最悪の想定と実際の接触
別行動が仇になった、とは思わない。それだけ魅了系のスキルのレベルが高いのか、あるいは前から仕込みをしていたからか、そんなに時間をかけずにあの人数の非戦闘職「申請者」を魅了して見せたのは予想外だったものの、何かするのは分かっていたから。
ただ、非戦闘職の人達を魅了しきって、その足ですぐ満華の方へ向かうとは思っていない。とはいえ満華もあれからそれなりに慣れて、スキルこそ取ってないものの、マントを十全に使って身を隠せるようになっている。
それはつまり、私の方から満華を探し出すのは無理って事だ。ならどうするか。もちろん、フレンド登録をした事で連絡を取る事は出来るようになっているが、もし既に近くにいたら逆に居場所を知らせる事になりかねない。
「……」
私が移動した方向は、次の階層へ繋がる塔を正面として右斜め後ろ。非戦闘職の人達が固まって待機しているのは、塔から左斜め手前となる。そして満華が移動していったのは、塔の左側至近距離の筈だ。
ボスである黒いドラゴンは「存在感知」の端っこにギリギリ引っかかる場所で、再びスコープを覗き込んでボス戦の様子を見る。黒いドラゴンは激しく暴れまわり、時々飛び上がったりしているようだが、戦闘としてはこちら優位に進んでいるらしい。たぶん、そうかからず倒せるだろう。
一方非戦闘職の人達の様子は、ぱっと見える範囲では元通りになったようだ。ただその目をよく見るとやっぱりちょっと虚ろなので、魅了にはかかったままらしい。
「……もしかして、あの時は魅了にかけた直後だったとか?」
とすると、思ったより時間に余裕があったのかもしれない。とはいえ私も移動で時間を使っているし、楽に移動する手段ぐらいは持っているだろうけど。自分が楽をする為には手を抜かないから。その為の方法は別として。
「――事態は、悪い方に考える」
時間に余裕は無かったとする。とすると、現時点で既に満華に接触しているだろう。満華もひーちゃんもしっかりと魅了対策はしている。耐性付きの装備を作って強化したのは私だ。それこそ私の銃ぐらい桁外れな威力でもない限りは大丈夫な筈だ。
自分の思うように動かない相手は排除する。それがあれの行動方針だろう。ひーちゃんが強いとはいえ、満華が手札を隠す選択をするなら、ひーちゃんは「移動手段」として認識させる筈だ。つまり、逃げる。
魅了が失敗したら。逃げられて自分の失敗を悟った場合、どういう行動に出るか。……決まっている。
「安牌を取りに行く……」
すなわち、私の方に来るって事だ。
ここで改めて「存在感知」で周囲を探るが、何の反応もない。そこまで隠密系のスキルを鍛えているとは思えないが、そういうアイテムの1つ2つはあってもおかしくないだろうし、装備や他人のスキルでその辺補うのは私達もやっている。
だからこの場合の最適解は、逃げ回る事、だが。
「……」
更に最悪の事態は、ある。
それは、魅了対策が通用しなかった……満華とひーちゃんが、魅了にかかった場合、だ。
私の方から満華を見つける手段はない。何故なら、いつも一緒に行動していたという事以上に、私が見つけてもらう方だったからだ。ひーちゃんの感覚は、対生き物に関しては探知範囲も精度も上。だから、
「…………」
そう。
こうやって翼の音が聞こえて……すぐに見つかる。
全身を覆う鮮やかな緋色の鱗。金色の目。布と革で作られた鞍や、プロテクターのような装備。その背中に乗っている誰かは、慣れた様子でするりとそこから降りてきた。
「あっ、くーちゃんいたー」
人懐っこい笑顔で、にこにこと笑いながら、告げたのは。
「にゃんちゃんって思ったよりいい子だね! やっぱり話は両方から聞かなきゃいけないなー」
たぶん、私が言われて。これ以上に絶望する事は無いだろう、というものだった。
「誰だお前」
――戸籍上の妹が想像する限りの、と、つくが。




