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152 あっぽろけ

挿絵(By みてみん)

「まあ、小屋はこんくらいの大きさでよかろうね! あと、中ば作るけん、ちょっと待っとってぇ~。あ、おこたも作らなね! あ、ミルカちゃんもポッコちゃんも泥だらけやけん、水やりの木でシャワーも作ろ。蓮ちゃん、『水やりの木の種』持って来とったよね!」


「あ、ああ。荷物の中にあるけど――」


「よっしゃ! あ……シャワーより湯舟がよかね。ヴィヴィちゃん! 鍋でお湯沸かせるかね!」


「え、ええ」


「よっしゃよっしゃ! ほしたらさ、お風呂上がりにおこたで宴会しようや! お酒も飲んでさぁ! いいやんいいやん~! だってヨツシアに来て初めての『仲間』やけんねぇ!」


「え……仲間って……ばあちゃん?!」


「ヴィヴィちゃん! OH! YOU!」


「オゥ? ユー? あ……お湯! は、はい!」


「ちょ、ちょっと待てよばあちゃん!」


「ふへへぇ~、今夜は楽しくなるばい~! まだ夜は始まったばかりやけんねぇ~! くさ手ぇ~!!!」



 ――シュルババ!!!



 ばあちゃんは勢いそのままに内装を作り始めた。


 むっちゃくちゃテンション上がってるじゃないか……


 久しぶりに孫に会う祖母のテンションだ。



「あんたら……ただの旅人やないろう?」



 ポッコが、ちらりとばあちゃんを見やり、続ける。



「あの人……イオリさんとか言うたか? あの人は何者ながや? 見たとこ……ただの亜人いうわけでもなさそうやが」


「そうでございます! 詠唱無しで、この規模の魔法をこんなに素早く……これは帝国魔導士すら凌駕する魔導技術でございますよ?!」



 ミルカに至っては声を震わせ半泣きである。


 うん……


 そうなるよね。


 ばあちゃんの魔法はチートすぎるし、見た目(くさ手はマンイーターの触手)がグロくてヤバいもんな。


 俺たちはばあちゃんの異常性に慣れ過ぎていた。



「あ~……俺たち、怪しい者じゃな――はっ……」



 うっわ。


 今自分で「怪しい者じゃない」って言いそうになって、あまりのテンプレ台詞に吹き出しそうになった。


 でも、その場になったら本当に出ちゃうからテンプレなんだろうな。


 だけど俺たちの場合は――



「ごめん、俺たち『怪しい者ではある』けど……悪い人たちじゃないから……多分」



 ポッコは俺とミルカの間にそっと立ち、さりげなくミルカを庇っている。


 あからさまな警戒心は無く、俺たちへの配慮も忘れていない感じだ……


 さすがだよ、ポッコ。



「そんなに身構えないでよ。えっと……ばあちゃんは……フォクシーエルフって種族なんだけど、聞いたことある?」


「え……あの方、エルフなんですか?!」



 ミルカがポッコの陰から顔を覗かせ問いかけてきた。



「エルフと言えば古人いにしえびとでございますよね?! 文献でしか見たことはありませんでしたが……本当に実在するとは……」


「いにしえびと? やっぱエルフってそんなに珍しいんだ」


「そうでございますね……フォクシーエルフというのは初耳ですが――えっと、珍しいというか……エルフは1000年前に滅ぼされたはずでございます」


「え……滅ぼされた? なんで?」


「元より少数の民族だったようですが、1000年前の聖戦において、魔族側に与したようで……その時に殲滅されたと教会の文献に書かれておりました」


「そう、なんだ……」



 1000年前に魔族と一緒に?


 でも教会の文献か……どこまで信用していいのか……


 もっと詳しく聞きたいな。



「と、とりあえずさ、お家が出来たら、中に入ろうか。お風呂も沸かすみたいだし……その後で色々説明するからさ。いいだろ? ポッコ?」


「そうやねや……ワシたちに害を加えるつもりなら、いつじゃち出来たろうし、そもそもワシとミルカが争うちょらざったら、出会う事も無かったろうきねや」


「確かに……そうでございますね」


「この人らの『怪しさ』は満点やけんど、イオリさんのあの振舞い……心の底からワシらを歓迎しちゅー感じや。それに……な――」



 そこまで言って、ポッコは瞳を潤ませ、一瞬言葉に詰まってしまった。


 お腹のあたりのモフモフの毛に手を突っ込んだかと思うと、おもむろに手拭いを取り出し瞳を拭った。


 手拭い、そこから出してたのか?!


