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ちょっと意外で、かわいい

『よし、そっちに次の弾を用意してるから拾って込めろぉ……で、まあ何だ。アイツ、お前が戦いの頭文字すら知らないような奴だってすぐにわかったから、巨人になれたからって、無理やり出したくはなかったんだと』

「でも、それじゃあ」

『ああ。俺様の読みじゃあ、俺様たちだけでアイツらに勝つのは難しいだろうな。犠牲も馬鹿みたいに出るだろうなっと……よし、今度は腰だめにして撃て。こうやって構えるんだ……それで、お前さんの力を借りようって腹くくったみてぇだ……よし、撃て』


 次の弾も的のど真ん中に命中して、土山の穴を大きく広げた。


『嫌なら、逃げられるぞ』

「え?」

『お前なら逃げられる。大陸のどこへだって行ける。そしたらお前を追いかけてくる連中もいるだろうが、お前を止められる奴はいない。世界中を敵に回したって、誰もお前に勝てない。シャンティーノみてぇな光の魔法はねぇみたいだが、それにしたって強すぎる。きっと本気で殴れば、どの国の王城の防御魔法もクッキーみてぇに砕けるだろうな』


 何を言ってるのかわからない。

 もしかしたらワズラナさん、私を励まそうとしてくれてるのかな。


『お前は、そんな力を持っているってことだ。大陸最強、各国の騎士たちも震え上がり、泣く子も黙るワズラナ傭兵団の団長である俺が言うんだ。間違いねぇ。よし、次の弾を込めな』

「は、はぁ……」


 確かにUFOたちの攻撃をいくら受けても無傷だったみたいだし。UFOは殴ったら一撃で粉々にできちゃったし、滅茶苦茶高くジャンプできるし。


 あれ、バレッタって、スーパーロボットなの?


『けど、お前、俺様に言われるまで逃げようなんて思ってなかっただろ。一昨日も、ガキ一人逃がすために下手な啖呵を切って一人飛び出して敵どもを引き連れて走った。巨人になって、さらに町のことを考えて戦ってよ。挙げ句、お前、またアイツらが現れたら、戦うつもりでいるだろ』


 言われて、思わず引き金を引いてしまった。飛んでいった弾は、また的の真ん中へと当たって、遠くからでもちょっとわかるくらいに穴の大きさを広げた。


「だって……フー兄が守った世界で、皆、楽しそうに暮らしてるのに……嫌じゃないですか、見知ってる人が泣いてるの見るの」


 あの時の女の子の泣きそうな顔と、次に見たあの子の輝く笑顔を思い出した。


『見たくねぇもん見ることになるかもしれねぇぞ』

「それは……」

『まあ、その時はその時か……よし、この辺りでいいか。このまま手入れの方法について教えるぜ』


 ワズラナさんの指示に従って、バレッタサイズの道具を使って、マスケットの手入れを行っていく。

 一通り作業が終わると、指定された場所にマスケットを置いて、元の姿に戻るように言われた。


 ワズラナさんがちゃんと肩から降りたことを確認してから、バレッタを影に入れながら着地すると、団長さんから着いて来るように言われ、何故か演習場の射撃場へと連れてこられた。


「使え」


 目の前に、普通サイズのマスケットが突き出された。

 押し付けようとしてくるのは、ワズラナさんで、その目が普段よりもずっと冷たいように感じた。でも、悪い感じは一切しないから、かなり戸惑ってしまった。


「え、でも、私、騎士じゃないし」

「でけぇ騎士になって使ってて今更じゃねぇか。団長からも許可は取ってある」


 団長さんを見たら、頷き返された。

 マスケットを受け取り、言われるがまま、構える。


 どうしよう、私、生身で撃ったことなんてないよ。お祭りの射的とかそれくらいだよ?

 バレッタに乗って、ワズラナさんに指導されたおかげで構えられるようになっただけで、命中とかさせられるかどうかなんてわからない。

 外したりしたら、バレッタの姿の時は不思議な力が働いてるんですーって言おうかな。


 そんなことを考えながら、狙いを付けてみて、撃ってみる。

 反動は思ったよりなかった。

 それより、結果はどうだろう。

 こっちに来て、視力は少し良くなった気がしたんだけどなぁ……日本だと視力Cくらいだったし。


「おい」


 ワズラナさんの低い声がかかって、飛び上がりそうになった。

 振り返ったら、ワズラナさんは腕を組んで的の方を見ている。


「お前、マスケットを使ったのは、この前が初めてか?」

「は、い。そうです」

「それまでは一度も使ったことがなかったのか?」

「は、はい」


 どうしよう。じゃあなんでバレッタの姿の時はちゃんと当てられるんだよってこと?


「あの……私」

「団長」


 言い訳しようと口を開いたけど、ワズラナさんの言葉で掻き消された。

 団長さんに振り返ったら、何か表情が険しいし、やっぱり怪しまれたのかな。


 というか、傭団員の人や、周りの騎士たちの様子もおかしい。目を丸くしたり、口を大きく開いたりしてる。きっと私が下手過ぎて驚いてるに違いない。

 謎の緊張感に苛まれる中、耳に届いたのは、予想外の言葉だった。


「こいつ、天才だぞ」

「あぁ、間違いない」

「……………………ぇ?」


 てんさい?


