ! あはははははっ! そういえば、試験の時に使ってたわね【突進】!」
カトレアさん大爆笑である。ガルフの記憶にも、ここまで笑っている孫の姿はない。
「ふむ。ともあれ、お主がルイン坊とパーティーを組んでくれて安心しとるよ」
「当然よ。現時点でもかなりのモノだけど、将来性が飛び抜けているもの。今組まなきゃ、どこかの誰かに横取りされちゃうわ」
青田買いよ! と、鼻をふんす、とする孫を見るガルフの目はどこまでも優しい。
「あの子はアルやテレーゼにとっては弟のようなもの。儂にとっても孫みたいなものじゃ。本物の可愛い孫は目の前におるが、それでも可愛いものは可愛い」
「ふ、ふんっ」
カトレアが祖父の正面からの言葉に、照れくさくなってそっぽを向く。
「ルイン坊はしっかりしておるが、それでもまだ子供じゃ。どうかお主が見てあげておくれ」
「ふふっ、わかってるわよ」
ガルフの部屋は、終始暖かい雰囲気で満ちていた。
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ーゴルドフ鍛冶屋ー
「こら! エルル! しっかり打たんかい!」
「おー!」
ガッツンガッツンと、大きな音をたてて鍛治に打ち込む親子がいた。
「どうだー親父! こんなもんかー?」
「どれ、貸してみろ。……うむ、いいだろう」
「疲れたぞー! そろそろ休憩かー?」
親子揃って、長時間この作業場に籠っているので汗だくだ。水浴びがしたいエルルは休憩を急かす、が。
「甘えたことを抜かすな! せめて後1本打ってからだ。ほれ、位置につかんか!」
ゴルドフは許さない。しかし、エルルがここで反旗を翻す。
「疲れたぞ! これはお母ちゃんに、『親父に休みなしで1日中働かされた!』って言わなきゃいけない!」
「ちょっ!」
「この前、もうすぐ帰ってくるって手紙が届いたから、すぐに言わなきゃいけない!」
「ええい! なにをしとるか! エルル、休憩だ休憩! ボサボサするな!」
「おー!」
ゴルドフ鍛冶屋は、終始暑苦しい雰囲気で満ちていた。
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ーヴォルクスの街 領主館・セレナの部屋ー
「グレース! ルイン様がCランク昇級試験に受かったって!」
「良かったですね。お嬢様」
まるで自分の事のように喜ぶセレナを、グレースが微笑ましく見つめた。
「これでルイン様に、指名依頼を出すことができるわね」
そう。指名依頼はCランク以上の冒険者にのみ出すことができる。これは依頼達成率の関係もあるが、低ランク冒険者への指名依頼は大抵の場合トラブルの元になるからである。
「えぇ。何か困った時や護衛が必要な際にと、ご当主様からも許可が出ております」
「ふふっ、そうね。でもむやみに乱用するのはルイン様のご迷惑になるし、本当に必要な時まで楽しみに取っておきましょうか」
「賢明なご判断です、お嬢様」
主従の穏やかな時間が流れる。
「でも、やっぱり早く会いたいわ」
「再会の時は、そう遠くないと思いますよ」
「その時が楽しみね、グレース」
「はい」
少女は待ち焦がれる。彼女の英雄との再会を。
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ー宿屋『渡り鳥の止まり木』 ソフィの部屋ー
「スゥ……スゥ……ん、ルイン君……」
今日も頑張って働いてクタクタのソフィは、ベッドに横になるなり眠りに落ちた。枕の側には、ルインからの贈り物である青い花の髪飾りが。
ドアの隙間から、ソフィの母ターシャが娘の就寝を軽く確かめる。
「よっぽど大事にしてるんだねぇ。良かったねソフィ」
ターシャは娘を起こさないようにゆっくりとドアを閉め、上機嫌に自分の部屋へ戻っていった。
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第3章はここまでとなります。
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では引き続き、第4章『"炎"との邂逅』をお楽しみください。