 なに?! その毛むくじゃらのなか、どうなってんの?!



「あの人……ワシらの事、『仲間』といってくれたがじゃ……こりゃ――たまらんぜよ。ミルカよ、すまん。ワシ……あの言葉に打ち抜かれてしもうた。もう、どうにもならんぜよ。それが嘘でも……えい。今宵限りの夢でも……えい。生まれて初めて訪れた、この甘美な誘惑に……このワシの身、委ねさせてくれんか?」



 し、渋すぎるだろうポッコ……


 タヌキが5歳でここまで大人になれるのか。


 でも、そうだ。


 人間にしたら40年以上の体感……


 40年以上の孤独か。


 ポッコ……俺もう……


 お前の事、好きになりつつあるぞ!



「は、はい……そうでございますね……ポ、ポッコさん……泣かないで下さいまし」


「おうよ……おまさんは優しい子やねや」


「ポッコさんこそ」


「おまさん……レンさんやったねや? せっかくやき、今日のとこは世話にならしてくれ。こちらからお願いするぜよ……えいか?」



 ……いいに決まってる。


 本当は赤札とか心配事はあるけど――


 俺もお前にほだされた!


 もう……いい!!!



「ああ……もちろんだよ! 内装が出来るまでもう少しかかるだろうから――」



 ――「出来たばい~!」――


 ――「「「はや!!!」」」――



 ばあちゃんは速攻で江藤書店を模倣した内装を作り上げてしまった。


 それにしても速すぎるんじゃないか?


 そう言えばサリサが言っていたな――



 ――『どうやら伊織は教えてもらうより、実際に見た方が上達するようだ。こういう奴は、いくら教えても無駄だが、実際に見て『出来る』と思えば出来てしまう。ある種の天才……直感タイプの極北のようなやつだな』――



