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八岐大蛇伝説

 着替え終えた後、自室でメアちゃんとイザベラちゃんに、八岐大蛇伝説のあらすじを話した。


 天照大神(あまてらすおおみかみ)の弟、素戔嗚命(すさのおのみこと)高天原(神々の世界)を追われて地上に降臨し、櫛名田比売命(くしなだひめのみこと)とその一家と出会う。

 八岐大蛇という巨大な多頭の蛇に姉妹を生贄として奪われ、ついに櫛名田比売命も差し出さなければならないことに嘆き悲しむ一家の話を聞いた素戔嗚命が、知恵と勇気で八岐大蛇を倒す。

 そして、その尾から出てきた天叢雲剣あめのむらくものつるぎを手に入れて、櫛名田比売命と結ばれる。


 そんな神話の英雄譚を聞き終えて、年少組二人が息をついた。


「そのような多頭の蛇など……いえ、この世界には実在したのですわね」

「世界観によったら、デッカイドラゴンだったり、合体巨大ロボってこともありえるかんね……」


 まぁ、この世界の八岐大蛇は、木ノ葉ちゃんや酒吞さんたちの仲間、つまりロボットだけど……。


「後であーしも見に行ってみっかな。大蛇塚」

「では、私も見に行きますわ」

「やめておいた方がいい」


 そう言いながら部屋に入ってきたのは、茨木さんだった。


「様子を見に来てみれば、案の定だな。葵と時子はいざ知らず、イザベラは辞めておくんだ。アレは、人の欲望を糧にする」

「どういうことですの?」

「言葉の通りだ。奴は近づく人間の思考を読み取り、甘言で惑わせ、自分たちの復活の駒にする」

「何ですって?」


 戦慄するイザベラちゃんの手を握ってあげると、すぐに落ち着きを取り戻した。


「葵っちとロメっちは、なんかヤバそうな声って聞いた?」

「ううん」

「聞いてない」


 私とメアちゃんが首を横に振ると、茨木さんが補足してきた。


「酒吞様が抑えてくださっていたのと、お前たちを覆っているという結界のおかげだろう」


 そっか。あの時、酒吞さんが大蛇からの干渉を止めてくれてたんだ。

 バリアがあるとはいえ、それで完全に防げるかどうか、わからないから。


「あの辺りは、酒吞様と私で人避けの術を使っている。訪れることができるのは、酒吞様と私以外であれば、酒吞様と同じ大妖機や、木ノ葉たち妖機だけだろう」


 なるほど、人気がまったくなかったのは、村外れってこと以外にも、そういう理由があったんだ。

 でも、大蛇の意識はないっていってたような。


「あの、封印中の大蛇って、意識はないって聞いてるんですけど」

「そうだ。しかし、奴らは呪術を用いて、眠りの向こうから語りかけてくる。

 確か、烏がいうには、九頭龍……? とかいう邪神たちが語りかけてくるようなものらしい」

「コズミックホラーかよ」


 時子ちゃんが苦笑するけど、イメージとしては何となくわかった。

 夢の向こうから、何かよくわかんないけど語りかけてくるとか、操ろうとしてくるってことだ。


 ただ、異世界に飛ばされまくって、夢の世界に招かれたり、夢を通して過去に行ったり、神様たちと関わって、戦ってきたから、全然笑えない例えだけど。


「茨っちは、聞いたことあるん?」

「ああ」


 茨木さんは目を少し伏せて、手をぎゅっと握りしめた。


「あれほど恐ろしい相手は……いない……」


 絞り出すような声で茨木さんがそう零した。

 その手が、小さく震えてる。


「酒吞様が一緒に居てくださったから、助かった。私一人だけであれば、どうなっていたことか……」

「もしかして、それで大蛇の能力がわかった感じ?」

「その通りだ。おかげで、私以外で奴の脅威にさらされた者は誰もいない」


 ふうと息を吐く茨木さんに、ヒーリング・フィールドをかけた。

 手の震えが収まった茨木さんが、「すまない」と言って、微笑んだ。


「ごめん、茨っち。嫌なこと思い出させちゃって」

「いや、これは話しておかなければならないことだ。酒吞様が話してもいいが、それを直接聞いた私が語ることで、お前たちに奴の脅威を教えられるのであれば、安いものだ」

「茨っち」


 時子ちゃんが茨木さんに近づいて、その手を握った。


「話してくれて、サンキュー。でも、あんまりそういうの、よくないからさ。安いものだなんて、言うなって」

「……お前でも、そんな顔をするんだな。だが……心遣いは、感謝する」

「茨っち……」

「……茨っち言うな」


 茨木さんが苦笑して、そっと時子ちゃんの手を握り返した。

次回は明日、18時予約投稿です。

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