表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/192

150 似た者同士

 ● タヌキ【狸】



「こいとチュルチュル、まっこと美味いのう!」



 ① イヌ科タヌキ属に分類される哺乳類で、雑食性の野生動物。ずんぐりした体型と目の周りの黒い模様が特徴で、里山や市街地にも生息している。


 ② 人のよさそうなふりをしていて、実際にはずるがしこい者。「あの親父はとんだ—だ」。――院多熱徒書房 刊――



《読めましたか? ヴィヴィさま》



 チエちゃんが、ヴィヴィに念話で辞典の映像を共有している。


 辞典系の知識などは、重要かつ汎用性が高いので、常に一時記憶に格納しているそうだ。



「はい! 読めます! へぇ~、ずるがしこい人のこともタヌキと呼ぶんですね。知りませんでした」


《ええ。他にも『タヌキ寝入り』なども使われますね。続いては、こちらの世界の辞典で彼女……魔導士の事も調べてみましょう》



 ● まどうし【魔導士】



「ぷはぁ~! 本当でございますね! こんなに美味しいもの、初めて頂きました」



 ① 高い知能を持ち、魔力の扱いに長け、魔法を使いこなす人物を指す。ヒズリアでは帝国を中心に多くの魔導士が存在し、とりわけ帝国が認める『帝国魔導士』は、人々から畏怖と敬意を集める。


 ② 呼称については、総じて『魔導士』と呼ばれるが、魔法を扱う成人女性を『魔女』、成人男性を『魔導士』とする場合が多い。まだ成人していない少女は『魔女(まじょ)っ娘』、少年は『魔導(まど)っ子』と呼ぶ。――エストキオ学術院 刊――



「あ、これは知ってます! あれ? これ……エストキオ学術院の院長、マルーク氏が書いた辞典ですよね?」


《ご存知なんですか?》


「ええ! 『ヒズリアの辞典』と言ったらこれですから。ただ、あまり出回っていない為、希少価値が高く、かなりの高級品です」


《へぇ……そうですか、高級な書物……ふふふ》


「私も欲しかったんですが、さすがに高くて無理でした。どこで手に入れたんですか?」


《いえ、実はこの馬車の荷台の隙間に挟まっていました。全編ではなく一部のみでしたので、恐らく挟まって千切れたのでしょう。私も暫く気付かなかったのですが、くさコプターを発動した際、隙間が緩んだのではないでしょうか。今日の移動の振動で出てきたので、先ほど急いで読み込みました》



 くさコプターの揺れは相当激しかったからなぁ。


 あの揺れは二度と味わいたくない。



「ああ~、それで突然、『辞典風解説』をしてくれたんですね」


《差し出がましい真似をしてしまい、申し訳ありません》


「いえ! チエさまのご厚意、痛み入ります」



 ――《ふふ》「ふふ」――



 などと、二人は微笑ましい会話を繰り広げている。


 チエちゃんとヴィヴィは本当に仲がいい。


 商店街の面々の中で、一番付き合いが長い二人だからな。


 しかし、一部とはいえ、エストキオの辞典をチエちゃんが手に入れたのは嬉しい誤算だ。


 タクロス会長……馬車の中、汚かったからなぁ。気づかないうちに挟まっていたんだろう。


 だが――


『まじょっこ』は現世でも耳馴染みがあるが……『まどっこ』って初めて聞いたな。


 この辞典をつくったエストキオの学者、マルークという奴……大丈夫か?


 まあ、この辞典によれば、この魔導士の彼女の場合は――


 まだ『魔女っ娘』と呼んでよさそうな年齢だな。



 ――「チュルルン」「じゅるるるぅ……」――



 そのタヌキと魔女っ娘が並んでラーメンを食べている。


 タヌキは真ん丸な身体をピンと伸ばし、僅かに楕円の状態で行儀よく椅子に腰かけている。


 その短い手を器用に使い、レンゲと箸を見事に使いこなす姿は……



「こじゃんとえいのぅ。(とてもいいです)身体も温まるし、最高やねやぁ。チュルルルルン」



 可愛すぎる!!! 


 それとは対照的に、魔女っ娘の食べ方は――



「じゅるるるるぅ……ぺちゃぺちゃ……」



 背筋は曲がり、どんぶりに顔を近づけほぼ犬喰い状態だ。


 麺もスープもこぼしまくっている。


『箸はなぜ二本あるのか』の意味を全く理解していないのか、がっつりグーで握り込み、ラーメンをかき混ぜながら口に運んでいる。



「本当に染みわたります……もう何日もまともな食事をしていなかったので、助かりました。うふふふ……ぺちゃぺちゃ」



 汚い食べ方と丁寧な言葉遣いのミスマッチが過ぎる。


 口の周りを豚骨スープでべたべたにして、歯にはネギが……


 すごく可愛い顔をしているのに、何だかもったいない。


 でも……この顔――


 どこかで見覚えがあるような……気のせいか?



