大いなる鉄の虫
昼食後、私はイザさんと一緒に町へ出掛けた。
団長さんから許可はもらっているので、大手を振って出かけることができる。
もちろん、制服の首元には騎士団公認のスカーフを着けている。
さて、早速町に着いたので、紙芝居屋さんやいつもの女の子と再会できたらと思いながら大広場へ向かう途中、たくさんの視線を浴びたり、手を振られたり、挨拶をされたりした。
「変装してきたらよかったかも」
「検討してみましょうか」
そんな話をしながらついに大広場に着いたら、紙芝居屋さんが準備をし始めているところだった。噴水の縁に、あの女の子も座って、足を揺らしている。
「こんにちは」
「む、貴様か」
「お姉ちゃん!」
女の子がとててと近寄ってきた。
「お姉ちゃん、今日は来られたんだ」
「うん。皆の様子も気になったし」
女の子と両手タッチしてから紙芝居屋さんを見る。
いつも通り、頭から黒色のマントをすっぽりと被っていて、顔は全く見えない。でもしっかりと視線が向けられていることは、わかる。
「騎士団の方で忙しくしていたんじゃないのか?」
開口一番、いつものように憎まれ口を叩いてくる。
でも、私たちを助けるために、魔法を使って、時間稼ぎをしてくれた、優しい人だ。
「暇人じゃなかったでしょ?」
「そのようだな。で、今日はまたどうして来たんだ?」
「皆の様子が気になったので、来ました」
「ご苦労なことだ」
「仕事じゃないですよ?」
「……暇人か、貴様は」
いつものように私を暇人扱いして、紙芝居屋さんはいつものように、準備を進めていく。
私たちも噴水に腰掛けて待っていると、子どもたちが集まり始めた。
私の姿を見て、騎士様だと騒ぎ出したけど、私が自分の口元に指を立てて静かにと合図すると、皆も自分の口を手で抑えておとなしく紙芝居の開始を待った。
それからすぐに紙芝居が始まった。
聞いたこともない、遠い異国の、魔法使いとお姫様の恋物語を、紙芝居屋さんが情緒たっぷりに演じてくれる。
楽しい昼下がりの時間が、戻ってきたと、その時に実感できたのだった。
でも、紙芝居が終わると、子どもたちが詰め寄ってくることが目に見えていたので、
「じゃあ、お仕事に戻るからまたねー!」
と適当に理由をつけて逃げ出した。
その際に、紙芝居屋さんに軽く手を振った。
そうしたら、いつも無反応だったのに、小さくだけど、手を振り返してくれたのが見えた。
砦に帰って自室に戻ってベッドの上に寝転んで、鼻歌を歌いだすくらいに上機嫌になれた。
イザさんが用意してくれるお茶の香りが、さらに幸せにしてくれる。
「楽しそうですね」
「そりゃそうだよぅ! だって、手を振り返してくれたんだから」
「まさか、紙芝居の方が?」
「そうだよぉ。小っちゃくだったけど」
明日も時間があれば聞きたいな
「そろそろ名前、教えてくれないかな?」
「お教えしましょうか?」
「イザさん知ってるの?!」
「住民票に記載されていますから。三ヶ月程前に来た方で、アオイさんと会う前があの状態だったので、知っている人は知っています」
「あー」
ワズラナさんも知ってたみたいだし。
あの時は悪名が広まっていたのかもしれないけど、今はもう大丈夫。
「あ、ちょっと待って! 明日! 明日、本人に聞いてみるから」
「わかりました」
よーし、明日、聞いてみよう!
これまで何回か聞いてみて教えてもらえなかったけど、今なら行ける気がする!
