第129話 家を求めて 〜ダグラム伯爵家編〜
パーティー拠点購入へ向けて、まずは将来の義父にご相談です。
「家が欲しいって?」
「はい。叙爵も無事に終わりましたし、良い機会かと思いまして」
カグラのレベリングはゆっくりやっていくことにしたので、家の件に着手することにする。
ということで、本日はヴォルクスの領主館にお邪魔しているルインです。
ただいま応接室にてガーランド伯爵とお話中、家購入についての相談を始めたところだ。カグラはいつも通り頭の上で寝ている。
この場には伯爵親子とステイルザードさん、俺の4人。
いきなりフラッと来たのに、あれよあれよと言う間にこの状況が出来上がってしまった。すでにここでも『若』と呼ばれているのでね。まぁ、つまりそういう事なのだろう。言わせんな恥ずかしい。
……え、グレース? ステイルザードさんがいる時点でお察しである。逃げたよ。
話を戻そう。
伯爵が真顔のまま、口を開いた。
「それはつまり……『もう婚約も発表したことだし、さっさとセレナと同棲させろ』と、そう言いたい訳だね?」
「まぁ! ルイン様ったら。嬉しいですけど、婚姻はまだですし、心の準備が……」
くっ、しもうた! 完全に忘れてた!
この親子と会話する時は、細心の注意を払わないとあっという間に話の趣旨が俺の手の届かない場所へとスローイングされてしまうんだった! 俺よ、バニラ(バトルメイド)の件をもう忘れたのかっ。
「違いますって! いちいち冒険者ギルドに集合するのが手間なので、パーティーで住める家が欲しいんですって」
渾身の言い訳を試みる。こっちは早く家についての話が聞きたいのに。話を……話を先に進ませてください。
「それはセレナの事など全く考えていなかったと言いたいのかね?」
「それ、どう答えても絶対チクチク刺してくるやつじゃないですか! しれっと会話にトラップ仕掛けるのやめてくださいって!」
その罠はローグじゃなくても見破れるわ。
と、ここでセレナがイタズラっぽい笑みを浮かべてテヘペロした。
「ふふっ。ごめんなさい、ルイン様。意地悪してしまいました」
「話がややこしくなっちゃうから、ほどほどにしてね……」
「はいっ! ふふっ」
どうやらセレナはちょっとしたお茶目だったらしい。父親の方はガチだった気がするが。
「コホン! 坊っちゃま。いい加減、若のご相談に乗られてはいかがか?」
「む……」
ステイルザードさんもいよいよ見かねたのか、重い腰を上げて伯爵を促してくれる。だけど、もう少し早く介入してくれてもええんやで?
「空いてる物件か……確かあったはずだ。ステイル」
仕切り直した伯爵が改めて口を開く……最初からそのムーブが欲しかったよ。
「この近場ですと、1軒空き家がございますな。ただ……」
「ほとんど廃墟になってたはずだね。人間が住める状態ではない」
言い淀むステイルザードさんの言葉を伯爵が引き継いだ。そのままさらに続ける。
「土地の広さは充分だと思うから、一度更地にして建て直したほうが良いだろうね」
「ですな。まずは諸々の手続きをしませんと」
それはそう。問題は……。
「商業ギルドに行けばいいんですかね? お金足りるかなぁ」
足りなければ、銀行から下ろしてこなければならない。具体的に言うとダンジョン20階層のリーパー道場兼、リーパー銀行で。
…………ドロップの魔石何個分で費用を賄えるかなぁ。足繁く通わなきゃいけないかもしれない。
パチンコ屋を銀行と喩えて通っている人たちは、もしかしたらこんな心境なのかもしれない。あっちは大体預けるだけで、引き出せずに終わるけど。
「いや、あそこはリーン教会の管轄じゃなかったかな」
「えぇ……」
不動産まで手を出してたかぁ。マジで教会無双だな。ここまで金と影響力を持ってて、腐ってない宗教組織とか初めて聞いたかもしれない。
俺が知らないところで、過去に先輩が風通しを良くしたという可能性もあるけど。
「じゃあ、この後…………あれ、どこに行けばいいんだ? エカテリーナさんの所じゃないですよね」
というか、なんであの教会はあんなに貧乏だったんだよ。結構ギリギリの生活してなかったか?
…………と思ったので、あとで先輩に聞いたところによると、「すまねぇ。アレは普通にこっちの不手際だ」とのこと。聖女の来訪と共に多額の資金が投入されたのは、その埋め合わせの意味もあったらしい。
ミスを金で誤魔化すとは……。汚いなさすが教皇きたない。
「そこでいいと思うよ。聖女セシリアに言えば万事解決するんじゃないかな。ほら、彼女の周りにはいろんな人材が集まっているからね」
「すごい説得力ですね」
セシリアが手を『パンパンッ』てすれば、不動産担当者も普通にニョキッと生えてきそうだ。
「じゃあ早速これから行ってみますね」
「私も行きます! ルイン様と一緒にエカテ姉様にご報告したいです」
このあとちょっくら寄ってみっか! と息巻く俺に、セレナが同行を申し出てきた。俺はいいけど、保護者のジャッジやいかに。
「ダ──」
「坊っちゃま。まさかとは思いますが、私情のみで『ダメだ』などと仰られるおつもりではありますまいな」
「──グラム家の誇りにかけて許可する。気をつけて行っておいで」
「お父様っ! ありがとうございます!」
すごい軌道修正力だ。さすがに伯爵は格が違った。
めでたくセレナの同行が決定したところで、彼女の護衛騎士の姿がないことを思い出した。「さて、どうすべ」とステイルザードさんに目配せすると、彼はひとつ頷き大きく息を吸い込んだ。
そして……。
「グレースッ!! セレナお嬢様と若がお出かけなさる! 貴様は護衛であろうが! いつまで油を売っておるか!」
大声に驚いて、頭の上で寝ていたカグラがビクッとした。よしよしと宥めていると、遠くからなにやら足音が。
──タタタタッ……コンコンコン、ガチャ!
「セレナ様の護衛騎士グレース。ずっと扉の前にて待機しておりました! お呼びでしょうか?」
おっと、すんごい嘘つき始めたぞ。
このポンコツ女騎士を見るステイルザードさんが、殺意の波動に目覚めた龍になっている。このヤバい目にも彼女が気付いた様子はない。オイオイオイ、死ぬわアイツ。
「……お二人をしっかりと護衛せよ」
「ハッ!」
騙せたとでも思ったのか、キリッとした顔で答える。インセク◯ー羽蛾くらい勘違いしてるグレースは、きっと帰ったらバーサーカーソウルされるのだろう。
ま、いっか(他人事)!
「それじゃ行こうか」
「はい!」
「うむ」
『ピュイ!』
今回の訪問において、ダグラム伯爵家ではステイルザードさんこそが最強なのだと再認識した俺であった。
次回はリーン教会にお邪魔します。
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