「おまさん、食べ方が汚いぜよ。こいと箸いうがは、こがぁに使うと教えてもろうたろう? しっかりしや」


「え? 汚い……のでございますか? 私の食べ方が?」


「……気づいちょらんのか? おまさん、相当いかんで? 箸はこう! 背筋は伸ばさんと!」



 何だかチグハグな二人だな。


 なぜこの二人が、同じ食卓を囲んでいるのか。


 話は少し遡る。


 俺がタヌキの可愛さに見惚れ、神槌(しんつい)を失敗したあと――



 ――

 ――――

 ――――――



「魔人パンチ腹ぁ!!!」



 ――ぽふぅ!



 タヌキは魔女っ娘に『魔人パンチ腹』を何度も撃ち込んだ。


 どうやら魔人パンチ腹には、魔力を散らす効果があるらしく――



「うへへへぇ……うぅ?! は、はわわぁ~、も、もう……魔力が……つ、尽きてしまいますぅ……」



 魔女っ娘は魔力の枯渇による、ブラックアウト寸前だった。


 そして、タヌキの方は――



「どうながじゃ! めったか! これが魔人の力じゃ! これに懲りたら、もう人様ん畑のもんをとるような悪さは――ぐうぅぅぅ……ほはぁ~」



 勢いよく啖呵を切ったかと思うと、急に眼を回し始めた。



「し、しもうた……ま、魔人パンチは魔力を散らす代わりに、こじゃんと腹が減るがじゃ(大層お腹が減ります)……」


「ううぅ~、お、重いでございますぅ~」


「ちと撃ち込み過ぎたぜよ……がくっ」



 タヌキは魔女っ娘のお腹の上に倒れ込んでしまった。


 魔女っ娘はタヌキをどかそうとするが、力なくタヌキを抱きかかえる形になった。


 経緯を知らない者が見たら、仲の良い二人が抱き合っているような……


 ただただ、幸せそうな絵面がそこにあった。



「ありゃあ?! 二人とも動かんごとなってしもうたばい」


《どうやら二人とも魔力と体力の限界みたいですね》


「どげんするね? 蓮ちゃん……あ、鼻血、大丈夫ね?」


「ずるっ……ああ、止まった。大丈夫」


「なんか面倒そうやけん……こんまま逃げる?」



 二人が何者か分からないが、このまま冬の寒空の元、放置するわけにもいかず――



「このまま放っておいたら、凍え死んじゃうよ……二人ともお腹が減っているみたいだし、とりあえず何か食べさせよう」


「そうやねぇ……ねぇ、これも人助けになるんやろか?」


「う~ん……なるんじゃない?」


「私、ちょっと聞いてきます」



 ヴィヴィがトテトテと二人に近づき、目を回しているタヌキに話しかけた。



「あの~、タヌキさん」


「な……なんな?」


「とりあえず喧嘩はやめて、食事にしませんか?」


「め……めし?」


「ええ。彼女も悪気があってあなたの芋を盗んだわけじゃなさそうだし……このままじゃ、二人とも死んでしまいますよ? 温かいご飯あるので、食べましょうよ」



 タヌキは黒いつぶらな瞳で暫くヴィヴィを見つめた後、敵ではないと判断したのか――



「うん……そうする」



 可愛くひとつ頷いた。



 ――――――

 ――――

 ――



 というわけで今、二人にはラーメンをご馳走している。



「食べ方が汚い……申し訳ございません。私、あまり人と食事をする機会がなく、気にしたことが無くて」


「……そうなが? 家族はおらんがか?」


「父も母も早くに他界しております。歳の離れた姉が一人おりますが、数年前に旅へ出て以来、食卓を囲むことはほぼありませんでした。あ、申し遅れました。私、帝国魔導士……のミルカと申します」



 魔女っ娘の名前はミルカ。13歳。


 詳しいことはわからないが、この幼さでエリートと称される帝国魔導士だそうだ。


 帝国魔導士と聞き、俺たちは一瞬警戒したが……どうやら俺たちが赤札であることには気づいていないようなので、そのまま様子を見ることにした。



「そうながや……そりゃ寂しい思いをしたがやねや……わしは魔人……のポッコぜよ」



 タヌキの名前は魔人のポッコ。5歳だそうだ。


 この見た目でポッコは反則だ。可愛すぎる。


 全く魔人感がない。



《蓮さま……少々よろしいですか?》


「なに? チエちゃん」


《ポッコさま……魔人とのことですが……こちらをお読みください》



 ● まじん【魔人】


 ① 原魔の呪いにより、亜人が魔族化した者の総称。見た目は亜人より人族に近い。非常に好戦的で人類・人族を敵視する。強力な魔力を持ち、個体ごとに特化した強力なスキルを保持する。