翌日、午前中にワズラナさんが砦にやってきて、私とイザさんは後ろ首根っこを掴まれた。
「よーしお前ら、楽しい訓練の時間だ!」
「何をしているの、ワズラナ」
そして、副団長さんに見つかって、速攻で私たちは自由の身となった。
「まだ諦めてなかったんだね……ごめんねイザさん、巻き込んじゃって」
「いえ。ですが何故私まで?」
「お前も筋がいいからな。俺の言う通りに鍛えれば今よりもずっと高みへ登れるぜ」
「ワズラナ、貴女とは一度しっかりと話し合わないといけないようね」
ワズラナさんは、副団長さんによって連行されていった。
「ねえ、本当にあの人、昔はブイブイ……えと、皆を困らせてた傭兵だったの?」
「正真正銘、大陸全土で暴れまわっていた傭兵団の長です。普段はあんな感じですが」
何というか、ちょっと強引だけど、姉御肌な人だ。
過去のことは知らないけど、私が知っているワズラナさんを、私は好きだ。
午後になってから、また町へ向かい、いつものように女の子に挨拶をして、紙芝居屋さんに声をかけた。
「こんにちは」
「また来たか。今日も暇を持て余して来たのか」
「貴方の紙芝居を聞くために来たんです」
「暇人だな」
いつものように言い合って、
「ねえ、名前を教えていただけませんか?」
「暇人の極みか。そこの騎士に聞けばいいだろう」
「私は貴方から聞きたいんです」
「勝手な奴だな」
「えへへ」
「褒めておらん」
残念、今日も教えてもらえなかったか。
仕方がない。準備の邪魔をこれ以上したくない。
踵を返そうとしたら、
「ノイ・ドラクル」
そんな声が聞こえてきて振り返ると、紙芝居屋さんが、私を見ていた。
「二度は言わん。聞き逃したのであれば、今度こそ騎士にでも聞け」
そう言って、紙芝居の準備に戻った。
「……ありがと、ノイさん」
名前を呼んでから、いつもの噴水の席へと向かった。
「イザさん、名前、聞けたよ」
「よかったですね」
「うんっ」
「お姉ちゃん、嬉しそう」
紙芝居が終わった後、私は例の如くイザさんと一緒にその場から颯爽と立ち去って、町の入口で息を整えていた。
「よし、明日からは変装して行こう!」
「私と一緒にいては、すぐにバレると思いますが」
「ぐぅ」
ひとまず、今日は帰宅。
門番さんたちにいつものように挨拶して町を出ようとした時、激しい鐘の音が鳴った。
それを聞いた途端に、イザさんが身体強化魔法を使って城壁の上へと飛び上がっていった。
そして数秒後、すぐ近くに降りてきた。
「この前の空飛ぶ鉄です。南西の方角から、六つ。さらに一回り程大きなものが一つ確認できました。まだ町には入っていません」
「わかった。行ってくる!」
「ご武運を!」
私はイザさんの声を背中に受けながら、バレッタを呼び出した。
視点が高くなったことで、ずっと向こうの空に浮かぶ七つの影を確認できた。拡大すると、この前のUFOが六つ、さらに角張った外見の大きな宇宙船が、町へ近づいてきている。
このままだと、すぐに町へ到着されてしまう。
町の外周を大きく回りながら、UFOたちへ向けて走り出す。
「バレッタ、マスケット!」
『承知!』
バレッタに呼びかけると、モニターの外で、巨大なマスケットがバレッタの両手に収まるように出現した。
バレッタの力で、マスケットも私の影に入れてくれていて、それを呼び出した形だ。
さらに、予備の弾も同じように影に入れていて、そこから直接マスケットに装填できるらしいので連射することができる。
昨日、バレッタにマスケットも影に入れようと言われて、入れておいてよかった。許可してくれた団長さんたちにも改めて心の中で感謝する。
『残り三十秒で奴らは町へと到着する! 敵の別働隊が現れる可能性もある。町からあまり離れずに迎撃する!』
「わかった!」
UFOたちの進路上、南西の城壁の前で急ブレーキをかけながら、マスケットを構えて撃つ。
一機、また一機と撃墜すると、UFOたちが散開してしまった。
「あっこらっ」
『慌てるな、武装を一つリリースしてある。思考するか、声に出して使え! 細かいロックは我がする!』
空中に小さなモニターが現れ、新しい武装の名前と特徴を教えてくれた。
『オールレンジレーザー!!』
私の叫びに応じて、バレッタの両肩からオレンジ色の光線がいくつも飛び出して、散開してしまったUFOたちを撃ち抜いて爆散させた。
さらに宇宙船にも当たり、宇宙船は爆発しながら地上へと落下していった。
確か、あっち側って、誰もいない場所だし、岩だらけの荒野だったから、大丈夫だよね?
『あの船が落ちていく場所に生体反応はない』
「よかった」
『むっ! 注意せよ! 空間跳躍してくるぞ!』
バレッタが警告してきた直後、私たちから数百メートル離れた場所に、何の前触れもなく、大きな影が現れた。
拡大した映像に映ったのは、角張ったデザインの、ゴツい鎧を纏った騎士にも見える、人型ロボットだった。
『異星人の機動兵器だ。数ヶ月前、マルト砦を襲撃したものと同型だ』
大いなる鉄の虫。
私がこの世界に来る前、マルト砦を襲った鋼鉄の巨人たちの名前。
確か、隠し腕があって、その姿が虫みたいだから、大いなる鉄の虫って呼ばれてるらしい。
ベル様の言いつけで、倒した残骸は研究とかできないように、厳重に封印されてるとかって聞いた。
「誰か乗ってるの?」
『無人機だ。気を付けろ。奴も熱光線による遠距離武装を持っている。町に当たれば尋常ではない被害が出るぞ!』
「ってヤバいじゃん!」
私は町から大きく離れるように移動しながら、ロボットに向けてマスケットを撃った。
発射された弾はロボットを揺らがせはしたものの、貫通させることができなかった。
でも、バレッタを敵として認定してくれたらしく、ロボットがこちらに顔を向けて、移動してくる。
「こっちだよ!」
もう一度撃って挑発しながら、荒野のど真ん中へと移動したところで、マスケットを影の中へとしまう。
ロボットはすでにバレッタと百メートル程の距離まで近づいてきていて、そして、その目が光った直後、モニターが白く染まった。
「わっ?!」
『熱光線だ。問題ない』
バレッタの言う通り、私たちは無事だけど、周囲の地面が溶岩地帯と化していた。
UFOたちの光線よりも強い。こんなもの、町に向けさせる訳にはいかない!