「……魔法を使った形跡はねぇ。いや、魔法、使えなかったんだったか」

「それであれか……」


 よくわかんないけど、静かに、真剣に、だけど何か盛り上がってるワズラナさんと団長さん。

 会話の空気から、恐らく怒ってはいないと思うんだけど、なんだろ。怖いんだけど。




 その後、あれよあれよと言う間に会議室へと移動となり、団長さん、ワズラナさんによるプチ会議が始まった。


「ワズラナ、改めて聞く。彼女はどのくらいのレベルだと思う?」

「俺が知ってるだけでも、上から数えた方が早ぇ……いや、普通にトップクラスだ。マスケット自体の扱い方は素人だが、今の状態でもシャデュとか銃聖クラスだぞ……鍛えたらどんな風に化けるかわからねぇ」


 えぇと、褒められてるのかダメ出しされてるのかわからない。

 とりあえず、褒められてる方に重心が寄ってる、ってことでいいのかな。


 その時、二人がぐりんっと音がしそうな勢いで私を見てきた。


「アオイ、明日からマスケットの訓練すっぞ」

「え?」

「いや、彼女は我々の方で鍛えよう。お前は開拓地の警備があるだろう」

「空いてる時間にやるさ。なぁに、俺様直々に鍛え上げて、いっぱしのマスケット使いにしてやる」

「へ?」


 その後、町の人達の護衛の指揮から帰ってきた副団長さんが止めるまで、団長さんとワズラナさんの、私を巡る口論は続いた。

 最終的に副団長さんが怒って、私が望まないのに勝手に決めつけないと言って、私を会議室から連れ出してくれた。


 普段やんわりとした副団長さんの怒った顔と声は初めて見たし、何なら団長さんとワズラナさんが驚いた顔をして静かになっていた。


 優しい人の怒りは怖い。


 私も副団長さんを怒らせないようにしようと誓った。


「ごめんなさいね。団長があそこまで熱くなるなんて早々ないんだけれど」

「いえ、大丈夫です。でも、ちょっと意外でした。いつも落ち着かれていて、理想的な大人って感じでしたので」

「ふふ、普段はそうね。でも私生活だと、意外と普通なのよ?」

「へぇ……」


 団長さんの意外な一面や、中の良い人しか知らない部分を知って、ちょっと新鮮な気分だった。


「でも、ミクニさんも凄いわね。団長とワズラナが取り合うなんて」

「バレッタ用のマスケットの演習をしてて、その後、人間サイズのマスケットを撃てって言われて撃ったら、ああなりました」


 あの様子からしたら、真ん中に当たったってところかな。

 でも、誰かが撃ってるところは見たことないし、見たからって、的に当てられるほど器用じゃない。

 もしかしたら、バレッタで円盤を撃ちまくったことで、鍛えられた、のかな。それとも、言語を理解する力とかみたいに、何かしらサポート的なもののおかげでできてたりするのかも。


 自室に戻ってバレッタに聞いてみたら、


『いや、我に乗って撃ったからといって、あそこまで上達はせんし、そういった力があるかどうかも我にはわからん』


 と言われてしまった。

 謎だけど、ひとまず、護身用に使える力っぽいものが宿ってよかったー。でも実際に撃ちたくないし、訓練もパスなので。




 そう思っていたのに、翌日、朝会のために食堂に入ったら、針の(むしろ)かってくらい視線を浴びまくった。


 いつも通り迎えに来てくれたイザさんが普通だったから、何もないと思ったのに……。


 空いてる席に座ったら、メニマがやってきて、


「アオイ、聞いたぞ? 団長とワズラナから熱烈な求愛の言葉を受けたそうじゃな!」

「はぁん?!」


 どこがどうなったらそんな話になるのさ?! 尾ひれどころか背びれと胸びれもついて魚になって勝手に泳ぎだしたじゃん!!


「受けてないよ!」

「いい反応するのぅ。冗談じゃよ。射撃場での話と聞いておる」

「こいつ……」


 いっぺんほっぺ引っ張ってやろうか……。


「じゃが、二人から熱烈な勧誘を受けたことは事実じゃろ?」

「何でそこまで知ってるの……射撃場でそこまで話は出てなかったはずだけど」

「昨日、ワズラナがここで料理長相手に愚痴ってたのよ」


 疑問に答えたのは、やってきたアイナで、向かいの席に座った。


「アオイのこと、すっごい褒めながら、俺様が育てたいんだって、お酒の入ったジョッキ片手に熱く語っていたわ」

「何やってんのあの人」


 おかげで、会議室での一件が広まったという訳か……ワズラナさん、余計なことを……!


 その後、普通に朝会が始まり、特に何事もなく終わった。

 でも終わった途端、団長さんから手招きされ、それぞれの用事へ向かう騎士たちに見られながら、団長さんへと近づいていった。


「昨日はその、すまなかった」

「いえ、大丈夫です。ですが、その……」

「それについては、またいずれ話そう。少なくとも、もう無理には誘わん」


 こうして話していると、騎士団の一番偉い人で、騎士なんだけど、本当は一回りくらい年上の物静かなお姉さんなんだなぁって思う。


 何というか、ちょっと意外で、かわいいなんて思った。


 なお、昼ご飯の時に、食堂に戻ってきたメニマから、


「の、のぅ、アオイ? 本当に団長とは何もないのじゃよな? 深い関係ではないんじゃよな? 詳しく聞かせて欲しいんじゃけど」


 とか食い気味に聞かれたので、今朝の話がまた変な方向にひれがフルセットされて魚になったかとげんなりしながら誤解を解いたのだった。


「イザさん、この砦って、恋バナ……恋愛話って、皆、飢えてるの?」

「そこそこかと」

次回は明日、18時予約投稿です。

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