 ② エストキオ神話から現在に至るまで、聖騎士団による粛清の対象であり、人々に混沌と絶望をもたらす災厄の象徴である。


 ※ 魔族を見つけたものは、即、最寄りの聖騎士団へ連絡されたし。 ※



「ん~、エストキオ、徹底してるね……神話だけじゃなくて、こういった書物も魔族は完全に悪なんだね」


《プロパガンダの側面もあるでしょう。ですが問題はここ――『見た目は亜人より人族に近い』。ポッコさまはどうみても――》



 どこからどうみても……タヌキだ。



《ですよね。亜人は『半獣半人』が基本ですから……ポッコさまは亜人でもなさそうです》


「ちょっと聞いてみようか……」


《ええ》


「ねえ、ポッコ……こんな事聞くのも失礼かもしれないけど……ポッコって本当に魔人なの?」



 ――カランッ……



 突然の俺の質問に、ポッコは目を丸くして固まってしまい、お箸を落とした。



「なにをいっちゅーがじゃ!!! わしは本当に――ッ! 本当に魔人――ごにょごにょ――のポッコぜよ!!!」



 な~んかさっきから『魔人』の後にごにょごにょ言っているのが怪しすぎる。



「えっと……なに? 魔人の後に何か言っているよね? なんて言っているの?」


「う……」


「魔人、なんなの?」


「…らな…」


「へ? らな? なに?」


「み……い」


「よく聞こえないよ。なんて言っているの?」


「うむぅぅ~」



 しつこく聞きすぎたのか、ポッコは俺の問いに戸惑いを隠せないようだ。


 黒い瞳が潤み、屋台のランプの光をゆらゆらと映している。


 皆の視線に耐えられなくなったのか――



「あ~~~もう! 『見習い』ぜよ! 魔 人 み な ら い !!! 悪かったぜよ! そうちや! わしは魔人やないぜよ! 魔人になりたいだけの亜人ちや!」



 そういうと、ポッコは屋台に突っ伏してしまった。



「……わしは生まれてこのかた、ずっと独りぜよ。どこに行っても、わしとおんなじような奴おらんぜよ……こん国は魔族の国や……魔人やない亜人は内陸には入れんがじゃ。やけんど、わしは魔人になれんやった出来損ないじゃ。ほんじゃあきにわしは、魔人になれるように、ここでひとり修行をしちゅーがじゃ。わしは魔人になって……仲間が欲しいがや……」



 なるほどね……


 魔人に憧れる亜人か。


 でも――



《ポッコさまの場合……動物が『亜人になる手前』の段階かと……》


「うん……でも、それは言わないであげよう……不憫すぎる」



 ――カランッ……



 屋台に突っ伏してしくしくと泣くポッコをみて、ミルカが箸を落とした。



「そ、そうだったのですね……わ、私も……正直に言います……実は私も『まだ』帝国魔導士ではないのです……試験中の帝国魔導士『見習い』なんです」



 ――「「「「え?!」」」」――



「もう何度も試験に落ちて……今は年に二回ある試験の為、このヨツシアに来ているのでございます……これで落ちたら10回目です」



 ――「「「「10回目?!」」」」――



「周りからは、『もうあきらめた方がいい』と言われておりますが……他に行く当ても、頼れる人もなく……私には魔導以外の取り柄がありません……ご覧の通り、食事のマナーも分からないポンコツでございます……せめてこの取り柄を活かして、生きていければと……なのでどうしても帝国魔導士になりたいのです」



 ミルカもなんかごにょごにょ言ってたから変だと思ったが、そういう事だったのか。



「そうながや……なんかわしら……似いちゅーねや」


「そうでございますね……」



 ――チュルルン、じゅるるるぅ



 二人は涙ながらに、またラーメンをすすり始めた。



《つまり……あれですね……このお二人は――》



 ● おちこぼれ【落ち零れ】


 ① 容器からこぼれて落ちたもの。

 ② 全部処理しきれないで残ったもの。余り物。「マンドラゴラの—を捨ててきてくれ」

 ③ ある組織や体制についていけない人(・・・・・・・・)を俗にいう。「あいつは、魔導の授業についていけない—だ」



《ということですね》


「ちえちゃん……追い打ちは良くないよ」


《すみません。新しい書物を手に入れて、嬉しくてつい……》



 俺たちの憐みの視線の中、ポッコとミルカは無言でラーメンを啜り続けた。







挿絵(By みてみん)



土佐弁の変換に時間がとられてしまい、更新が少し遅くなりました~( ノД`)シクシク…

間違った土佐弁じゃなければいいのですが……

でも、ポッコは可愛いので、頑張って書きます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
魔人ポッコ様の土佐弁かわいいです╰(*´︶`*)╯♡ 土佐弁、お疲れ様ぜよw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