 ばあちゃんは一度『出来る』と思ったものは、出来てしまう。


 まあ、コピー書店はヒゼデジールですでに作ってたからな。


 朝飯前――ならぬ、晩酌前なんだろう。



「蓮ちゃん! なんばしよっとね! はよ中入りぃ! 冷えるが! 二人はお風呂!」



 ――「「「は、はい!!!」」」――



 俺たちは促されるままコピー書店に入り、まず二人は順に風呂に入ることになった。




 ◇     ◇     ◇




 ――じゃばぁ~ん……かっぽーん……



 風呂から上がったポッコは、さらにモフモフ度が増し、もうタヌキかどうかも分からないくらいの『丸』だ。



「なんな? あのアワアワとトロトロ! こじゃんと毛並みがえい感じになるがやけんど!」



 全身からはサロン・ド・サリサ特製のシャンプーとコンディショナーの香りがしている。



「そうでございますよね?! 私の髪の毛も指どおりが全く違います。それになんていい香りなのでございましょう……こんなのエストキオにもございません」



 良かったなサリサ。


 お前が作ったシャンプー、ここでも大評判だぞ。



「ふふふ! ポッコさん、更に愛くるしさに磨きがかかっておられますよ」


「そりゃばっさりや(それは残念だ)。そりゃワシの望むとこじゃないがやけんどな。ワシは魔人らしい威厳が欲しいがじゃ」


「い~え、ポッコさんはポッコさんのままで十分だと……私は思います」


「ミルカ……おまさんはほんまにえい奴やねや~!」



 さっきまで芋を盗った盗らないで、取っ組み合ってた二人とは思えないほど、二人の距離は縮まっている。


 お互い似たような境遇だからか。


 しかし、『魔女っ娘』と『金色の毛玉』の仲の良いやり取りは、はたから見てても微笑ましい。



「よっしゃ! 二人ともお風呂上がったね! ポッコちゃんはお酒いける口ね?」


「いや、飲んだことはないぜよ。やけんど、どんなものか試してみたい。貰えるか?」


「よっしゃよっしゃ! ミルカちゃんは~……お酒はまだやね。ヴィヴィちゃん、なんか美味しい飲み物あるね?」


「ゴドーさんから、果物も頂いてますので、絞ってジュースを作りましょうか」


「いいやんいいやん! お願いします!」



 それからは、完全にばあちゃんのペースだった。



「新しい仲間に、かんぱ~い!!!」


「……な、仲間……」


「よかったでございますね……ポッコさん」


「うん……うん!」



 ばあちゃんはよほどポッコとミルカの事が気に入ったのか、上機嫌で酒を煽り続けた。



「ほりゃあ! ポッコちゃん! どんどん飲みんしゃい!」



「――ズボッ! この酒いうがは、まっこと美味いのう! ぐびぃ! そしてこのおこた……たまらんぜよ!!! ズボッ!」



 ポッコはこたつが気に入ったのか、ヴィヴィと同じように酒を口にするときだけ、まるでモグラたたきのように顔を出している。



「そうやろそうやろ~! ミルカちゃんもジュース飲んどるね?」


「ええ。美味しく頂いております」


「――ズボッ! 他の果物もありますからね。欲しくなったら言ってくだズボッ!」



 おこたの前では、さすがのヴィヴィもただの猫に戻ってしまうな。


 とまあ、こんな感じで飲み続け、案の定……



 ――ぐおぉぉ……すぴ~~~



 真っ先に酔いつぶれてしまった。



「ズボッ……伊織さま……眠ってしまわれましたね……」



 ヴィヴィがあきらめ顔でこたつから這い出し、ひっくり返ったばあちゃんに布団を掛けてあげている。



「全く……どんだけマイペースなんだこの人は……ごめんね、二人とも」


「ズボッ! いやいや、まっこと面白い人やねや。この伊織さんちゅう人は……嫌味がないちゅうか、裏表がないちゅうか」


「本当でございますね。言葉がそのまま伝わってくるような方で――」



 ――ぐおぉぉぉぃ!!!



「凄いなマジで……」


《伊織さま、今日は相当に魔力を消費されましたからね。いつもより酔いのまわりが速いのでしょう》


「んん? 魔力の消費って……小屋建てるくらいだったら、ばあちゃんにはどうってことないんじゃないの?」


《やはりお気づきではなかったのですね……まあ、あれだけ伊織さまが騒げば無理もないでしょう》


「どういう意味だよ」


《外をご覧下さい》



 俺たちはチエちゃんに言われるまま、外の様子を見に扉を開いた。



「な……なんだこれ……」



 小屋の外では、いくつもの触手が地面から空に向かって伸びていて、その先端には魔物が絡めとられ宙づりにされていた。



《テンマさまもいらっしゃることですし、伊織さま、飲みながらもずっと小屋を護ってらっしゃったんですよ》



 じゃあ、この魔物たち……小屋に襲い掛かってきた魔物なのか?!



「す、すごい……この魔物たち……試験で指定された魔物もいます! かなり強い魔物なのに!」



 ミルカは信じられないという様子で、フラフラと小屋から歩み出た。



《あ! ミルカさま! お気を付けください! 触手の根を踏むと『自動的に捕縛』するように設定されて――》



 ――シュルバババ! ギュウ~~~ン!!!



「きゃあ~~~!!!」



 触手はミルカの足に絡みつき、そのまま空に向かって5メートルほどミルカを吊るしあげた。



《――ってそうでした……私の声は聞こえてないんでしたね》


「ばあちゃん……いつの間にこんな使い方を覚えたんだ……しかも酔いつぶれてるのに」


「あっぽろけじゃのう(驚いたな)……こがなんまで出来るとは」


「伊織さまですから……もう何があっても驚きません。ふふ」



 ヴィヴィが肩をすくめてあきれ顔で笑った。



「だね……」



 暫くのあいだ俺たちは、吊るしあげられたミルカを見上げ、あっけに取られていた。



「み、見てないで降ろしてくださいまし~~~!!!」







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