「もう! 危ないじゃん!」
オールレンジレーザーで反撃すると、ロボットは幾つもの光線に貫かれて、爆散した。
「よし、これで終わりっ!」
『いやまだだ! 急いで町へ戻れ!!』
町へ振り返ると、空に、UFOたちが次々と出現し始めた。
さっきのUFOやロボットを囮にして、私たちを町から引き離したの?!
オールレンジレーザーで攻撃しようにも、数が多すぎるし、まだ避難し終えていない人たちが大勢いる。
駆け出しながら、マスケットをもう一度呼び出す。
「町の人たちに被害を出さない方法ってない?!」
『今の我では難しいな。それに、迷っている時間はない。奴らの数を減らし、被害を抑えることしか……!』
「そんな!」
その時、UFOたちの下側が光り始めた。
「やめろぉ!」
マスケットとオールレンジレーザーを撃とうとした時、町の上に、蓋を被せるようにして、大きな輝くドームが出現し、UFOたちの攻撃を防いだ。
あれは、ノイさんの魔法のバリアだ。
理解してすぐ、私はマスケットとレーザーを撃ちまくり、UFOたちを残らず撃ち落とした。
残骸は魔法のバリアに弾かれ、町の外へと跳ねながら落ちていった。
『敵増援なし。町の住民、及び建築物に被害なし』
「助かったぁ……」
心の底からホッとして、コックピットシートにもたれかかった。
ノイさんがバリアを張ってくれなかったら、どうなっていたことか。
「ねえ、バレッタのバリアで同じことできない?」
『今の我のバリアでは、半径百メートルを防ぐことしかできない』
「そうかぁ……」
ままならないなぁ。
思いながら、街へ戻ると、南門の門番さんや町の人たち、それから城壁を伝って走ってきたらしいイザさんが出迎えてくれた。
「皆、怪我はない?」
『ええ。しかし、あの魔法障壁は一体……?』
「後で説明するよ。私はもうちょっと様子を見てから砦に戻るね」
『わかりました』
それから一時間くらい待ってみたけど、もうUFOたちは現れなかった。
迎えに来てくれたメニマと一緒に砦へ帰還し、団長さんに報告すると、労いの言葉をもらった。その後、ロボットについて詳しく聞きたいと言われたので、私とイザさんで、それぞれの視点から見たロボットの詳細を伝える。
「貴殿やイザの言う通り、大いなる鉄の虫で間違いなさそうだが、戦ってみて、何か感じることはあったか?」
「いえ。特には」
「そうか」
団長さんは手を組んで思案し始めた。
「わかった。また明日、現地での回収作業を頼むことになる。今日はゆっくり休むと良い」
「はい、失礼します」
団長室を出たら、イザさんがドアの近くで待っていたので、一緒に食堂へ向かった。
「あの魔法のバリアはさ、ノイさんのだよ」
「え?」
「あの優しい光、見覚えがあったんだ」
「町一つを覆うような魔法障壁を、たった一人で構成したと……?」
「そうじゃないかな? でも、すっごい力を持った魔法使いなんでしょ?」
きっと、実は元々別の国にいた超有名な魔法使いとか、伝説の魔法使いの末裔だったりするに違いない。
でも、ワクワクする私とは対象的に、イザさんは深刻な表情で、首を横に振った。
「いくらなんでも、たった一人で町一つを覆うような魔法障壁を張れる人物はいません。それこそ、伝説の魔法使いか……神々やシャンティーノでもない限り」
「じゃあ、伝説の魔法使い……の末裔じゃない?」
「お伽噺ですよ。いえ、そう片付けてしまうのは……しかし……」
何かイザさんが葛藤してるけど、解決方法ならある。
「明日、本人に聞いてみる?」
「はぐらかされますよ」
「でも、ここで悩んでても仕方ないじゃん」
もしかしたら、触れられたくない過去だったりするのかもしれない。
でも、二度も助けてくれて、今日なんてイザさんが超驚くような魔法を見せてくれた。
「話してくれた御の字ってことで」
「……わかりました。ですが、明日は残骸の回収作業があるのでは?」
「うぐっ、じゃあ、終わったら行く……いや、速攻で終わらせて行く!」
次回は明日、朝8時予約投稿です。




